エラ・ホチルドが描く数千年後の未来『Futuristic Space』――人類の次なる社会を見つめて

Posted : 2019.01.24
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アーティストとともに新しい身体表現を探求し、横浜から世界へと発信する国際ダンスフェスティバル「横浜ダンスコレクション」。今年もいよいよ1月31日から約3週間、横浜赤レンガ倉庫1号館を中心に、全7演目とコンペティションⅠ・Ⅱを上演する。そのオープニングを飾るのが、エラ・ホチルドの世界初演作『Futuristic Space』だ。本作は現代美術作家・大巻伸嗣による舞台美術も見どころのひとつとなっている。GAGAやバレエなどさまざまなバックグラウンドをもち、独自の身体言語を探求するエラに、現在まさに創作の過程にある『Futuristic Space』についてお話を聞いた。

24回目の開催を数える「横浜ダンスコレクション2019(以下ダンコレ)」。今年掲げたテーマは「METHOD / SPACE / PRESENCE」だ。多様なアートフォームを越境し、独自のメソッドをもつアーティストが横浜に集結する。オープニングを飾るエラ・ホチルドは、数千年後の未来を舞台に、人類が構築する社会や、自然との関係性を描き出す。横浜では過去に森山未來と共同振付した『JUDAS, CHRIST WITH SOY』を発表し、大きな話題を呼んだエラ。世界初演の新作の発表に、多方面から期待が高まっている。

また本作には、鈴木竜をはじめとした自身の振付作品の実績をもつダンサーたち、そして舞台作品に初めて参加する現代美術作家の大巻伸嗣、あらゆる楽器を使いこなすパフォーマティブな音楽家のゲルション・ヴァイセルフィレルなど、スペシャルな顔ぶれがそろう。それぞれの個性が化学反応を起こすことで生み出される壮大なファンタジー。一体どのような舞台作品になるのだろう? 

2019年の元旦に来日したというエラに、1月初旬、横浜赤レンガ倉庫1号館で稽古の合間をぬってインタビューした。

『Futuristic Space』のメインテーマ「数千年後の未来」とは?

――新作の舞台は「数千年後の未来」です。私たち観客にとってアーティストが描き出す“未来”はどのようなものか、とても興味をひかれるテーマです。どのような物語を立ち上げようとしていますか?

これまで多くの科学者や作家たちが探求してきた、永遠のテーマですよね。数千年後の未来という、知りようのないことを知ろうとする思いがそこにはあります。世界が終わった後、あるいは巨大な災害が起こった後、世界はどうなるか。現実に目を向けてみると、私たちはそれぞれの環境のなかでいかに生き残るか、そのことに支配されている状況があると思います。過激な行動を起こす人もいれば、小さな行動を積み重ねている人もいる。一人ひとりがコミュニティや共同体のなかで、他者と比べながら生きているのではないでしょうか。このような現実を考えたときに、未来に生き残るとはどういう意味をもつのか。それは今とは違う状況があるのではないかという、私自身のファンタジー、妄想から始まっています。

何かが壊れた後に、人は何かをつくります。でもそのようなとき、人は古い文化や慣習を寄せ集め、既知のものから新しい社会をつくろうとします。仮に世界の終焉が訪れたとして、現在と似たような社会が結局はつくられるかもしれません。このような思考から、作品の構想をスタートしました。

――本作をとおして人類に希望を見出すことができるとしたら、どのような側面だとお考えですか?

同じことを繰り返す人間という存在に対する批判を込めて作品をつくっていますが、人類に共感する瞬間ももちろんあります。私たちは幸せや悲しみ、喜びや笑いといった情を感じることができます。この作品は未来に対する私のファンタジーであり、私たちが生きる社会に対するステートメントでもあるので、作品そのものにはポジティブな側面も見出していただけるのではないかと考えています。

自然の象徴として融合する、大巻伸嗣の舞台美術『Liminal Air』

――今回、大巻さんの作品は自然の象徴として登場するとお聞きしました。本作で「自然」というモチーフが担う役割について、お聞きしたいと思います。

大巻さんの作品は自然の象徴であるとともに、時間の象徴でもあります。流れる川の水や、空気のように、常に動いているものです。私たちは自然をコントロールしようとしてきました。自然の資源を、人間は自分たちの利益のために使います。それにもかかわらず、ひとたび災害が起これば、結局人間は自然をコントロールすることができないと、いつも気付かされるわけです。私たち人間よりも、自然は強い。それを思い出させてくれる存在として舞台上にあります。

©Shinji Ohmaki Studio

 

――エラさんは、人間と自然がともにある状態を描こうとされていますか?

