「横浜マラソン」―シンボルマーク誕生のストーリー

Posted : 2014.07.04
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市民が待ちに待ったフルマラソン「横浜マラソン2015」ランナーのエントリーが7月10日からスタート! 2万5千人のランナーが港町・横浜を駆け抜ける。そんな「横浜マラソン」とクリエーターが出会い、ダイナミックなシンボルマークが生まれた。このマークができるまで、どのようなストーリーがあったのだろう?
左:山下良平さん(イラストレーター) 右:満島弘さん(デザイナー)

左:山下良平さん(イラストレーター) 右:満島弘さん(デザイナー)

 

横浜全体が動き出すような躍動感―シンボルマークに込められた思い

 

カラフルな円が集まり、コースの奥行きを感じさせる「横浜マラソン2015」のシンボルマーク。描かれているのは、色鮮やかなウェアのランナーがいっせいに走り出すシーンだ。

「初のフルマラソンの開催ということで、2万人、3万人の人が参加するというエネルギーの物量感を出したいと思いました。横浜全体が動き出すような躍動感ですね。それを考えたときに、俯瞰でスタートの様子を捉えるということを思いついたんです。」

横浜マラソン2015シンボルマーク

横浜マラソン2015シンボルマーク

横浜マラソン2015シンボルマークの原画

横浜マラソン2015シンボルマークの原画

 

横浜マラソンのシンボルマークの原画を制作したのは、イラストレーターの山下良平さんだ。山下さんはマガジンハウス「Tarzan」の表紙、ナイキ、ハーレーダビッドソン等のビジュアル作成を手がける、いま第一線で活躍しているクリエーター。活動の拠点を横浜市内に構えている。「躍動」をテーマに、スポーツする人の身体や動きそのものを捉え、見る人を引き込む作風だ。山下さんがイラストを描くとき、心のカメラでアングルをさまざまに変え、これだというシーンを探っていくのだそう。今回描かれたスタートのシーンも、平面でありながらも、立体的で動きを感じる計算されつくした構成だ。

山下「横浜は坂の町ですよね。横浜に来てから、坂の風景をよく描くようになった。坂を描くと2つの地平線ができて、絵の中にも疾走感が生まれるんですよね。横浜の風景にはインスピレーションを受けています。」

山下「横浜は坂の町ですよね。横浜に来てから、坂の風景をよく描くようになった。坂を描くと2つの地平線ができて、絵の中にも疾走感が生まれるんですよね。横浜の風景にはインスピレーションを受けています。」

 

同じく横浜市内に拠点を構えるデザイナーの満島弘さん(シェル・コレクティングアートディレクター/デザイナー)が、山下さんが制作したイラストとシンボルマークのラフをもとに、タイポグラフィー(文字の部分)の調整を行い、シンボルマークを完成させた。今回が初顔合わせとなる2人のタッグだが、フィールドワークに一緒に出かけたり、何十ものシンボルマークの案を練ったり、展開案を考えたりと、息の合った仕事ぶりに驚かされた。

満島「横浜は海を近くに感じることができます。都会と、田舎の緩さが同居しているんですよね。仕事場は鶴見区で中心市街地からは離れているんですが、潮風の匂いを感じたり、汽笛が聞こえてきたりする。屋号のシェル・コレクティングも、家族で海に行き貝をよく拾っていたことや貝の造形美にちなんで、横浜に来てからつけました。」

満島「横浜は海を近くに感じることができます。都会と、田舎の緩さが同居しているんですよね。仕事場は鶴見区で中心市街地からは離れているんですが、潮風の匂いを感じたり、汽笛が聞こえてきたりする。屋号のシェル・コレクティングも、家族で海に行き貝をよく拾っていたことや貝の造形美にちなんで、横浜に来てからつけました。」

 

今回、イラストレーターの山下さんに声をかけたのは、デザイナーの満島さんだったという。

「2012年に開催された山下さんの個展「BUMP!」(会場:Gallery Speak For)を見に行った時に、横浜にはこんなすごい人がいたんだと思いました。私は仕事柄、いろんな展覧会に足を運ぶんですが、久しぶりに衝撃を受けたんです。イラストレーションというよりも、アートですよね。躍動感がある一方で、カラフルでポップなところもあって。横浜らしいマラソン大会のイメージって何だろう?と考えた時に、山下さんの作品の躍動感と洗練されたイメージが、ぴったりだと思ったんです。」

