子どもと芸術文化~Vol.2 横浜市民ギャラリー、横浜市民ギャラリーあざみ野の取り組み

Posted : 2015.07.31
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夏休みにあわせて、横浜市芸術文化振興財団の「子どもと芸術文化」の取り組みについて大特集。第2回目は、横浜市初の文化施設であり50年の歴史を持つ横浜市民ギャラリー、そして10年の活動が経過した横浜市民ギャラリーあざみ野を取材した。

Vol.1 横浜美術館の取り組み
Vol.3 横浜みなとみらいホールの取り組み
Vol.4 横浜能楽堂、横浜にぎわい座の取り組み

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前回(2012年)の「横浜市こどもの美術展」会場風景

 

横浜市民ギャラリーの子どもへの取り組み
――歴史をかけて大切にしてきたもの

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1966年 桜木町駅前の横浜市民ギャラリー

横浜市民ギャラリーは、1964年 (昭和39年)に横浜市中区桜木町に開設された。 戦後の復興の象徴ともいえる東京オリンピックに日本中が沸く中、「横浜に美術館がほしい」という当時の美術家や美術愛好者たちの大きな熱意が設立に駆り立てたのだという。1974年 (昭和49年)には関内駅前にできた「横浜市教育文化センター」の建物の中に移転開館した。そして開設から50年目に当たる2014年、西区の伊勢山に移転・再オープンした。二度にわたる移転を経験しながら、半世紀もの歴史を誇る。その開設まもなくから子ども対象の事業に目を向けてきたことは、特筆すべきだろう。1965年から開催している「横浜市こどもの美術展」がそれだ。

「横浜市こどもの美術展」の意義

第1回展には、幼稚園児から中学生まで5,000人におよぶ出品者があり、絵画、デザイン、版画など3,600点が展示されたという。

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1967年「第3回横浜市こどもの美術展」会場入口

 

その大きな特色は、子どもたちの「アンデパンダン展」、つまり審査をせず受け付けた作品すべてを展示する展覧会であることだ。当時、大人の展覧会では「無審査」という姿勢が流行っていたものの、子どもの展覧会は順位をつけるのが当然で、無審査の展覧会は画期的なことだった。子どもひとりひとりの個性を尊重し創造性を育むという精神で、現在に至るまで中心事業のひとつとして大切に継承されている。

今年で50周年を迎える「横浜市こどもの美術展」は 、7月31 日から8月9 日まで開催される。施設の移転・休館をはさんで3年ぶりの開催とあって応募の状況を気にかけていた横浜市民ギャラリー学芸担当、森未祈さん。「今年も2,298点という多くの出品がありました。新しくなった横浜市民ギャラリーの全館が子どもの作品でいっぱいになります。“作品を見る楽しさ”、“作品を見てもらううれしさ”を感じてもらえるように大切に展示します」と話す。

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前回(2012年)の「横浜市こどもの美術展」会場風景

作品は応募者の年齢順、五十音順に展示されるので、来場者は自分の作品や我が子の作品を見つけやすい。作品が展示された子どもたち、子どもや孫の作品を見に来た親や祖父母が当日参加できるワークショップ「アート・ハット」もある。紙と色とりどりのマスキングテープを使って自分だけの帽子をつくるワークショップに参加すれば“つくる楽しさ”も体感できる。また横浜市生まれで、横浜にある東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了のアニメーション作家、川口恵里さんのアニメーション5作品も上映する。

ハマキッズ・アートクラブで自立の体験

横浜市民ギャラリーでは、「横浜市こどもの美術展」に関連して、時代によってさまざまな子どものための事業を行なってきた。日常にある身近な素材を使った創作教室「創造のアトリエ」(1975-82年)、横浜市教育文化センター内にあったホールや視聴覚センターと連携して実施した「こどもフェスティバル」(1985-98年)、子どもたちが演技・音楽・舞台美術・衣装制作に関わってひとつの芝居を完成させた「ハマキッズ劇場」(1999-2001年)。現在実施されているのが「ハマキッズ・アートクラブ」だ。

