アーティスト・クリエーターが集まる場 ――「創造都市横浜」の担い手たち vol.6

Posted : 2015.04.13
  • facebook
  • twitter
  • mail
アーティストやクリエーターの活動拠点をまちなかにつくりだし、都市の創造性を高めるさまざまな取り組みを行ってきた横浜。築20年以上の建築物を改修して、アーティストやクリエーターの活動の場としてオープンしたスペースが横浜にはいくつもある。シリーズの最終回となる今回は、そんな独自の活動を行ってきたいくつかの拠点をご紹介しよう。
kotto

アート+骨董マーケット Archiship Library&Café




 

横浜はアートとの親和性の高い街。アーティストやクリエーターが作品を発表する機会を多彩に提供し、彼らの創造性を育てる環境も充実している。そんな「創造都市・横浜」を支えてきた数々の「場所」の、これまでの道程とこれからについて探る全6回のシリーズ。最終回となる今回は、創造都市横浜の歩みとともに独自の活動を行っている5つの民間の創造拠点を紹介する。

アーティスト・クリエーターが集まる5つの拠点

宇徳ビルヨンカイ
CHAP(長者町アートプラネット)
八○○中心
Archiship Library&Café
さくらWORKS<関内>


宇徳ビルヨンカイ
建築、デザイン、アートなど…
ビルのワンフロアがまるごとクリエーターの拠点に

 

馬車道駅から歩いて2分ほど、創業120年を超える海運会社・宇徳が所有する建物。実はこのビルのワンフロアに、アーティストやクリエーターのオフィスやアトリエが集合している。「宇徳ビルヨンカイ」は、2010年にオープンしたシェアオフィスだ。現在の入居者数は19組、横浜で活動する建築設計事務所やデザイン会社、アーティストのアトリエなどが集まっている。

宇徳ビルヨンカイの主な入居者たちは、2005年に横浜市・中区の北仲地区で行われた実験的な取り組み「北仲BRICK&WHITE」に入居していたメンバーであるという。その後、同じく北仲地区にあった本町ビルのフロアを活用して誕生した本町ビルシゴカイ(2010年クローズ)を経て、現在の宇徳ビルヨンカイが立ち上がった。そもそものはじまりが株式会社宇徳のCSRの一環でもあったこのスペースは、NPO法人BankART1929の協力によって実現したという歴史がある。横浜ならではのストーリーだ。

そんな宇徳ビルヨンカイの今後の展望について、幹事を務める、入居者の株式会社abanba一級建築士事務所代表・番場俊宏さんに聞いた。

「OBや外部の方々を交えた拡大ヨンカイギや、海外事例の視察や街のキーマンに会いに行く出張ヨンカイギなど活動の幅も広がりはじめました。現在は「街に出よう」をテーマに、ヨンカイ全体での活動をより活発なものにできるように、話し合いを進めているところです。」(宇徳ビルヨンカイ・幹事 番場俊宏さん)

宇徳ビルヨンカイ

宇徳ビルヨンカイ

【宇徳ビルヨンカイの基本データ】
建物名(エリア):宇徳ビル(横浜市中区/馬車道)
オープン:2010年
住所:〒231-0007 神奈川県横浜市中区弁天通6-85 宇徳ビル
最寄り駅:みなとみらい線「馬車道駅」
http://utokuyonkai.com/

 

 


CHAP(長者町アートプラネット)
アーティストとNPOが連携し運営するアート複合ビル
町に寄り添う活動が魅力のアーティストが入居

 

日ノ出町駅周辺の繁華街の一画に、「CHAP」の愛称で知られる長者町アートプラネットがある。CHAPは、建物を所有する個人のオーナーがNPO法人黄金町エリアマネジメントセンターと共同で立ち上げたスペースだ。長者町・黄金町エリアで活躍するアーティストの竹本真紀さんを中心に、その運営をアーティストが担っていることでも知られる。

CHAP(長者町アートプラネット)

CHAP(長者町アートプラネット)

ビル一棟がまるごと創造拠点になっているCHAPには、現在は5組のアーティストが入居している。彼らは地域に密着した活動を展開することで、それを地域の魅力づくりにつなげていくきっかけをつくっている。アーティストは町内会行事に参加するし、また町内会がアーティストに仕事を依頼したり展示に協力するなど、街とアーティストがつながる場として機能しているのだ。講座や公演なども頻繁に実施されていて、レンタルができるスペースもある。年に一回開催されるアートイベント「長者町アート☆プラネタリウム」も見逃せない。

【CHAP(長者町アートプラネット)の基本データ】
建物名(エリア):第一田浦ビル(横浜市中区/長者町7~9丁目)
オープン:2011年
住所:〒231-0033 神奈川県横浜市中区長者町9-159
最寄り駅:京急線「日ノ出町」駅
お問い合わせ:080-8824-5234
http://artplanet159.web.fc2.com/


八○○中心
中華街の一画に創造拠点が!
映画人などのクリエーターが集う場

 

横浜中華街の中心部、ユニークな立地で人目を引く「八○○中心」は、8組のアーティスト、クリエーターが拠点を構えるシェアオフィスだ。このビルは、当時老朽化が進んで空室が目立つ中、オーナーが建築事務所に設計改修を依頼して、シェアオフィスとして再生したもの。その設計を手掛けたのは、現在宇徳ビルヨンカイに拠点を構えるオンデザインパートナーズだ。横浜の人と人のつながりが、ここでも新たな場を生み出している。

八○○中心

八○○中心

八○○中心には、『ヨコハマメリー』(2006年)の映画監督・中村高寛さんが入居していたり、俳優であり映画監督でもある利重剛さんがスタジオを開いていたりと、映画人も集う。現在は、中村さんがプロデュースを、利重さんが監督・脚本を手掛ける『Life works(ライフワークス)』の製作が進行中。横浜の街を舞台に、日常を生きる普通の人々を主人公にした短編の連作だ。本作は利重さんが八○○中心に構える俳優のためのスタジオ「LIFE WORKS studio」の活動と連動していて、ここで生まれた俳優の動きが作品の中に登場しているのだそう。上映予定などの詳細はウェブサイトでチェックを!

