生きづらさを感じる若者に“成果”でなく楽しさや喜びを M6 MUSICAL ACT

Posted : 2020.06.29
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若者の居場所づくりや就労支援に取り組むK2インターナショナルグループ(横浜市磯子区)のNPO法人ヒューマンフェローシップが企画し、2019年12月に上演されたミュージカルプロジェクト「M6 MUSICAL ACT」。不登校や引きこもりの経験者を含む小学生〜20代後半の26人が、イエス・キリストの最後の7日間を描いたロックミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」に挑戦した。公演の直前、同法人代表理事の岩本真実さんにこのプロジェクトへの思いを聞いた。

Negishi M6 Eスタジオでの公演(12月22日)*

 

若者支援の原点に戻り、元気になってもらうような活動を


——今回のプロジェクト立ち上げの経緯を教えてください。

岩本:私たちの団体は、横浜を中心に若者たちの支援を30年やってきました。当初は不登校の子たちに、学校に行っていたらできないような経験をしてもらって元気になってもらうというのが活動の目的だったんですね。ただ、ここ最近は働かない若者たちの自立就労が活動の中心になってきて、20代30代の若者も私たちの施設に来るようになりました。社会全体に余裕がない中で、どうしても働くことや自立というのが目に見える結果としては分かりやすいですし、世間的にも保護者の方たちとしても、そういう現実的なことを求めがちなのかなと思います。

NPO法人ヒューマンフェローシップ代表理事の岩本真実さん

 

でも、改めて自分たちの活動を振り返ると、若者たちの居場所がなかったり、生きていることに目標を持てなかったり、単純に笑って生活できなかったりという状況が根本的にあって、そこをしっかりと受け止めて支援していくことが大事な一歩だったんです。自立のためにこういうことをしたほうがいいとかそういうことではない、学校や社会に出るための訓練ではない経験をしてもらうことによって、自分の存在価値を認めたり、先に進んだり、選んだりすることができるんじゃないかなと思います。海外に行って非日常を体験してもらうプログラムなども続けてはいますが、なかなか普段活動する中でそういう経験を提供できる機会が少なくなってきていたので、ミュージカルのプログラムは私たちの原点に戻るような活動の一つだと思っています。

練習風景*

 

——ミュージカルをやると言ったときの若者たちの反応はどうでしたか。

岩本:自分たちの今までの経験もあってミュージカルという題材にしましたが、すごく反応が良かったかというとそういうわけではなかったですね。今回参加したメンバーの中でも、踊りたいとか歌いたいと強く希望してきた子は何人いるかなという感じです。それでもちょっと半信半疑だけど誘われたから来てみた、みたいな子からやっていくうちに「面白い」とか「楽しい」という声が出ています。

昨日も女の子が「風邪引いた」「調子が悪い」と言うので「じゃあミュージカルは出られないね」とスタッフが言ったら「いやそれは絶対出る」とすごく執着を持っていたらしくて、それは私たちもすごくびっくりして。そんなに出たかったんだな、やっぱり舞台に立つっていうことはそれだけの魅力があるんだな、すごく良いことだなと。そういう子たちは人前に立ったり視線を浴びたりということが苦手だと思われがちですが、逆にすごく飢えている部分もあって、違う視点で見てあげることが大事だなと感じています。

NIGHT SYNC YOKOHAMA野外ステージ(新港中央広場)での公演(12月21日)*

 

日々のサポートをしている私たちからすると、何かをしたいとかいう欲求がない子はサポートもしにくいので、これに出たい、これをやりたいからじゃあ日々のすごく地味な研修をがんばろう、みんなともちゃんと一緒にやろうと進めることができているのも、やって良かったなと思う一つの理由ですね。

——公募では「一度でも練習に参加すれば舞台に立てる」としていましたが、実際の参加状況はどうでしたか。

岩本:実際に9月からのプログラムで参加した人数は50数人で、本番を控えている26人は、少なくとも一カ月はがんばってきている子たちです。途中で体調が悪くなってしまった子や、きついから無理、参加したいけれどちょっと自信がないという子たちがけっこういますね。不登校に限定しているわけではなく、学校に行っていてもちょっとしんどさを感じているとか、みんないろいろ事情を抱えています。

