2019-07-23 コラム
#都心 #生活・地域 #まちづくり

5周年を迎えたBUKATSUDO文化祭で、田中泰延×阿部広太郎トークショー

「大人の部活」が生まれる街のシェアスペース「BUKATSUDO」が、この6月で5周年を迎えた。去る6月23日に開催された「BUKATSUDO文化祭」は来場者であふれ、講座の成果発表やワークショップ、パフォーマンスなど、50におよんだプログラムはいずれも大盛況。中でも阿部広太郎さんがモデレーターを務める人気講座「企画でメシを食っていく」のトークショーでは、ゲストに田中泰延さんを招き、この日一番の熱気を見せた。

 

日々の活動を凝縮した年に一度の「文化祭」、5周年を祝う

 

2014年にみなとみらいの造船ドック跡地にオープンしたシェアスペースの「BUKATSUDO」。「大人の部活」をコンセプトに、独自の活動が生まれてきた場所だ。その5周年を祝う「BUKATSUDO文化祭」は、講座の成果発表や、部活の体験入部、ものづくりワークショップなどのプログラムが組まれ、BUKATSUDOでの日々の活動の全容が分かる1日になった。

 

スタジオ、ホール、キッチン、ブース、ワークラウンジ、部室、アトリエなどフロアのあらゆる場所に、部活、パフォーマンス、トーク、ワークショップ、展示、ショップなどのコンテンツがぎっしり。ドリンク片手に、来場者が各スペースを歩き回る。

 

 

各部活の発足年や、主催イベント開催情報など、5年間の主だった活動が書き込まれた「BUKATSUDOのあゆみ みんなでつくる年表!」。来場者が自分の思い出やBUKATSUDOとの出合いをシールに書き込み、年表に貼って参加する。

 

メンバーの集い方も活動内容もそれぞれに違う「部活」。ホールやキッチン、スタジオ、アトリエなどの時間貸しスペースを借りて活動する部活もあれば、コミュニティ活動の拠点として使えるスペース「部室」を借りて活動する部活もある。

 

この日、キッチンでワークショップを開催していた「つきいちスパイスカレー部」による「バラッツさんのライブクッキング!まかないカレーをつくろう」。部活の中にはつきいちスパイスカレー部のように、講座の形式で展開しているプログラムもある。

 

アトリエと呼ばれる場所は、ワークショップスペースに。デニムブランドの「エブリデニム」によるインディゴ染め体験や、手彫りはんこの「かまくら篆助(てんすけ)」による篆刻ワークショップなどが開かれた。

 

「離島」を愛する人たちが集う「リトウ部」は、訪れた人と語らうリトウスタンドをオープン。2017年にはリトウ部が編集協力した「島の旅へ」特集(OZmagazineTRIP2017年夏)号の発売を記念したトークイベントを、BUKATSUDOで開催している。

 

ワークラウンジでは、結城市&茨城移住計画、智頭町(鳥取)、飯田市(長野)、下呂市(岐阜)など、BUKATSUDOや、BUKATSUDOを運営する(株)リビタと縁のある市町村のブース出店もあった。地元の街の特産品や、伝統の文化イベントをPRする機会となった市町村担当者から、「ちょうど来月、訪問の予定がある方との出会いもあった」との声も。

 

「企画でメシを食っていく」言葉の企画 特別編「―会いたい人を、呼べばいい。―」

田中泰延×阿部広太郎トークショー

 

 

2015年からBUKATSUDOで開いている連続講座で、コピーライターの阿部広太郎さんがモデレーターを務める「企画でメシを食っていく」。さまざまな業界で「企画」の第一線にいる方をお招きし、講義・課題講評を重ねる講座だ。通称「企画メシ」の阿部さんによる、BUKATSUDO文化祭でのスピンオフトークが今年も開催された。

ゲストにライターの田中泰延さんを迎え、6月に発表したばかりの田中さんの著書『読みたいことを、書けばいい。』の刊行記念特別イベントとして実施したトークショー。会場のBUKATSUDOホールではこの日5本目のプログラムだったが、椅子が増席されたものの立ち見も含めた超満員に。客席にも笑いの絶えない1時間になった。

阿部さんが『読みたいことを、書けばいい』を読んで「ぐっときた」部分について、田中さんに質問を投げかけながら会は進行。そのやり取りの一部をご紹介しよう。

阿部広太郎:
この本は、書く仕事をしている人や、自分の思いを言葉にしたいすべての人に読んでいただきたい本です。「だれかがもう書いているなら読み手でいよう」という項目がありますが、そのとおりだなと思いました。書く理由があるとすれば、それが世の中にまだないからですよね。

田中泰延:
今は特にネットでニュースが出たら、それについての言説がばーっと流れるでしょう。そこに自分と同じ意見が載っていたら、もう読んで終わりでいいじゃないですか。次のことを考えた方がいい。でも私も何か言おうと思ってその類のことをわざわざ言うのは、時間の無駄ですよね。僕だって映画を観て何か書きたいなと思ったときに、いちおうパンフレット見て映画批評を読んで、映画評論家の町山智浩さんやライムスター宇多丸さんの批評を聞いて、Yahoo! JAPANなどの映画感想欄も読んで、だいたい俺の言いたいことないわと思ったら、もう書かなくていいんですよ。無理して書く必要はない。

阿部:
書かれていない、空いている土俵を探すということですね。

田中:
自分の意見がみんなと同じだと思ったら、次のことをやったらいいんじゃないですかね。だから気を楽にしてほしい。noteとかを毎日更新している人って、なんか書かなくちゃという思いがあるだけで、世の中にあふれている同じ意見を延々と書いていたりしますけど、これは無駄ですよ。

田中泰延さん

 

阿部:
言葉を書くことについて、昔から「読みたいことを、書けばいい」というスタンスでいらっしゃったんですか?