人間は地球から生まれたものなので、そういう意味では人類と自然は共存すべきだと思っています。ただ人類はこんなにも欲深く、力を得るはずではなかったのではないか、そんな気もしていて。例えば人間が海を汚すことで生き物が生きられなくなり、結果として地球温暖化を引き起こしています。温暖化だけでなく、私たちが思いもよらない災害が、自然の側からこれから起こる可能性もあるのではないでしょうか。ただ私たちはこの世界のなかにいるのだから、共存する道を探るべきだとも思います。

同時に人類の進化はあらゆるものを発明し、すばらしい業績を積み重ねてきた歴史でもあります。実際には、私はこの世界が大好きです。今生きている世界も愛おしい、人間も好きです。自分に与えられたあらゆる機会にも感謝しています。ですがそういう状況のなかでも、立ち止まって問い直してみること。既存のことを疑ってみる、問いを投げかけてみることが重要だと考えています。立ち止まって考えることは、自然に対してだけでなく必要なことですね。

本作のクリエーションチームについて

――エラさんは舞台作品をつくるとき、振付家としてだけではなく、美術や音楽も含めた作品全体を構成するアーティストとして作品に向き合われています。本作のクリエーションに参加している音楽家やダンサーについて、お聞きしたいと思います。

ゲルション・ヴァイセルフィレルさんはイスラエルの音楽家で、過去にも仕事をしたことがあります。彼はウードやトロンボーン、パーカッションなど、あらゆる楽器を使うことができるミュージシャンです。そしてパフォーマーとしても優れているので、ダンサーと一緒に舞台に立って作品をつくることができるんです。

創作のプロセスは作品によって異なるので一概には言えませんが、スタジオに入ってみんなが集まると、アイデアを交わし合い、化学反応が生まれ何かが起こるオープンな場になります。今回集まったメンバーは皆プロフェッショナルで才能があり、素晴らしいと思います。クリエイティブなメンバーで、ベストなチームになったと思っています。

――ダンサーも豪華な顔ぶれです。エラさんはどのようなメンバーをリクエストされましたか?

まず踊ることが大好きな人。先ほど創作プロセスのお話をしましたが、協働するメンバーにもオープンマインドでいてほしいと思っています。そして私がアーティストとして創造する世界のなかで、自ら色々なことを開拓できる人。ダンサーとしての才能があるだけでなく、魅力的なパーソナリティがあることも重要ですね。実際に作品のなかで、ダンサーとしてステージに居るだけでなく、彼らのパーソナリティが作品に影響をもたらすことができるメンバーを、今回は選んでいます。

――これから城崎国際アートセンターで本格的なクリエーションに入られますね。どのようなクリエーションになりそうですか?

公演まであまり時間がないので、城崎でのレジデンスは朝から晩まで集中して作業をするワークキャンプだと思っています(笑)。チームで滞在できる施設なので、コラボレーターのみんなと一緒に住んで、ご飯を食べ、生活することができます。そのような体験は、作品を超えて私たちのつながりを深くしてくれると思います。作品に重みや強さが生まれるのではないかと期待していますね。

あらゆるダンスを経て生み出されたエラ・ホチルドの“身体言語”

――エラさんはオハッド・ナハリン率いるバットシェバ舞踊団や、インバル・ピント&アブシャロム・ポラック・ダンスカンパニーなど、さまざまな振付家のもとでダンサーとして活躍されてきました。これまでにGAGAやバレエなどのダンスを体得されておられます。それらの経験を経て、現在のエラさんがご自身の振付メソッドをどのように捉えているか、教えてください。

