レポート「創造性は都市に何をもたらすか?―スコットランド・ダンディー市との対話から」(後編)

Posted : 2020.05.26
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「アーツコミッション・ヨコハマ(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)」とブリティッシュ・カウンシルは、2018年から英国との交流プログラムに継続して取り組んできた。「東京2020オリンピック・パラリンピック」の開催を控えた今年、横浜で「事前キャンプ」を行う英国との文化交流プログラムが実現した。 来日したのは、スコットランドのダンディー市で創造産業におけるネットワーキングや政策提言などを行う「クリエイティブ・ダンディー(Creative Dundee)」のディレクター、ロリ・アンダーソンさんだ。横浜・関内のベンチャー企業成長支援拠点、YOXO BOXで2020年1月に開催されたフォーラムには、ロリさんをはじめ横浜内外で活躍するクリエイターやオーガナイザー、編集者らが登壇。「創造性の広がりがもたらす都市へのインパクト」をテーマに意見を交わし合った。前編に続き、後編ではライトニングトークとクロストークの様子をレポートする。

前編はこちら

ライトニングトーク

ライトニングトークでは、横浜でこれから創造性のある活動を仕掛けていく、もしくは現在も仕掛けている3名のプレイヤーによる事例が発表された。

chart project
こくぼひろし(ひとしずく株式会社代表/chart project主宰/一般社団法人ソーシャルグッド代表理事)

大学時代に行ったフィリピンで「環境問題は命の問題だと気付かされた」というこくぼさん。ライフワークとしても社会課題の解決に取り組む。

社会課題を表すチャートやグラフをアート作品に変えるプロジェクト「chart project」は、社会課題を勉強としてではなくアートとして身近に感じてもらいたいという思いからスタートした。アーティストがチャートやグラフを基に、その社会課題が解決された理想の未来を描き、それをアート作品としてクリエイティブコモンズライセンスでシェアしている。本プロジェクトは横浜のメーカー企業とタイアップしたchart作品のグッズ展開や、ワークショップ、展覧会の開催など、多角的なアプローチで広がりを見せている。

「社会課題のグラフをアートで表現する」活動を軸に、自治体や企業、団体とパートナーシップを組み、活動の可能性を広げるためのさまざまな活動を行う「chart project」

 

ペアレンティングホーム
秋山怜史(一級建築士事務所秋山立花 代表/NPO 法人全国ひとり親居住支援機構 代表理事)

建築設計事務所の代表として住宅や保育園などの設計に携わりながらも、社会課題に対して解決法を生み出す活動に取り組む秋山さん。「建築家は社会に対して責任がある職業。それゆえ空間を作るだけでなく“選択肢を産みだせる”側面をもっている」と語った。

2015年の国勢調査によると横浜市全世帯数の7%は母子家庭だ。不動産を借りることが難しい母子家庭への支援のファーストステップは「居住支援」であると秋山さんは指摘する。秋山さんが2012年から取り組んでいるのが、シングルマザー専門のシェアハウス「ペアレンティングホーム」の運営だ。その後も母子家庭のシェアハウス専門の不動産サイトを立ち上げるなど、活動を広める努力も続けている。「すべての子どもたちが安心して暮らせる住まいを確保できる社会を、実現していきたいと思っています」。

母子家庭のシェアハウス専門不動産サイト「マザーポート

 

IDEAS FOR GOOD
加藤佑(IDEAS FOR GOOD 編集長/ハーチ株式会社代表)

社会課題を解決するクリエイティブなアイデアを、世界中から集めコレクションするオンラインのメディア「IDEAS FOR GOOD」を運営する加藤さん。同サイトで先述の「chart project」も取り上げたことがあるという。

2019年11月には編集部が1か月間かけてヨーロッパの先進都市を取材し、70におよぶ関連プロジェクトを訪問。その報告会を「ことぶき協働スペース」で、2019年12月に開催した。「アムステルダムではサステナビリティとイノベーションの交差点と言われる考え方“サーキュラーエコノミー”がホットトピックになっている」と加藤さんは語る。現在は、横浜で出たごみを使ってTシャツを作るプロジェクトを地元の印刷会社とともに取り組んでいるという。「生産と消費の距離を近づけることは大事なテーマだと思っています」。

横浜におけるサーキュラーエコノミーの取り組みを加速させるためのメディアプラットフォーム「Circular Yokohama(サーキュラーヨコハマ、URL:https://circular.yokohama)」をオープン

 

