TPAM-国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2014

Posted : 2014.03.14
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横浜で毎年恒例のイベントのひとつ「国際舞台芸術ミーティング in 横浜(通称TPAM)」。2度の記録的な大雪に見舞われながらも、バラエティに富んだ舞台公演と、より充実したトークプログラムで今年も多くの参加者を迎えた。今回のTPAMには、変化を感じた参加者が多かったようだ。どのように変わったのだろう? 

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国際舞台芸術ミーティング in 横浜「TPAM」とは?

今年で18回の開催を数えた、日本で最大規模の舞台芸術の国際プラットフォーム「国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2014」(Performing Arts Meeting in Yokohama 2014)。2月8日から16日の8日間にわたり、徒歩で回れる横浜の都市臨海部の会場で、公演、ディスカッション、ミーティングなどが開催された。「ショーイング・プログラム(舞台公演)」と、「ネットワーキング・プログラム(ディスカッションやミーティングなど)」の2つを柱とした、日本の舞台芸術シーンの現在を俯瞰できるプログラム構成だ。

TPAMは、作品をつくるアーティスト、作品を観客に見せるプレゼンター(劇場やフェスティバルのディレクターなど)、そして作品を見る観客の三者が集まる場。日本国内はもちろん、海外からもさまざまな舞台芸術の関係者が集う1年に1度のプラットフォームだ。彼らはどのような動機でTPAMに参加しているのだろうか? アーティストたちは作品を国内外のプレゼンターや観客に見てもらうため、プレゼンターは劇場やフェスティバルへ招聘する作品を見つけるため、そして観客たちは旬な舞台芸術作品に出会うため、といった目的が挙げられるだろう。でもTPAMが担っている役割は、それだけじゃない。このように舞台芸術に関わる人たちが対話の場を持ち、互いに知識や経験を共有していくことは、個人や団体のみならず、舞台芸術というひとつの芸術ジャンルにとっても大切なこと。長期的な視野で今後の活動に役立てるネットワークを育むために、参加者たちはこのTPAMという「場=プラットフォーム」を活用する。そのための「ネットワーキング・プログラム」だ。

オープニング・レセプション (2/11@YCC 3F)

オープニング・レセプション (2/11@YCC 3F)

 

アジアのプラットフォームへ―TPAMの変革―

多くの参加者から「今年のTPAMは変わった」という声が聞こえてきた。いったいどのように変わったのだろうか? TPAMのはじまりは1995年にさかのぼる。「芸術見本市(TPAM=Tokyo Performing Arts Market)」として東京での開催を重ねた後、2011年に会場を横浜に移し、名称を「マーケット(Market)」から「ミーティング(Meeting)」へ改めた。これまでのTPAMには、舞台芸術団体がブースを出展し、資料を配布したり映像を流したりする「ブースプレゼンテーション」が設置されてきた。しかし今回初めて、過去17回続いたブースプレゼンテーションを廃止し、「ネットワーキング・プログラム」を充実させた。1対1で10分間のミーティングを行う「スピード・ネットワーキング」では、昨年は27人だったホストの参加が今年は34人に増加。提携事業には「舞台芸術AIRミーティング@TPAM」もプログラムされた。マーケットからミーティングへより向かいたいというTPAMの意図が、反映されたプログラムだ。

例えば「スピード・ネットワーキング」と「グループ・ミーティング」には、ACYのアーティストサポートプログラム担当者がホストとして参加。横浜で活動したい、横浜に拠点を持ちたいと興味を寄せる舞台芸術団体やアーティストと、密にコミュニケーションを取ることができた。このようなプログラムを活用してネットワークをつくろうと、関西など首都圏以外の参加者たちが多く来場していたのも印象に残った。事務局長、ディレクターの丸岡ひろみさんは、その手ごたえをどのように感じているのだろうか?

スピード・ネットワーキング (2/14@BankART Studio NYK)

スピード・ネットワーキング (2/14@BankART Studio NYK)

グループ・ミーティング(2/15@BankART Studio NYK)

グループ・ミーティング(2/15@BankART Studio NYK)

 

丸岡ひろみさん オープニング・レセプションより (2/11@YCC 3F)

丸岡ひろみさん オープニング・レセプションより (2/11@YCC 3F)

「17回続いてきたブースプレゼンテーションを廃止するということは、大きな決断が必要なものでしたが、そういった変化を経てようやくTPAMが参加者の皆さまに“使っていただけるもの”になったのではないかと思っています。よりダイレクトに、人と人がつながることが出来るようになった。特に今年は横浜市が東アジア文化都市に認定され、TPAMがアジアのプラットフォームとして機能することを意識しはじめるきっかけになりました。インターナショナル・ショーケースでは、中国と韓国のアーティストを招聘していますが、それぞれの国が持つ社会的な背景や歴史を反映した作品を紹介したかった。そうすることで、アジアの“同時代”を捉え直してもらえるのではないかと考えたんです。」

 

 

 


アジアのアーティストとともに ―東アジア文化都市2014への応答―

「東アジア文化都市2014」は、世界中からアーティストが集まる「文化芸術のハブ都市」を目指し、日本・中国・韓国の3ヵ国で行う文化交流事業だ。中国は泉州市、韓国は光州広域市、日本は横浜市が2014年の東アジア文化都市に選ばれた。横浜ではこの1年、さまざまな文化イベントが行われる。TPAMは、東アジア文化都市のパートナー事業として位置付けられた。今回、中国・韓国から参加したアーティストは、それぞれどのようにTPAMを見たのだろう。

