子どもたちと作り上げた“山車まつり”で見えた寿町の顔 美術家・竹本真紀さん

Posted : 2020.03.24
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中区黄金町、長者町、寿町と、今もまちの浄化や再生、安全・安心の確保に取り組むエリアに深く関わってきた竹本真紀さん。祭りに慣れ親しんだ青森県八戸市出身の彼女は今年度、子どもたちのアイデアをもとに山車をつくり寿町内を練り歩く“山車まつり”を実施した。アーティストであるという姿勢を崩さず常にまちの人と対等に、真剣に向き合う竹本さんに、そのエネルギーの源泉や関係の築き方を聞いた。

福祉の最先端・寿町の魅力

竹本さんが寿町に関わるようになったのは2011年。黄金町周辺の商店の扉や窓に設置したオリジナルキャラクターを地図を持って探しまわってもらう「トビヲちゃんを探せ!」プロジェクトに続き、寿町の公園を設計した建築設計事務所・みかんぐみの依頼がきっかけで寿町のキャラクター「コトブキンちゃん」を作ることになった。障害を持つ人が通う作業所や住民のための娯楽室、弁当屋などにコトブキンちゃんを設置し、これがきっかけで町内の会議や路上生活者のパトロールにも参加するように。まちで出会った人々とは、「家族以上の結びつきがある」と話す。

「寿町でやっていることって、福祉の最先端なんです。黄金町もそうですが、ここで普段起こっている問題の解決方法は、いろんな地域とシェアできると思っています。たとえばアルコール依存症で悩んでいるとか、私も家族が酒で暴れた経験があるので、そういうことへのヒントがたくさんある寿町に来ると、自分自身がすごく救われるんですよ。温かい人たちが多いし、常に知識を更新していて、社会に馴染めない人たちに対しての寄り添い方を学ぶことができる。そんな家族的な雰囲気が、私にとっては魅力があります」

山車まつりは12月に実施。横浜市寿町健康福祉交流センターを出発した

 

制作とまちの活動のバランス

常にフィールドに出てまちの人と一緒に動いている印象のある竹本さんだが、制作活動とのバランスに悩むこともある。横浜の創造都市政策の黎明期からその中に身を置いていたからこそ、オープンに活動しなければいけない、アトリエに人が来たら話をしなければいけないというサービス精神があった。

「特に黄金町ではあまり人がいない頃から制作活動をしているので、『黄金町行ってみたけど何にもなかったよ』みたいなことを言われるのも嫌だなと思って、できるだけ活動場所は常に開けていました。

その後しばらく八戸の実家に帰っている間に、雪であまり外に出られない中ずっと絵を描いていた子どもの頃を思い出して。横浜ではとにかくたくさん人に会っていたので、自分が集中して描きたい絵だけを描いている時間があまりになかったなと実感したんです。町内の頼まれごとを日々こなしているような感じから、いったん制作するアーティストに戻ろうと思いました」

今回は竹本さんが八戸のお囃子を演奏。次回はオリジナルを作りたいと意気込む

 

これまでは、まちの人が抱える課題に対する解決のアプローチとしてアートプロジェクトを組んできたが、純粋に自分がやりたいことをイメージしたときに浮かんだのが“祭り”だったという。

「八戸では町内ごとにお囃子が違うんですが、横浜で参加したお祭りでは既製の祭り囃子を使うことが多くて、独自のお祭りがあまりないように感じていました。寿町は支援側の人も含めて東北出身者が多く、地元に全然帰っていないからお祭りも見られていないよ、という話をすることがあったんです。

みんなのためにやると言うと一部の人の『別に世話になりたくねーよ』みたいな言葉に傷ついたりすることもたくさんあったので、誰に何を言われても『これは自分の作品です、自分でやっています』と言えるように自分の中で気持ちを整理しました。今回のクリエイティブ・インクルージョン活動助成が地域でなくアーティストを対象にしていたのもやりやすかったです」

パトカーやケーキ、ビールといった子どもたちの思いついたもの“全部乗せ”の山車

 

楽しい理由で寿町に来てほしい

“自分の作品”と言っても、一人で籠って絵を描いたわけではない。山車のデザインは、地域の学童などから来た子どもたちがワークショップで描いた絵をもとにした。制作には横浜の名門サンバチーム「エスコーラ・ヂ・サンバ・サウーヂ」で山車を作る木村充さん、黄金町で活動するアーティストの杉山孝貴さんが参加し、長者町を拠点にする映像作家・吉本直紀さんが記録を担当。楽器はパイプなどを使って音が出る形にしたものに、子どもたちや通りすがりの町民にベタベタと飾り付けを貼ってもらった。祭り当日は、路上生活者のパトロール活動を共にした男性たちがエイサーを踊りながら山車に付いて来てくれた。