もともと短距離の陸上選手だったという山下さん。今でも日常的にジョギングなどで身体を動かしているのだそう。

「陸上でやってきた身体を使うということが、今の表現に何かしら結びついているとは思います。走っているときの昂揚感とか、視点が止まっていない、ロードムービーのような動く視点は、作品を作るときにいつも意識していますね。横浜マラソンの仕事は、スポーツという点では得意分野ではありましたが、今回はゼロからのクリエーションでした。普通イラストレーションの仕事にはラフがあるんですけど、提案を含め、アートディレクションをしなければならなかったんです。だからこそ横浜ならではの新しいイメージを生み出したいという思いがありました。試行錯誤を繰り返してつくったので、楽な道のりではなかったです。」

シンボルマークができるまでの苦悩も滲ませた山下さん。ものづくりの現場も、スポーツのように持久力や精神力があってこそ、作品という結果が生まれるのだろう。

 

横浜マラソンの魅力、国内外へ広く発信

 

「横浜マラソン2015」は、市民が待ちに待った初のフルマラソン。1981年から33回の実施を数える「横浜マラソン大会」から、新たに生まれ変わった大会だ。主催者である横浜マラソン組織委員会(横浜市、神奈川県、(公財)横浜市体育協会ほか)は、年に一度のビッグイベントの開催を、どのようにアピールしようとしたのだろう? 運営を担う横浜マラソン組織委員会事務局横浜市市民局スポーツ振興部スポーツ振興課の 渡辺充課長と中野康子さんに聞いた。 

左:中野康子さん 右:渡辺充課長 (横浜マラソン組織委員会事務局・横浜市市民局スポーツ振興部スポーツ振興課)

左:中野康子さん 右:渡辺充課長 (横浜マラソン組織委員会事務局・横浜市市民局スポーツ振興部スポーツ振興課)

「横浜のイベントは、地元メディアには取り上げていただける機会が多いのですが、在京メディアや、海外などでは知名度がまだまだ低い。横浜マラソンは、市民参加型のマラソン大会で、もちろん横浜市民へのアピールも大切ですが、同時に国内外へと『広く』発信できるようにしたいという意図がありました。外に対して『横浜ってちょっと違うよね』と思われるような大会にしたかった。今回は海外在住の外国人の方へ向けた『海外優先枠』も設けているんです。大会としては横浜のシティセールスや、経済波及効果を生み出すといった狙いもあります。」 

 

「横浜ってちょっと違うよね」と思わせるための工夫とは、具体的にはどのようなことだろう? 港町・横浜の景観を存分に楽しめるコース設定などプログラムの中身はもちろん、事務局は最初の記者会見(2014年3月)の時点から戦略的な広報発信の動きを見せていた。大会のシンボルマークをキービジュアルとして先駆けて作り、まずはマラソン大会のイメージを印象づけてきたのだ。国内外の文化が交わる開港都市としての歴史を持つ横浜は、全国に先駆けて「創造都市政策」を掲げ、さまざまな取り組みを行ってきた。

山下さんのイラストが全面にあしらわれたポスター。横浜のフィールドワークから生まれたイメージだ。

山下さんのイラストが全面にあしらわれたポスター。横浜のフィールドワークから生まれたイメージだ。

「横浜ならではの大会にしたいと考えたときに、アートやデザインと切り離せないという思いがありました。スポーツイベントとアートは今までリンクしていないところがあったと思いますが、横浜で活動をしていて、横浜が好きな人に思いを込めてシンボルマークを作ってもらいたい。横浜の良いところを知っている人だからこそ、横浜マラソンのイメージを作ることができるんじゃないかと思いました。」

 

 
 
 
 
 
 
 
クリエーターと依頼者をつなぐ「中間支援」―ヨコハマ創造都市センターの取り組み

 

「横浜マラソン2015」には、横浜ならではのシンボルマークを作りたいという主催者の思いがあった。そして山下さんと満島さんが、その制作を手がけることになった。行政の担当者と、横浜在住のクリエーター。今回どのように出会ったのだろう? そこにはACYが主管する「横浜デザイナー推薦制度」があった。

ヨコハマ創造都市センタ(YCC)

ヨコハマ創造都市センタ(YCC)