ハマキッズ・アートクラブ」は、2002年に始めた事業だ。幼児・児童を対象に、年間10回ほどの講座を開催している。今年度「土粘土であそぼう」「えのぐであそぼう」「トートバッグにお絵描きしよう」(以上は実施済み)、「ぺったんアート」「スーパーカーをつくろう」を担当する講師は三ツ山一志さん。三ツ山さんは、横浜美術館(1989年開館)の開館時のスタッフで、「子どものアトリエ」を担当し、その後、横浜美術館副館長、横浜市民ギャラリーあざみ野館長、横浜市民ギャラリー館長を歴任し、現在は横浜市民ギャラリーの主席エデュケーターを務めている。「ハマキッズ・アートクラブ」にもまた、横浜美術館「子どものアトリエ」と同じ理念が貫かれている。

★三ツ山さん_0552その三ツ山さんが講師の「トートバッグにお絵描きしよう」を見た。三ツ山さんは、トレードマークのオーバーオール姿で子どもに語りかける。絵の具の使い方と特徴を教え、紙を配って下絵を描き、その下書きがOKになったら子どもたちはバッグに描き始める。

「上手な作品の作り方を教えるわけではなく、子どもが自ら考え、時には大人から教えてもらいながら、作り上げることに時間をかけられる自立の体験をしてもらう場であってほしい」という姿勢がうかがえた。時おり鑑賞席に向きなおり「子どもはほめましょう。ほめるというのは肯定することだからです」と話す三ツ山さんに、大きく頷く保護者たちの姿があった。

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「えのぐであそぼう」の様子

保護者たちから寄せられた声には、
「じっくり子どもがあきるまでできてよかった」
「“これをやってみようか?”と講師の先生が手本を見せてくれたのでいつもとちがうことに挑戦できました」
「心が動いている子どもたちは、見ていてとても楽しかったです!」
「子どもの様子に大人の方が学ばせていただきました」
など、発見がつづられている。

横浜市民ギャラリーがその長い歴史をかけて、子どもたちへ向けて果たしてきた大きな役割が現在に引き継がれているのを実感した。

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横浜市民ギャラリー外観

 


横浜市民ギャラリー
これから参加できる子ども向けプログラム インフォメーション

◆「横浜市こどもの美術展」
開催期間:7/31 (金) – 8/9日(日)   ※会期中無休
時間: 10:00~18:00 [入場は17:30まで]
料金:入場無料

■「ハマキッズ・アートクラブ」
募集中の講座についてはこちらで確認を
http://ycag.yafjp.org/lecture_child/

【横浜市民ギャラリーへのアクセス】

住所:横浜市西区宮崎町26番地1
最寄り駅:JR・市営地下鉄「桜木町」駅、京浜急行線「日ノ出町駅」
お問い合わせ:TEL 045-315-2828 
http://ycag.yafjp.org/


「あざみ野こどもぎゃらりぃ」昨年の様子 近藤晃子《みんなでつくろう!ボタンまつり》

「あざみ野こどもぎゃらりぃ」昨年の様子 近藤晃子《みんなでつくろう!ボタンまつり》

 

横浜市民ギャラリーあざみ野の子どもへの取り組み
――地域の特性にあわせて

横浜市民ギャラリーあざみ野を訪れた。これまで訪ねた横浜美術館のあるみなとみらいエリアの開放的な空気とも、横浜市民ギャラリーの建つ伊勢山地区の歴史を感じる香りとも、まったくちがう雰囲気だ。 街に小さい子どもの姿が目につく。横浜駅へ30分かかるが、渋谷駅へも30分という、“横浜都民”とも称されるカジュアルなライフスタイルを好む子育て世代が多いエリアだ。

横浜市民ギャラリーあざみ野(以下「あざみ野」)は「横浜北部地域に美術館を」という声を受けて2005 年に開館した。北部地域とは青葉区・都筑区・緑区・港北区を指す。

水曜日の親子の過ごす場所

子どものためのプログラムは開館時から開始された。やはり横浜美術館の子どものアトリエの理念に準じているが、この地域に即した運営の特徴がある。

「あざみ野」でも「親子のフリーゾーン」が実施されているが、横浜美術館と異なるのは平日の水曜日の開催が多いこと。年間37 日のうち2/3 を占める。住宅街に立地していることから平日実施の希望が多く、近隣に住む未就園児と母親たちの定番の“お出かけ先”として毎回にぎわう。小学生以下の子どもと保護者を対象にしているため、親子がいっしょにゆったりと楽しむ場となっている。 