横浜を舞台にした連作ショートフィルム
『Life works(ライフワークス)』
http://lifeworks-film.com/index.html

 

【八○○中心の基本データ】
建物名(エリア):金田ビル(横浜市中区/横浜中華街)
オープン:2011年
住所:横浜市中区山下町217
最寄り駅:みなとみらい線「元町・中華街」駅
http://blog.800ccc.jp/


Archiship Library & Café
建築家が集めた3,500冊の本を開放!
居心地の良さが人気のブックカフェ

 

美食家をうならせるレストランやBarが立ち並び、賑わいをみせる吉田町エリア。「Archiship Library & Café」は、そんな商店街の中でもひときわスタイリッシュなスペースだ。ここは飯田善彦建築工房が“設計事務所をまちにひらいてみよう”というコンセプトで、1階をブックカフェ、2階を設計事務所としてオープンしたスペース。ブックカフェでは、建築家・飯田さんが30年かけて収集した貴重な蔵書約3,500冊を自由に読むことができる。ドリンクを飲みながら本を読んだり、自分の仕事をしたりと思い思いに過ごしていい、ぜいたくな空間だ。ここでは建築にまつわる催しだけでなく、さまざまなイベントも行われている。特に毎年春・秋に開催されるアート+骨董マーケットは地元のファンも多く、例年大盛況のプログラムだ。

このスペースが開かれるきっかけとなったのは、2008年に急な坂スタジオが仕掛けた、吉田町エリアを舞台に上演した演劇作品『ラ・マレア』(マリアーノ・ペンソッティ作、急な坂スタジオ、アーツコミッション・ヨコハマ共催事業)だった。公演をきっかけに街とのネットワークが生まれ、長いあいだ空き店舗となっていた場所の再生が実現した。

Archiship-LibraryCafe

Archiship Library & Café

【Archiship Library & Caféのオープン時間】
火~金曜日:13時~18時、土曜日:12時~18時(月・日・祝日はクローズ)
1ドリンク+クッキー:500円(学生200円)

 【Archiship Library & Caféの基本データ】
建物名(エリア):吉田町第一共同ビル(横浜市中区/吉田町)
オープン:2012年
住所:横浜市中区吉田町4-9

最寄り駅:JR関内駅・横浜市営地下鉄ブルーライン「関内」駅
お問い合わせ:libraryandcafe@gmail.com
https://libraryandcafe.wordpress.com


さくらWORKS<関内>
多様なワークシーンや活動で、
参加者が主体になることができる拠点

 

春には見事な八重桜が花を咲かせる「関内桜通り」沿いに位置する「さくらWORKS<関内>」。横浜でまちづくりを実践するNPO法人「横浜コミュニティデザイン・ラボ」が運営する、会員制のシェアオフィスだ。市内のアーティストたちとともに同ビルを改修し、キッチン付きの多目的スペースを備える、クリエイティブなシェアオフィスが誕生した。さくらWORKSのシェアオフィスは、利用時間、固定席、会議室等の使用条件によって4つのプランに分かれている。自分のワークスタイルに合わせて、利用方法を選ぶことができるのがうれしい。

さくらWORKSの入居者には、まちづくりや若者支援に関わる団体、ライター・デザイナー・プログラマー・大学教授・編集者・起業家・企画者など、個性豊かなメンバーが集まっている。横浜都心臨海部のニュースサイト「ヨコハマ経済新聞」のほか、地域に暮らす市民や企業が地域の社会的な活動を応援するクラウドファンディングとスキルマッチング機能を備えたウェブサイト「LOCAL GOOD YOKOHAMA」の運営や、3Dプリンターやレーザーカッター、デジタルミシンなどを備えたものづくり工房「ファブラボ関内」など、自ら事を起こしたい人々が集まるプロジェクトを多数行っている。今後の活動からも目が離せない、参加者が主体になることが出来る横浜ならではの創造拠点だ。

taisei

さくらWORKS<関内>

【さくらWORKS<関内>の基本データ】
建物名(エリア):泰生ビル(横浜市中区/関内さくら通り)
オープン:2012年
住所:231-0012 横浜市中区相生町3-61 泰生ビル2F
最寄り駅:JR「関内」駅、みなとみらい線「馬車道」駅
お問い合わせ:045-664-9009
http://sakuraworks.org/

 


 
まちにスペースが生まれる仕組み 

これらの創造拠点は、「アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)」の「芸術不動産リノベーション」助成を活用して誕生しました。シリーズ vol.5 では、「ヨコハマ創造都市センター(YCC)」と、その中核事業「ACY」について取り上げています。