パネルディスカッション「創造性の広がりがもたらす都市へのインパクト」

ここからは、デザイン・ストラテジストで、横浜に拠点を構えるデザイン事務所NOSIGNER 代表の太刀川英輔さんをモデレーターに「創造性の広がりがもたらす都市へのインパクト」と題したパネルディスカッションの様子をお届けする。パネラーにはキーノートを発表したロリさんとともに、『MEZZANINE』の編集長で株式会社アーキネティクス代表取締役の吹田良平さん、関内イノベーション・イニシアティブ株式会社代表取締役の治田友香さんが参加した。

太刀川英輔(以下、太刀川):会場から質問票をいただいています。パネルディスカッションから参加する吹田さん、治田さんはともに、クリエイティブシティという文脈においてさまざまな活動に取り組まれていらっしゃいます。

まずはアイスブレイクとしてロリさんにお聞きしたいと思いますが、横浜を視察され、横浜における創造産業のポテンシャルをどのように感じましたか?

ロリ・アンダーソン(以下、ロリ):まだ1日半しか横浜にいませんが、非常に多くの創造性のチャンスがあり、また人々が関与していると感じました。創造性が社会にもたらす影響力や、経済的な利益について、理解の深い都市ですね。本日の会場のような「クリエイティブハブ」も市内にたくさんあり、多くのコネクションが生まれています。ダンディーと似たものを感じます。

太刀川:先ほどACYさんからは、ダンディーと中区の人口がほぼ同じ規模であるというお話がありました。同じ港町ですし、キャラクターとしては近いですよね。

早速ですがシティブランディングの「ビジョン」について、議論をはじめていきたいと思います。創造産業の側面から、都市のビジョンはどのように作られていくべきとお考えでしょうか?

ロリ:まずは都市のニーズを特定することです。ビジョンをもつことは重要ですが、それが都市で必要とされていることに対応したものでなければなりません。ダンディーでは重工業がなくなって、雇用が失われるといった課題がありました。何かを変えなければならないと市民も思っていたんです。そこでデザイン都市として立ち上がろうと、一体になることができました。エディンバラやグラスゴーは国際的な都市ですが、ダンディーのような規模の小さな都市には何かが必要でした。そしてデザイン都市というビジョンを、市民が関与できるものにしようとしたのです。

吹田良平(以下、吹田):まず、私は創造都市を文化芸術の枠組に止めるのではなく、経済発展の文脈まで拡大して捉えるべき概念だと考えています。加えて、創造性とは、特別な人の特別な能力などではなく、すべての人間がもっている根源的な能力であると考えます。その恒常的な発揮を問われるのが創造都市です。では、創造性とはいったい何か。一言で言うなら、”変化し続けること”です。それが創造性であり、同時に人間の可能性の発露です。だから、創造都市とは、Society5.0で言うところの”人間中心社会”と同意なのです。そこで重要な点は、この”変化”とは他者との関与によってもたらされる、という事実です。こういった思考を前提にビジョンを考える必要があると思います。

太刀川:僕は個人的に創造性の研究をずっとしていますが、創造性は生物の進化と似ている側面があると感じています。僕はこの会場「YOXO BOX」のブランディングにも関わっていますが、「Y」と「X」によるネーミングは遺伝子から着想を得ました。都市政策においては、大きな変化をもたらすアイデアは選択されにくい状況があるのではないでしょうか。ですが新しいものを未来へ残していくためには、進化の過程にあるような変化が必要です。変化そのものの価値を分かってもらうことが、創造産業を広げていくためには非常に重要ではないかと思います。

吹田:先ほど、”変化”とは他者との関わりによってもたらされると申し上げましたが、その際に重要なのが、関与のタイプです。単に興味関心を一にする人たちとの交流に止まるのではなく、意識すべきは、他分野他領域の専門家との衝突的交流だと思います。そこから創発される変化こそが、次なる産業創造、経済発展につながるのだと考えます。

ロリ:ダンディーでも、横浜と状況は大きくは変わらず、創造産業の経済的インパクトを示さなければならないプレッシャーの中に私たちはいます。経済規模にとどまらず、クリエイティビティが福祉などほかの分野にどのような影響を及ぼしているかを示す必要があると思います。例えばあるコラボレーションがどのような成果に結びついたか、その因果関係を示すのです。創造産業の価値を示すためには、そういった主張も有効ですね。

