ヨコハマ創造都市センターがつないだネットワーク——「創造都市横浜」の担い手たち Vol.5

Posted : 2015.03.31
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多くのクリエーターやアーティストが活動している横浜。アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)は、「つなぐ、ふやす、アートの現場」をキャッチフレーズに、彼らの誘致とその活動をサポートしてきたプロジェクトだ。ACYが6年間にわたって拠点としてきた「ヨコハマ創造都市センター」から、どのようなネットワークが生まれたのだろう?
ヨコハマ創造都市センター 外観

ヨコハマ創造都市センター 外観

 

横浜はアートとの親和性の高い街。アーティストやクリエーターが作品を発表する機会を多彩に提供し、彼らの創造性を育てる環境も充実している。そんな「創造都市・横浜」を支えてきた数々の「場所」の、これまでの道程とこれからについて探る全6回のシリーズ。今回は「ヨコハマ創造都市センター」の松井美鈴センター長にお話しいただいた。


 【ヨコハマ創造都市センターの基本データ(2009年5月-2015年3月期)】

*2015年6月30日より、特定非営利活動法人YCCによりリニューアルして運営されています。現在、アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)は、この建物内ではなく、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団の事務局(横浜市中区山下町2産業貿易センタービル1階)にて実施されています。(2015年6月29日追記)

2009年5月~15年3月にわたり、歴史的な建造物「旧第一銀行横浜支店」を活用して、さまざまな事業を運営してきた拠点(運営:公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)。中核事業としてアーツコミッション・ヨコハマ(ACY)を展開し、相談窓口の開設や、芸術不動産リノベーション・創造産業の支援をはじめ、助成金事業やアーティスト・イン・レジデンス交流事業など、まちとアートをつなぐ活動を展開。アーティストやクリエーターの活動をサポートすることで文化芸術創造都市横浜の推進を担ってきた。


「横浜創造都市センター」松井美鈴センター長

「ヨコハマ創造都市センター」松井美鈴センター長

 
“相談窓口”としてのスタートから見えてきたこと

「アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)は、横浜市が2004年から取り組んでいる創造都市施策のもと、2007年にスタートしたプロジェクトです。創造都市施策には『文化・産業・経済』の3つの柱があり、ACYはそのうちの『文化』を担うものでした。

当時は横浜市指定有形文化財の『旧関東財務局』が、若手のアーティスト・クリエーターの活動拠点『ZAIM』として暫定的に活用されていて、ACYもここに拠点を構えて活動していたんです。当初のACYは、横浜でクリエイティブな活動を行う人たちのさまざまな相談に応える『相談窓口・コーディネート』が主な仕事でした。彼らの活動をソフト面でサポートしていたんですね。継続的に使えるアトリエや事務所を設けたい、展覧会や公演の会場を探している、チラシを作ってくれるデザイナーはいないだろうか――。そんなたくさんの相談ごとが出てきました。

2008年からは助成金事業として、アーティストの作品創作や、活動の拠点づくりをサポートするための助成プログラムを開設し、ソフト面だけでなく金銭面の支援体制の仕組みも徐々に立ち上げていったんです。ACYができることを模索しながら、その基盤を作っていった時期でした。」

「空間」を持つことの“強み”

「ZAIMもそうですが、横浜は、歴史的な建造物を芸術文化のクリエーションの場として活用する施設を、いくつもオープンしてきた都市です。YCCの建物、旧第一銀行横浜支店もそのひとつで、移転と改築を経て2004年から現代アートスペース『BankART1929 Yokohama』としての活用がスタートしました。その後2009年から、創造都市施策のセンターとしての役割を担う『ヨコハマ創造都市センター(YCC)』として、私たち(公財)横浜市芸術文化振興財団がこの場所を運営することになりました。そこでYCCの中核事業として、ACYはいよいよ『場』を持った運営ができるようになったんです。

「関内外OPEN!5」のフィナーレを飾った「関内外交流会」@ヨコハマ創造都市センター(2013年11月2日(土))

「関内外OPEN!5」のフィナーレを飾った「関内外交流会」@ヨコハマ創造都市センター(2013年11月2日(土))

『場』を持つということは、ACYにとって大きなインセンティブになりました。これまで培ってきたコーディネーションのノウハウを生かしながら、人と人が出会う機会をよりフレキシブルに生み出していくことができるようになった。例えば2009年から始まった『関内外OPEN!』は、横浜で活動するアーティストやクリエーターがスタジオをオープンするイベントですが、会期中は彼らの議論や交流の場をYCCで開いていったんです。アーティストやクリエーターのサポートの幅が広がったと思っています。」

 
 
“制約”の中で新たなチャレンジも

「ACYが拠点を持った運営を展開できるようになったわけですが、2009~11年の最初の3年間は、年度ごとに更新する単年度の契約だったため、“場”を生かす活動も試行錯誤。けれどもオープン時からYCCには、創造都市施策に資する事業を担っていくことが求められていた。そこで制約のある単年度運営の中でも、新たなプログラムを考えていきました。

