プロジェクトの“今”

Posted : 2013.12.06
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プロジェクトの"今"|市民や消費者も巻き込んだ新たなモノづくりの仕組みづくりに挑戦(スローレーベルディレクター 栗栖良依)

まずお話をうかがうのは、スローレーベルの司令塔、ディレクターの栗栖さん。
現在進行形のスローレーベルはもちろん、これまでの経緯、未来への展望についてもお聞きしました。

アーティスト、福祉施設、企業の三者によるモノづくりのプロジェクト

素敵な雑貨を作るブランドとして知られているスローレーベルは、どんなきっかけで、そして何を掲げてはじまったのでしょうか? まずはそのあたりをディレクターの栗栖さんにお聞きします。

スローレーベルが拠点とする「象の鼻テラス」は、アートスペースとレストハウスを兼ねた横浜市の公共施設で、株式会社ワコールアートセンターが横浜市から委託を受け、管理運営しています。そのワコールアートセンターが推進する、アーティストと企業の“ランデヴー(出会い)”によって生まれる新しい視点を活かしたモノづくりのプラットフォーム「ランデヴープロジェクト」を横浜でも実現しよう、ということで、2009年に「横浜ランデヴープロジェクト」がスタートしました。ただ、横浜の場合は企業からではなく、地域作業所など福祉施設が手を挙げてくださったんです。

ある意味、偶然ともいえる福祉施設との出会いですが、彼らが行っているのは、いわゆる大量生産品ではない、手仕事によるモノづくり。何千個、何万個を同じ形、安い価格で作ることはできないかわりに、ひとつひとつの表情を変えるなど、マスプロダクション(大量生産)ではできないモノづくりが可能です。その部分を強みと捉え、アーティストと福祉施設のコラボレーションがはじまりました。

そんな中で、2011年に、全て一点モノの手づくり雑貨ブランド「スローレーベル」が誕生しました。大量生産では実現できない自由なモノづくり=“スローマニュファクチャリング”を試みるプロジェクトです。

ディレクターの栗栖さん(象の鼻テラスにて)

ディレクターの栗栖さん(象の鼻テラスにて)

港南福祉ホームの作業風景

港南福祉ホームの作業風景

 


市民参加型のモノづくりへの可能性

スローレーベルの三本柱、アーティスト、福祉施設、企業に加えて、これからの可能性を広げるファクターが生まれつつあるとか。それはさまざまな活動をサポートする市民スタッフ。市民スタッフが生まれた経緯とは?

スローレーベルには、さまざまなアイテムがあり、またいろんな施設の方が関わっています。知的障碍の方、脳梗塞など中途障碍による半身麻痺の方、目や耳が不自由な方。それぞれ個性が違うので、その個性に合ったアーティストと組み合わせて商品を開発してきました。
そんな風に作った商品を横浜高島屋で販売したり、拡大して全国で売り出したりしてきましたが、同時にいろんな課題も見えてきます。たとえば生産力。この部分の強化という意味も含め、2012年から「ファクトリー」というプロジェクトが生まれました。2回目となる2013年3月には“スローファブリック”をテーマに開催し、多くの方にご参加いただきました(詳しくはこちら→http://www.slowlabel.info/project/factory2)。

その名の通り、象の鼻テラスをスローレーベルの工場=ファクトリーにしてしまおう!という試みです。普段、施設で使っている道具や機材を運び込んで、ご来場いただいた人たちに実際にお仕事としてモノづくりに参加してもらい、報酬としてスローマネーをお支払いします。そのスローマネーを使って、商品を購入したりカフェでお茶したりもできる、という参加型展覧会です。

ファクトリーの開催をきっかけに、市民スタッフの方々にも参加していただく場面が生まれました。先ほど、アーティスト、福祉施設、企業の三者による取り組みとお話したのですが、ここにスローレーベルのさまざまな活動をサポートしてくださる市民スタッフという要素も加わり、市民参加型のモノづくりとして、また新たな可能性が生まれつつあります。

2013年のファクトリーの模様

2013年のファクトリーより。《Paper City》アーティスト:WhiteINQ
梱包用の紙バンドを編んで作った小物入れをビルに見立て、横浜の地図上に並べ街を作る

 


アーティストが開発した、消費者がモノづくりに参加できる「まるイロ」

スローレーベルが開発するプロダクトにも新しい流れが。ヒット商品「まるイロ」の誕生です。

まるイロ
最初の頃は、プロダクトのデザインをアーティストがしていました。ところが、商品が売れはじめると商品供給が追いつかないことが課題に。そこで、アーティストにプロダクトのデザインではなく、誰でも簡単に作れて、なおかつ素敵なものになる道具や製法をデザインしてもらうことにしました。そうして生まれたのが「まるイロ」。家にある糸や布を使って、簡単に丸い織物ができる道具です。これまでの製品だと、消費者は「買って使う」という行為でしか関わることができませんでしたが、この「まるイロ」は消費者に作るところから関わるきっかけを生み出しました。

 


手を動かしてモノをつくり、人とつながる場を提供

スローレーベルにゴールは設定していない、という栗栖さん。問題が発生したら、解決するために新しいアイデアを生み出す…そんな風に前進していくスローレーベルがめざしたいものとは?

「ファクトリー」や「まるイロ」に対しての反応を見ていると、買うよりも作りたい欲求を持っている人が多いなと強く感じました。震災の後に編み物をする人が増えたという話があって、編み物に夢中になることで無になって不安を忘れることができ、目に見える形で仕上がってくることが安心感に繋がったそうです。ちゃんと形になるっていう安心感もあるからじゃないかと。

ファストな世の中では、便利で、モノが溢れ、生活が満たされているように感じる一方で、何かもの足りない、何かが違う、このままではいけない、と誰もが孤独や不安、限界のようなものを感じているのではないかと。スローレーベルは、みんなで楽しくお喋りしながら手を動かす、そういう機会や場を提供しています。これからも、単なるモノづくりに留まらず、モノづくりを通じた新しいコトづくりやその仕組みづくりに挑戦していきたいですね。

大まるイロ制作風景

2013年のファクトリーより。大まるイロ制作風景。 PHOTO:427FOTO

 

「THE FACTORY 3(仮)」は2014年3/1(土)~23(日)に開催

毎年恒例の「ファクトリー」、次回は2014年3月に開催。「海と空」をテーマに、徳島で生まれたスローレーベルの新機軸「ブルーバードコレクション」もお披露目する予定。詳しい内容は、スローレーベルWebサイトでチェックしてください
http://www.slowlabel.info/

商品情報はこちら

スローレーベルの商品情報  http://www.slowlabel.info/product/
取扱い店舗情報  http://www.slowlabel.info/product/shop/
商品についてのお問い合わせ  http://www.slowlabel.info/contact/

 栗栖良依さん

●Profile スローレーベルディレクター栗栖良依さん

美術・演劇・イベント・製造と横断的に各業界を渡り歩いた後、イタリアのドムスアカデミーにてビジネスデザイン修士取得。その後、東京とミラノを拠点に世界各国を旅しながら、様々な業種の専門家や企業と、対話による新しい価値の創造に取り組む。2010年3月、右脚に骨肉腫を発病し休業。2011年4月、右脚に障碍を抱えつつ新たな人生をスタート。横浜ランデヴープロジェクトのディレクターに就任し、スローレーベルを立ち上げる。現在は、スローレーベルのディレクターとしてプロジェクト全般の企画開発と推進を担っている。

 

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