太刀川:おっしゃる通りで、社会的な価値を単に経済的な数字ではないところでうまく測っていかないと、僕ら自身が豊かになるための活動ではなく、企業が大きくなるための活動になってしまいますよね。社会的価値を志向するプロジェクトはとても重要だと思いますが、そういう点で横浜におけるロリさんのような立場で活動をし続けてきたのが、治田さんではないかと思います。今日のライトニングトークでも、非常に価値あるプロジェクトの事例が共有されました。ああいったプロジェクトの価値をどのように証明していくことができるかを、お聞きしたいと思います。

治田友香(以下、治田):私自身は、ソーシャルビジネスやソーシャルイノベーションを応援しているのではなく、それによって地域を好きになる人が出てきたり、地域が盛り上がったりすることに価値があると考えています。ソーシャルイノベーションによって、地域で働く人や集う人が増えることが、街の価値になる。ただ、そこをどのように行政へ伝えていくかという点は、ずっと課題ではありました。ひとつの転機になると思っているのが、私がYOXO BOXではじめた「YOXOイノベーションスクール」です。ここでの成果として、横浜のベンチャー企業がどれだけ投資を呼び込めたか、どれだけ雇用を生んだか、どういった産業に結び付いているか、といったことを提示していきたいと考えています。

太刀川:イギリスではソーシャルインパクトの評価は進んでいる印象がありますが、ソーシャルインパクトの価値を示すプロセスで、どのような点に力を入れていますか?

ロリ:我々の重要なミッションのひとつが、ダンディーが住みやすい、愛すべき街になること、そしてその環境づくりに貢献することです。若い世代には、大学を卒業し、できる限りこの地にとどまって成長してもらいたい。そしてこの街に貢献し、変化を促してもらいたいと考えています。

そのために、先ほども話題に挙がりましたが、福祉や教育といった他分野における創造産業の貢献を測定していくことが重要です。時代はあっという間に変わります。あらゆる分野において、クリエイティブセクターにしか対応できないニーズがある。常にクリエイティブセクターの人たちとともに、新しいアイデアやコンセプトに取り組みたいと思っています。

太刀川:横浜が、創造性を発揮することに対してブレーキをかけない街であってほしいですね。創造都市とは、クリエイティビティを応援する街です。そういう意味では、クリエイティビティを発揮している人をどんどん応援していけばいいと思うんです。今日のお話が皆さんにとって何らかのインスピレーションにつながることを願っています。

本日はお三方、ありがとうございました。

フォーラムの最後は、共同主催であるブリティッシュ・カウンシルの駐日代表、マシュー・ノウルズ氏が閉会の挨拶で結んだ。この日の議論を「創造性が、さまざまな社会課題に取り組むことができ、都市を再生し形づくる力になることが分かりました」と総括した。「東京2020オリンピック・パラリンピック」の開催を控えた今年、さまざまな点で共通項のある横浜とダンディーの都市間の交流と、日英両国の発展への期待とともに、フォーラムを締めくくった。

取材・文:及位友美(voids

写真:森本聡(カラーコーディネーション


【イベント情報】

■フォーラム「創造性の広がりがもたらす都市へのインパクト~クリエイティブ・ダンディーを迎えて」

日時:2020年1月20日(月) 18:30~21:00

会場:YOXO BOX(横浜市中区尾上町1−6)料金:1,000円 *同時通訳あり

内容:
●キーノート「クリエイティブ・ダンディーの取組み」
ロリ・アンダーソン(クリエイティブ・ダンディー・ディレクター) 

●プレゼンテーション「アーツコミッション・ヨコハマの取組み」
杉崎栄介(アーツコミッション・ヨコハマ プログラム・オフィサー)

●ライトニングトーク
こくぼひろし(ひとしずく株式会社 代表/CHART project 主宰/一般社団法人ソーシャルグッド 代表理事)
秋山怜史(一級建築士事務所秋山立花 代表/NPO 法人全国ひとり親居住支援機構 代表理事)
加藤佑(IDEAS FOR GOOD 編集長/ハーチ株式会社代表)  

●パネルディスカッション「創造性の広がりがもたらす都市へのインパクト」
ロリ・アンダーソン(クリエイティブ・ダンディー ディレクター)
太刀川英輔(NOSIGNER 代表、デザイン・ストラテジスト)
吹田良平(株式会社アーキネティクス代表取締役/『MEZZANINE』編集長)
治田友香(関内イノベーション・イニシアティブ株式会社 代表取締役)

主催:アーツコミッション・ヨコハマ(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)、ブリティッシュ・カウンシル