2009年には、韓国および中国との間で『アーティスト・イン・レジデンス交流プログラム』をACYで立ち上げて継続しています。このプログラムでも、重視していたのは異なる文化の“交流”なんですね。アーティストは異国でのフィールドリサーチをはじめ、地元の市民やアーティストとの交流が生まれるトークやワークショップなどを行っています。

またACYとは別の枠組みですが、2011年からは横浜国立大学、横浜市立大学と協働して『YCCスクール』という教育プログラムを始めました。このスクールは学生だけでなく市民にも開かれていて、創造都市横浜の担い手の育成にも力を入れたんです。このようにできることの可能性は広がっていきました。

一方で、単年度の運営のため場を生かすための中長期的な構想をなかなか練ることができない難しさもありました。」

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アーティスト・イン・レジデンス交流プログラムで中国・成都から来日した吉磊(ジー・レイ)@YCC(2014年8月~11月)

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創造的な“ネットワーク”の広がり

「2012年度からは3年間の施設運営をお任せいただけることになったこともあり、ようやく中長期的なスパンで先のことを見据えた事業の立案ができるようになっていきましたね。運営面で苦しんだこれまでの数年の中で、少しずつ築いていった横浜の企業や団体、サポートしてきたクリエーターやアーティストとのネットワークも着実に広がっていました。YCCが創造都市横浜のひとつの拠点としての役割を担ううえで、このような基盤が安定してきたこともあり、この3年はじっくりと活動することができました。

FAB9会期中に日本で6番目・横浜初のファブラボが関内にオープン、オープニングの様子@ファブラボ関内(2013年8月26日(月))

FAB9会期中に日本で6番目・横浜初のファブラボが関内にオープン、オープニングの様子@ファブラボ関内(2013年8月26日(月))

国際的な注目を集めるものづくりのムーブメント『ファブラボ』の『第9回世界ファブラボ代表者会議(FAB9)』(2013年8月)を、日本で初めて横浜で開催したことは大きかったです。YCCを中心に、横浜都心部の複数の施設で、講演会や、3Dプリンターやレーザーカッターといった機材を使ったワークショップが開かれた。この会議では、横浜のものづくりの現場と世界のクリエーターの間に、新たな交流が生まれました。

3年間というスパンで運営を捉えることができるようになったひとつの成果としては、『ヨコハマトリエンナーレ2014』との連携や、『東アジア文化都市2014横浜』への参画も挙げられます。この時はアーティスト・イン・レジデンス事業と連動し、アジアにフォーカスした『Find ASIA』というプログラムを実施しました。また『クリエーターのサポート』の側面からは、企業や行政の事業に、アートディレクションを手がけることのできるクリエーターを紹介する『デザイナー推薦制度』をはじめ、地元企業とクリエーターのマッチングによって新商品を開発するプロジェクトなど、産業とクリエイティビティを融合する試みを始動することができた。いずれも長い時間をかけて積み上げてきた、YCC/ACYのネットワークの力によるものです。

『Find ASIA』

『Find ASIA』横浜で出逢う、アジアの創造の担い手 – 東アジア文化都市2014横浜 -(2014年8月~11月)

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横浜初の“公民連携”プロジェクト「BUKATSUDO」

「2014年6月には、みなとみらいエリアにある横浜ランドマークタワー ドックヤードガーデンの地下1階スペースに、横浜における新たな創造的な活動拠点『BUKATSUDO』がオープンしました。(公財)横浜市芸術文化振興財団がこのスペースを借り受け、そこを活用する民間事業者を公募しましたが、ACYはこの施設の立ち上げにあたりコーディネーションを担いました。『BUKATSUDO』は大人のためのシェアスペースとして、自主的な活動の場、そしてワークスペースとしても使われており、“公民連携”プロジェクトとしても注目を集めています。これはACYが培ってきた、クリエーターの拠点づくりのための不動産のリノベーションサポートのノウハウにより実現できたことです。」

6月25日にプレ・オープンした「BUKATSUDO」

株式会社リビタの北島優さん(左)、NUMABOOKSの内沼晋太郎さん(右)

 
前例が無ければ新たにつくる、ACYのサポートのかたち

「創造的な活動をサポートするためには、前例にならっているだけでは追いつきません。前例が無ければ新しい枠組みを作る。現状に対応する柔軟さが、ACYの活動には常に求められてきました。

(公財)横浜市芸術文化振興財団本部は平成27年4月から、YCCの施設運営からは離れることになりましたが、ACYの活動そのものはこれまでどおり財団本部(産業貿易センター内)に事務所を移行して継続します。ACYは、YCCという場を得た6年の間に、多くのネットワークを蓄積することができました。ACYだからこそできるサポートの形を生み出しながら、これからも、また新しいスタートを切ることを期待しています。」