人は育ってきた環境や、コミュニティによってつくられると思っています。私自身もいろいろな人と出会い、さまざまな場所に行き、その過程であらゆることを学びました。そういった一つひとつの経験のなかで、自分が愛しているものや好きなもの、興味があるものは何なのか、考えてきたと思います。そしてどこに行けば、それを更に突き詰めることができるかを考えて、その都度向き合ってきました。そこで体得したものだけでなく、例えばスタジオに通う道のりを歩いた身体感覚とか、そういうことも含め、あらゆる記憶によって自分自身がつくられているのを感じます。

例えば同じ言語を話す人でも、発音の仕方や強弱、話のダイナミズムや、どのような言葉を選ぶのかということで、話し方は変わってきますよね。独自の“振付言語”は、言語の使い方に関わっていると思います。自分のこれまでのバックグラウンドを経て、自分のなかに体得したものや記憶のなかから、自分自身をどう見せていくかを考えることで、振付の独自性が生まれていると考えています。

――本作の振付としては、どのようなムーブメントが出てくるでしょうか?

物事の“タイミング”が、これまでの自分の作品とは違ってくるのではないかと思っています。本作では特に“人間の行動”に焦点を当てているからです。例えば現代に生きる人々は、行動のスピードが速いと感じます。これをやって、次にあれをやって、それが飽きたらまた次のことをやる。そして何か居心地の悪いことが起こったら、そのことを避けたり忘れたりして、また次の行動へと逃げてしまうと思うんです。でもこの作品では、できるだけ居心地の悪い瞬間に長くいることを検証したいと考えています。居心地の悪さをきちんと体験して、発信することで、そこから新しい何かを発見したい。

そのためには、空間における時間の使い方がとても重要だと考えています。そういう意味でこれまでの作品とは違う、独特のリズムをもった作品になるのではないかと思いますね。

――ありがとうございました。最後になりますが、横浜での世界初演を楽しみにしている観客に向けて、メッセージをお願いします。

観客の皆さんにも、作品のなかに自分自身が居る感覚を感じていただきたいと思っています。舞台上のパフォーマーが笑っていたり、悲しんでいたり、楽しんでいるすべての瞬間を、観客の皆さんにも感じていただけるような作品にしたいですね。本当に最高のコラボレーターに恵まれ、素晴らしい作品になると思うので、皆さんに見て欲しい。

この作品はある意味、壮大な実験です。今回それを初めて舞台作品にしてお見せするわけですが、これからもこの実験を育んでいきたいと考えています。その最初のステージとなる『Futuristic Space』を「横浜ダンスコレクション2019」でぜひ目撃してください。

取材・文:及位友美(voids
写真:大野隆介 ※クレジットなし

【アーティストプロフィール】
エラ・ホチルド

イスラエル、アイン・ヴェレド生まれ。<インバル・ピント&アヴシャロム・ポラック・ダンスカンパニー>、<バットシェバ舞踊団>でダンサーとして活躍。現在は振付家・ダンサーとして、精力的な活動を展開。2013年にベストパフォーマンスダンサーとしてDudu Dotan 賞を受賞。2015年にはベストコレオグラファーとしてOphirシアター賞にノミネート、2016年テルアビブ市より有望なクリエイターに贈られるRosenblumパフォーミングアーツ賞と文化賞を受賞。日本ではミュージカル『100万回生きたねこ』(2013年)のクリエーション参加や、森山未來との共作『JUDAS, CHRIST WITH SOY』を上演している。


【公演情報】
オープニング・プログラム
エラ・ホチルド『Futuristic Space』(世界初演)

振付・演出:エラ・ホチルド
美術:大巻伸嗣
音楽:ゲルション・ヴァイセルフィレル
出演:大宮大奨笹本龍史、鈴木竜、湯浅永麻、ミハル・サイファン

公演日時:
1月31日(木)19:30
2月1日(金)19:30
2月2日(土)15:00
2月3日(日)15:00
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
全席自由 前売:3,500円 U-25:3,000円 高校生以下:1,500円 /当日:4,000円(税込)

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