今年度から始まった「横浜デザイナー推薦制度」は、創造都市政策のもと横浜に集まった「クリエーター」と、彼らと仕事をしたいと考える「依頼者」のマッチングを図るシステムだ。ACYは、創造の担い手を支援する助成金事業や、創造産業集積のための仕組みづくり、クリエーターが横浜で活動する環境そのものの整備に力を入れてきた。ACYは横浜で活動しているクリエーターの情報提供を行ってきたが、ここ数年は行政や企業からデザイナー等を紹介して欲しいという相談の案件が増えていた中、満を持して「横浜デザイナー推薦制度」を立ち上げた。

「情報提供にとどまらず、『この仕事ならこのデザイナーが適任ではないだろうか?』と推薦し、マッチングまでを担う次の段階の需要があると感じていました。私たちはクリエーターの皆さんに、活動する場として横浜を選んでもらいたいと思っています。そしてスキルを持ったクリエーターが横浜にいることを、市民に見える状況を作っていく必要がある。それが『制度』という枠組みを作った一番の理由です。」(ACY 松井美鈴ディレクター)

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ACY 松井美鈴ディレクター

 「横浜デザイナー推薦制度」を活用した第一号の作品として、横浜マラソンのシンボルマークが誕生した。現場のニーズに応じて事業を立ち上げたり、制度を作ったりすることは、簡単なことではない。そこにはどのような努力があるのだろう。

「クリエイティブな仕事に関わるためには、枠にはまった考え方では対応ができません。創造都市とは『ひとつの大きな生き物』みたいなもので、常に動きがある。臨機応変に表現者の課題に応えること。前例に倣うのではなく、前例がないのであればそれを実現するためにはどうすればいいかを考えること。創造都市政策における中間支援とは、そういう仕事だと思っています。」

じつはイラストレーターの山下さん、横浜に拠点を構えて10年以上が経つが、今回初めて横浜の仕事に取り組む機会に巡り合ったという。才能あふれるクリエーターと、市の事業とのマッチングが生まれたことも「横浜デザイナー推薦制度」のひとつの成果ではないだろうか。

「今回のスタイリッシュなシンボルマークは、横浜という洗練された国際都市としてのイメージを感じさせてくれるものになった。市の事業にとっても、デザインは重要です。しかし行政はデザイナーの情報を持っていない。短期間でいいものを作りたいという時に、デザイナーの方の過去の実績など、アーツコミッションが持っている情報を活用できることは大きいです。クリエーターの方にとっても、自分たちの仕事が世に出ていく機会になっていい循環が起こり、お互いに相乗効果で横浜の創造力が高まっていくことを期待しています。」(横浜マラソン組織委員会事務局) 

クリエーターと依頼者、そしてその両者を結ぶ中間支援の仕事。これからも「創造都市横浜」は、さまざまな出会いが生まれるダイナミズムを持った都市として動いていくだろう。


 【クリエーター プロフィール】

イラストレーター:山下良平(やました りょうへい)
『躍動』を一貫したテーマにビジュアル作品を作成。マガジンハウスTarzan他ナイキ、ハーレーダビッドソン等のビジュアル作成を手がける。2009年より、ロックの祭典SUMMER SONICにてライヴペイントに出演。画家としての活動も本格始動し、自身のアートブランド「LIKE A ROLLING STONE」を立ち上げ絵画作品の発表、販売を行う。
イラストレーター公式HP:http://www.illustmaster.com
画家公式HP:http://www.artmaster.jp

デザイナー:満島弘(みつしまひろし)
『海』を想うデザイナー。千葉県育ち、横浜市在住14年。小さな頃に父親からゆずり受けた切手の中のオリンピックや美術品、海外のデザイン、購入してもらった図鑑、80年代のYMOなどの影響もあってか、技術者を目指すもデザインを勉強したい気持ちが高まり進路変更、デザインの世界へ。愛知万博多言語サイトデザイン、ヘッドホンカバー「mimimamo」アートディレクションなど。
http://www.shellcollecting.jp/

【イベント情報】

横浜マラソン2015 
7月10日(木)12時~申込受付開始!
http://www.yokohamamarathon.jp/2015/

開催日:2015年(平成27年) 3月15日(日)
メイン会場:パシフィコ横浜
募集人数:合計25,000人
地元優先枠:3,000人

(写真提供:横浜マラソン組織委員会)

去る6月23日(月)記者会見が行われ募集要項と、大会アンバサダーが発表された!大会アンバサダーは、谷原章介さん、剛力彩芽さん、体操選手の米田功さん。(写真提供:横浜マラソン組織委員会)