田中:
以前勤めていた電通で24年間、広告のコピーライターをしていましたが、広告の仕事では自分が何か言いたいことがあるわけではないですよね。例えばアイスクリームの広告を頼まれたら、アイスの良さについてお話を聞いたり資料をもらったりして、そこから「こう言い換えましょう」と変換していく。書き手ではなく、読み手です。

映画を観たり、どこかの土地に行ったりして、受け手として受け止めたあとに何かを書く場合でも、一番大事なことは自分の意見を言うことではないんですよ。自分の意見なんて、誰もが大したことないんです。そうではなくて、そのほかにも今までに見てきたものがあるはずだから「今見たAは20年前に見たBとちょっと似ている」と思ったりする。これを書くんです。AもBも知っている人が読めば「なるほど」と思ってもらえるし、Aのことだけ知っていてBのことを知らない人は、Bのことを知ろうとするかもしれません。これが書くということで、そこに俺の意見はないんですよ。

阿部:
「得意不得意を知れば社会があなたを振り分ける」という文章にも、非常に勇気をいただきました。あれになりたい、これになりたいと思ってしまいがちな世の中ですが、そうではなくて。最低限の得意不得意を見極めることさえできれば、社会が適切なところに運んでくれるというメッセージに、すごく気が楽になりました。

阿部広太郎さん

 

田中:
やりたいことと、向いていることは違います。自分の向いていることを見つけましょう。電通に入って2年目ぐらいに「田中、社会ってどういうところか知ってるか。お前はいちおうコピーライターに振り分けられているけど、社会ってどういうものかよく知ってコピーライターの手を動かせ」と先輩に言われたことがあります。「どういうことですか?」と聞いたら「社会はそれぞれの人が一番得意なところで、得意なことで勝負している場である」と。野菜を売るのが得意な人は、野菜を売る仕事をしている。ホームランを打つのが得意な人は、野菜を売らずに野球選手になっている。得意なことは人それぞれ違います。逆に見つけた人は、得意な方に来ているから、仕事で必ずステップアップして上にいっています。

阿部:
得意なことを見つけるためには、興味・関心があるところに手を出すことが重要なんでしょうか?

田中:
やるなと言われても、やっていることが得意なことですよね。あと気がついたら続いていること。

阿部:
得意不得意という言葉に、あまり振り回されない方がいいかもしれないですね。

田中:
そうそう、続いちゃっていることをやりましょう。

阿部:
今の時代、SNSが登場したことで、何かを書きたい人が増えていると思います。最後に、そういう若手にアドバイスというか、書く上での心構えとして伝えておきたいことはありますか。

田中:
書きたい人よ、なんで書きたいんやと。本の中でも書きましたけど、真面目にアドバイスをするとしたら、書くことは自分が楽しければいいんです。書くことで、たくさんの人に読まれてお金をもらって「名前が売れたい」と思っている人がいるとしたら、それは違う。うまいこといかないと思う。楽しんで書いて、どんなことでも結果は後からついてくるんじゃないですか。

 

取材・文:及位友美(voids
写真:加藤甫


プロフィール:
田中泰延(ライター)
Twitter @hironobutnk
新刊『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)。 2016年より「青年失業家」と自称しフリーランスとしてインターネット上で執筆活動を開始。 webサイト『街角のクリエイティブ』に連載する映画評「田中泰延のエンタメ新党」「ひろのぶ雑記」が累計330万PVの人気コラムになる。 映画・文学・音楽・美術・写真・就職など硬軟幅広いテーマの文章で読者の熱狂的な支持を得る。「明日のライターゼミ」講師。

阿部広太郎(「企画でメシを食っていく」主宰)
Twitter @KotaroA
コピーライター&作詞家。さくらしめじ「先に言うね」「お返しの約束」、向井太一「FLY」「空 feat.SALU」「Blue」共作詞。アーティストの使命に寄り添いながら導き出す温度のある作詞に定評がある。2015年からBUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を主宰し、今年で5期目を迎える。著書に、自分の道を、自分でつくるための『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』(弘文堂)がある。


BUKATSUDO
住所:横浜市西区みなとみらい2丁目2番1号 ランドマークプラザ 地下1階
交通:みなとみらい線「みなとみらい」駅徒歩3分、JR市営地下鉄「桜木町」駅徒歩5分
営業時間:月~土 9:00~23:00 日・祝 9:00~21:00 ※お盆年末年始休業
URL:http://bukatsu-do.jp

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