横浜市民ギャラリーあざみ野での 「親子のフリーゾーン」水曜日の午前中の様子

横浜市民ギャラリーあざみ野での 「親子のフリーゾーン」水曜日の午前中の様子

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ジャンルの複合も

「あざみ野」が土日曜日や祝日に開催している「子どものためのプログラム」は、 年間約20講座が開かれている。横浜美術館「子どものアトリエ」、横浜市民ギャラリー「ハマキッズ・アートクラブ」とのちがいは、ほとんどの講座にそれぞれのジャンルの専門の講師を招いて実施していること。例えば、この夏開催する「スイカを描く木版画教室」の講師は、浮世絵の技法による木版画を伝える活動をしている「彦坂木版工房」だ。「ピンホール写真を撮ろう」の講師は、写真家の村上友重さん。

「あざみ野」は子どもに向けた写真の取り組みにも力を入れている。「横浜市所蔵カメラ・写真コレクション」を収蔵し、その活用を重視しているからだ。

さらに特色としては、美術だけではなく音楽の要素を含む内容も実施していることだ。「あざみ野ジュニアコーラス」は毎年募集をかけると、リピーターも多く抽選になることもしばしばの人気だ。指導するのは声楽家の加藤裕子さんとピアノの斎藤真理恵さん。10回もの練習を重ねて、クリスマス間近にはエントランスロビーで合唱を発表する。

「開館して10周年を迎え、未就園児のころに来ていた子どもが小学校の高学年になって版画教室に参加を申し込むなど、受講者の層にボリュームが出てきました。また、ジャンルの複合や講師の多彩さはコンテンポラリーの展覧会を開催するギャラリーであることから、現代のさまざまなアーティストと子どもたちとが出会える場となることを意識しています」と、ワークショップコーディネーターの浅岡なつきさんは説明する。

「子どもが成長していく」地域である特色に対応して、子どもの成長階段に合わせてリピート参加ができる仕組みになっている。

子どものためのプログラム「えのぐであそぼう!」(幼稚園・保育園の年中組の幼児が対象)の様子

子どものためのプログラム「えのぐであそぼう!」(幼稚園・保育園の年中組の幼児が対象)の様子

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子どものためのプログラム「油絵に挑戦」(小学校4~6年生が対象)の様子

子どものためのプログラム「油絵に挑戦」(小学校4~6年生が対象)の様子

 

「あざみ野こどもぎゃらりぃ 2015」も10周年

7月31日(金)から開催される「あざみ野こどもぎゃらりぃ 2015」にも「あざみ野」ならではの特色がある。「自分の思いと写真」展は、横浜市立山内小学校(青葉区)に出張ワークショップに出向き、5年生にデジタルカメラを貸し出して写真を撮ってもらい、1枚を選んで自分の言葉を添えて展示するもの。写真へのアプローチと、地域との協働という2つの要素があわさったプロジェクトだ。

また、楽器「瓦フォン」の展示とワークショップを行なうのは作曲家の野村誠さん。「あざみ野」では音楽も美術とともに子どもたちへの取り組みのツールと捉えられている。

「あざみ野こどもぎゃらりぃ」昨年の様子 富田菜摘《ものものがたり》

 

この「あざみ野こどもぎゃらりぃ」も開館当初からの開催、10周年だ。地域との密着性、美術と音楽の交流など、親近感とのびやかさのある企画の姿勢が地域の子どもたちと保護者に支持を獲得していると感じた。

(次回は横浜みなとみらいホール、横浜能楽堂、横浜にぎわい座の取り組みを紹介します)

外観

横浜市民ギャラリーあざみ野外観

 


横浜市民ギャラリーあざみ野
これから参加できる子ども向けプログラム インフォメーション

◆「あざみ野こどもぎゃらりぃ 2015」
開催期間7月31日 (金) – 8月9日 (日) ※会期中無休
時間: 10:00~17:00 
料金:入場無料

■「あざみ野 親子のフリーゾーン」
申し込み不要
参加無料
対象:小学生以下の子どもとその保護者

◆「子どものためのプログラム」
募集中の講座についてはこちらで確認を
http://artazamino.jp/series/for-kodomo/

【横浜市民ギャラリーあざみ野へのアクセス】

住所:横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内
最寄り駅:東急田園都市線、横浜市営地下鉄「あざみ野」 駅
お問い合わせ:TEL 045-910-5656
http://artazamino.jp/

Vol.1 横浜美術館の取り組み
Vol.3 横浜みなとみらいホールの取り組み
Vol.4 横浜能楽堂、横浜にぎわい座の取り組み