Negishi M6 Eスタジオでの公演*

 

私たちの運営する施設に来ている子だけでなく、チラシやネットで見て来てくれた子たちもいます。今まで私たちが発信してきたことでは連絡をくれることはなかったと思うので、もっと違うアンテナでひっかかる人たちがいるんじゃないか、どうやったらそういう子どもたちにアクセスできるのかという課題はありますが、一定の手応えは感じています。

「支援してあげますよ」と言っても「そんなのいらねーよ」みたいな感じの子たちはいるので、「こんなことができるよ」という呼びかけがもっとうまく求めている子たちのところに届けばいいなと。

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今回難しかったことでいえば、9月から先行して声をかけたメンバーと走り始めて、やっているところに途中から入ってきてもらうのがいいだろうと思っていたんですが、みんながもう踊れているのを見て、尻込みして帰っちゃった子がけっこういるんです。だから次の週は新しい子だけ別で先生に見てもらって、ほかにもいろいろやりながら模索したんですけど。一回尻込みしてしまった子は二度と来ないし、だいぶ後半に来た子はもう圧倒されちゃうんですね。私たちとしては本当に一日でもと思って募集チラシにはそう書きましたが、そうは言っても疎外感を感じてしまうので。ただ、私たちの活動としては学校のように一斉にスタートというやり方はなかなか難しいところがありますし、まだ答えが見つからないところですね。

——今回は、どうやって体制をつくっていったのでしょうか。

岩本:芸術創造特別支援事業リーディング・プログラム「YokohamArtLife(ヨコハマートライフ)」事業に採択されてもされなくてもやりたいとは思っていましたが、採択されてからいろんな方に紹介していただき、運良く素晴らしい講師の方たちに集まっていただくことができました。メインで教えていただいているおどるなつこ先生は、福祉施設でダンスを教えたり、タップダンスのワークショップをされていたり、すごく経験もある方ですし、今はみんなに厳しくビシバシ指導しながら、子どもたち一人ひとりに合わせて対応してくださっています。

「9月はとってもおとなしかったけれど、やっていくうちに楽しんでいる感じが出てきました。判断力、理解力が大人顔負けで自分から動ける強い子が多かった」と話すタップダンサー・振付家のおどるなつこさん*

 

ただやっぱり、日々「具合が悪い」とか「嫌だ」と言って来ない子がいたり、それ以外の問題もたくさんあったりして、サポートは大変でしたね。そういう裏方も含めると、かなりのスタッフが動いています。

1カ月ほど前からはアーティストの稲吉稔さんにも来ていただいて、舞台に出るのは苦手だけど何か関わりたいという子たちと一緒に大道具班をつくって、ぼんぼりみたいなものなどの工作をしています。そちらは普段はここには来ない子たちや学童の子どもたちも参加しています。音響チームや記録チームもつくって、カメラを回しているスタッフを小さい子も一緒に手伝っています。

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異分野や地域との接点に


——特にすり合わせが必要だった部分、大変な部分などはありましたか。

岩本:どうしても若者支援の現場は当事者と私たちだけの関係になりますが、今まで関わりのない分野の方たちに若者たちと一緒に作業してもらうということは、こういう団体がすごく開かれることになりますし、普段とは違うメディアにも取り上げられているんです。異分野の方たちとの意思疎通というかコミュニケーションはすごく大事だなと思いましたし大変な面もありましたが、若者たちがこんなに活躍している、元気にやっている姿をたくさんの人に見ていただけるきっかけになっていると思うので、本当に良かったなと。作品の出来栄えが良いことも大事ですが、それとは別に活動の広がりを感じています。

NIGHT SYNC YOKOHAMA野外ステージ(新港中央広場)での公演*

 

取材・文:齊藤真菜
撮影:大野隆介(*以外)


M6 MUSICAL ACT《Jesus Christ Superstar》

ミュージカル制作
演出:金森克雄
ダンス・振付:おどるなつこ
音楽監督・音楽制作:大和田千弘
ドラム演奏:佐山智英
音楽演出助手:いとうすずの
歌・発声:管谷孝介

サポートチーム
ユースサポートスタッフ/メンタルサポートスタッフ:M6 MUSICAL ACT