「前から自分だけでは作れない、でっかいものをみんなで汗を流して作りたいなと思っていたんです。寿町には、画鋲を数えたり箱を折ったりといった軽作業や作品を作るなどいろんな就労ができる作業所がたくさんあるんですが、そういう所とはつながっていないけどここ(横浜市寿町健康福祉交流センター)に来ているような人たちにも、何か手伝いたいという気持ちのある人が多いんだなと思って。外でコトブキンちゃんを貼っているときに、集中しなきゃいけないのに手伝ってこようとして怒ったこともありました(笑)。

そういう人たちと今回一緒に作業して、ちょっとした達成感みたいなものを感じてもらうことができたのはすごく良かったです。自分の作品とは言っても、どこかで誰かのためにがんばろうという部分がないとどうしても動けないところがあるんです」

今回コトブキンちゃんと共に山車に乗るマスコットとなった、“山埜井先生”の存在も大きかった。

「今は退職された学童の先生で、その方の子どもとの接し方などを学びたいとすごく思っていて、何か一緒にやりたいなと考えていたんです。その山埜井先生が、寿町の外からももっと子どもたちに来てほしいという話をしていて。たとえば炊き出しの手伝いなど何かに参加してほしいと言っていたんですけど、もうちょっと楽しい理由で来られたらいいんじゃないかなと思ったんです」

 

 

まちの人と同じ場所で呼吸する

レジデンスアーティストとしてまちに滞在しても、住民たちとこれだけの関係を築くことはなかなかない。竹本さんはどうやってまちに入っていき、その原動力はどこから生まれているのだろうか。

「黄金町ではお店のプロジェクトをやっていたし、長者町ではアーティスト拠点の運営方でもあったので、商売をしている人たちと連携をとらないとやっていけない部分がありました。まちは少しずつ良くなってきたけどお店が厳しい状態の人もいて、そういう人たちとどうやって続けていこうかと知恵を出し合っているうちに同士のようになって。助成金などが下りている時期もあったけれど、基本的に私も自分で稼がなければいけないので真剣なやりとりになって、アーティストだから、ということではなくて平たく話ができたと思います。

それと、郷に従うではないですが、住民の人がどういう呼吸をしているのかということを一緒に体験するために、とりあえず一緒に汗をかくようなことをやってみます。黄金町であれば、大岡川の周りの清掃がずっと定期的に行われているので、一緒に掃除していると、おお!たけもっちゃん!とか呼ばれるようになって。

黄金町のときは、自分から全部のお店にあいさつまわりにも何回か行っていました。まちづくりのための会議って、出られる人や中心人物しか来ないので。いきなり行っても何しに来たんだとなってしまうので、キャラクターを貼らせてくださいとか、まちを知るためにアート的なことを自分から日々やっていました。でもそれは別に義務とか負担ではなくて、散歩がてらぐるっとまわってくるような感覚でした。

まちでアートをやることは批判を受けることもありますが、私はアーティストなので、『まちにアートなんかが来てもしょうがねんだよ』とか言われてしまうと寂しい。どうやったらアートに興味を持ってもらえるのか、入り口を探っているという感じですね」

寿町では路上生活者に路上文学賞のチラシを配ったり、コトブキンちゃんの漫画を描いて配ったりしていたという竹本さんだが、まだ足を踏み入れていない場所もたくさんあったという。

「いろいろと繊細な地域だなというのは分かっているので、それを理解するためにはいろんな人に話を聞かないといけないし、どうやったらその人の本音を引き出せるのかなというのは常に考えています。

それでも、まだ寿町は入りにくいイメージがあって、関係性ができたところ以外はあまり入っちゃいけないなと思っていたんですが、今回初めて山車を引くコースの両側のお店に総当たりで入ったんですね。スナックとかにすいませんって入っていくと最初はみんな何だって警戒するけど、『この時間に子どもたちと山車でまわるので音が出ちゃいます』と言ったらニッコリ笑って『そんなのわざわざ言いに来なくていいのに』と返してくれて。町内会やイベントごとでも会ったことのない人たちだけど、みんなすごくいい人たちだったんですよ。

寿町で常に働いている人たちだから、施設の人や支援に関わる人たちと同じですごく温かいし、しっかりしていて、おっちゃんたちに優しくすることも、怒ることもできる。祭りの当日も、扉を開けて『来た来た!』って見てくれて。そういうところは、今回やらないと分からないことでした」

次回は小学校で活動する韓国のチャンゴという太鼓のチームにも参加してもらいたい、制作にもっといろんな人に関わってほしいと、計画が膨らむ竹本さん。寿町の個性的な新しいお祭りが生まれる様子を今後も楽しみにしたい。

 

取材・文:齊藤真菜

撮影:大野隆介


 

【プロフィール】

竹本 真紀(たけもと・まき)

青森県八戸市生まれ。1999年国立弘前大学教育学部卒業。ZAIM(旧関東財務局)、創造空間9001(旧東横線桜木町駅舎)、長者町CHAPなどのクリエイター拠点で活動。町の中にオリジナルキャラクターを出没させて探し回ってもらいながら町を観察してもらう「◯○ちゃんを探せ!」が代表作。