中国から来日したシャオ・クゥ×チョウ・ツゥ・ハンは、TPAM期間中、KAAT神奈川芸術劇場ロビーやBankART Studio NYKなどのオープンスペースで、4つのパフォーマンス作品を発表。スピーチやペインティングなど多彩な手法で、今日の中国のリアリティ、そして日本の状況を鋭く洞察した批評的なパフォーマンスが、観客の目を惹きつけた。

舞台芸術AIRミーティング セッション1「アジアの中の舞台芸術のAIRの状況について」に登場したシャオ・クゥ(左)×チョウ・ツゥ・ハン(右) (2/14@YCC 3F)

舞台芸術AIRミーティング セッション1「アジアの中の舞台芸術のAIRの状況について」に登場したシャオ・クゥ(左)×チョウ・ツゥ・ハン(右) (2/14@YCC 3F)

 「これまでヨーロッパ各地でも作品を発表してきましたが、アジアのアーティストとの対話の機会はほとんど持ててこなかったんです。TPAMにはアジアのアーティストやプロフェッショナルが多く来日していて、ミーティングプログラムに参加している。ヨコハマ創造都市センター3Fで開催されていたセッションの数々は、トピックがとても魅力的だった。TPAMはオーガナイズもプロフェッショナルでした。今後アジアのアーティストたちのネットワークを作るプラットフォームにTPAMが育っていくことを期待します。また機会があればぜひ参加したいと思います。」

 

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シャオ・クゥ×チョウ・ツゥ・ハン パフォーマンス(2/15@KAAT アトリウム)

 
韓国から来日したチョン・ウニョンは、今は衰退している韓国の伝統的オペラの一種「ヨソン・グック」を5年間にわたってリサーチし制作した映像作品をベースに、グック役者の2人を招き舞台作品として発表した。普段は美術の分野で活動している彼女は、今回のTPAMへの参加をどのように捉えたのだろう。

「私は主に美術の分野で活動をしていますが、TPAMに参加をして刺激をもらいました。美術のアーティストや関係者たちは、より内向的で作品についてあまり積極的には語らないように感じますが、舞台芸術に関わる人たちはとてもポジティブでエネルギッシュです。舞台芸術は一回性の芸術で、観客もその一回の上演に集中してくれる。TPAMのような場に参加することは、自分の作品をより多様なシーンで紹介できる可能性が広がる、貴重な機会です。」


横浜におけるアーティスト・イン・レジデンスの取り組み

横浜市はアジア諸都市とのネットワークを築くために、アーティスト・イン・レジデンス交流事業(以下AIR)を実施してきた。2009年から(公財) 横浜市芸術文化振興財団、黄金町エリアマネジメントセンターでは、AIR交流プログラムを継続して行っている。横浜に滞在した実績を持つアーティストが、アジアの中に少しずつ増えてきた。

舞台芸術AIRミーティング セッション3「アジアのアーティストが考えるAIR」で話すチョン・ウニョン(右) (2/16@YCC 3F)

舞台芸術AIRミーティング セッション3「アジアのアーティストが考えるAIR」で話すチョン・ウニョン(右) (2/16@YCC 3F)

TPAMでは今年、一昨年に引き続き提携事業として「舞台芸術AIRミーティング@TPAM」を開催。このうちのひとつ「アジアのアーティストが考えるAIR」をテーマとしたセッションでは、アーティストたちのリアルな声を聞くことができた。ヨソン・グックを5年かけてリサーチしたチョン・ウニョンからは、「リサーチに基づく作品づくりには長い時間が必要。1~3ヵ月程度の短い滞在期間でのAIRでは、どうしても表面的な関わりになってしまい、結果を求められると難しい」という問題提起が。AIR事業を行う際に多くの招聘元が直面する課題だ。またシャオ・クゥとチョウ・ツゥ・ハンからは、「もし日本でレジデンスができるとしたら、作品をつくるというよりもリサーチを重ね、人とのかかわりをつくりたいと思う。レジデンスでは何も考えない時間をつくること。リフレッシュすることで新しい何かをつくるための時間を持てる」というフィードバックがあった。

“アジアのプラットフォーム”がどうあるべきかを考える時、直接滞在してネットワークをつくることが出来るAIRのプログラムを活用することは、合理的な方法のひとつだとディレクターの丸岡さんは語る。今後もTPAMでは、横浜とアジアをつなぐ舞台芸術分野のAIRをウォッチしていくことになりそうだ。

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ネットワークをつくることを目指した事業では、目に見える成果や結果を性急に求めるのではなく、どのようにネットワークが発展していくかを追うことが大切。東アジア文化都市を契機に、アジアのプラットフォームとしても新たなフェーズを迎えたTPAM。ここでまかれた種からどのような芽が出て、どのような実を結んでいくのか――。数年後、あるいは数10年後に、私たちはたくさんの成果を目にすることができるのではないだろうか。

 

【イベント概要】
国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2014(Performing Arts Meeting in Yokohama 2014)
会期:2014年2月8日(土)〜2月16日(日)
会場:ヨコハマ創造都市センター(YCC)、KAAT神奈川芸術劇場、BankART Studio NYK、横浜赤レンガ倉庫1号館、STスポット他
http://www.tpam.or.jp/

主催:国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2014 実行委員会(国際交流基金、公益財団法人神奈川芸術文化財団、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団、PARC–国際舞台芸術交流センター)
協力:BankART1929、(公財)横浜観光コンベンション・ビューロー、STスポット、株式会社アイ・ティー・シー・エー(三本コーヒーグループ)、株式会社アサヒビール
後援:横浜市、神奈川県
提携事業:舞台芸術AIRミーティング@TPAM 2014、舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)
東アジア文化都市パートナー事業