タップダンスで世界をつなぐ。 おどるなつこさんインタビュー

Posted : 2018.01.18
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ストリートやライブイベントのほか、演劇の振り付けなどで活躍するタップダンサーのおどるなつこさん。昨年10月に開催された「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017」(以下、パラトリ)でも、そのワークショップが評判を呼びました。2017年度は、アーツコミッション・ヨコハマのクリエイティブ・インクルージョン活動助成をうけ「あしおとであそぼう!」と題し、パラトリを含む4カ所でタップダンスの参加型イベントを開催しています。なつこさんはある経験をきっかけに、2010年から神奈川県内の福祉施設でタップダンスのワークショップも続けていますが、その活動の背景やパラトリに参加された思いなどを聞きました。

世界の子どもたちが将来出会う場所が、
戦場ではなく踊る場所になれば

——福祉施設での活動は2010年に始められているので、7年ほど活動されているんですね。

初めは1つの施設だけでしたが、いまは横浜と鎌倉の市内4つの施設で活動しています。就労支援施設や入所施設、地域作業所を中心に、それぞれ毎月1〜2度のペースで行っています。
実は、始めたきっかけはドイツ国際平和村を訪れたことでした。日本では規制が厳しいストリートパフォーマンスの本場ヨーロッパで一度踊ってみたいと出かけた旅の間に、縁があって日本人スタッフもいるドイツ国際平和村に行きました。
ドイツ国際平和村では、戦争や内乱で傷ついた子どもたちの医療や生活の支援をしています。地雷で片足がなくなってしまったり、顔が一部なかったり、戦争によって傷つき障害のある子どもがたくさんいました。はじめはこのなかで私が踊っていいのだろうかと躊躇しましたが、いざ踊り始めると、リズムに合わせて子どもたちが歌い始めたんです。故郷のリズムに似ている、というんですね。明るい子どもばかりで、楽しそうにぴょんぴょん跳びはねて一緒に踊ってくれました。

 

——ドイツで子どもたちと一緒に踊った経験が、福祉施設の活動につながったんですね。

彼らは、恨みをもって負の感情でいっぱいというよりも、助けられたことでそれを乗り越えようとしているように見えました。この子たちは怪我をして心身とも傷ついたけれど、別の国の人に助けられ、違う文化のなかで暮らし、そこで出会った人たちのことを敵とは思わないだろうな、と。そんななかで私は踊ることで何ができるだろう、と思いました。紛争の原因は世界の問題でもあり、少なからず日本も関係があります。私には同じ世代の娘がいますが、この子たちと娘は同じ未来をつくっていく。彼らが将来出会う場所が戦場ではなく、踊る場所だといいな、と思ったのです。
それで、日本に紛争はないけれど障害のある子どもたちはいる。日本ではどうしているのだろう、と気になりました。偶然にも私の教えているタップ教室の生徒さんたちに福祉の仕事に就いている人が多く、まずはその生徒さんの勤めている障害者支援施設で、ボランティアでタップセッションをさせてもらいました。

——いつもどのような内容のセッションをされているんですか。活動を続けられるなかで、施設のなかでの変化はありますか。

例えば、輪になって童謡「ずいずいずっころばし」を歌いながら、順に足音を出していきます。誰もが知っている童謡ですが、同じ動きが反復されることからリズムが生まれ、実はそこにタップの基本が含まれているんです。「何をしてもいい」と「やりたかったらやる」を大事にしつつも、必ず自分の番が回ってくるからやらざるを得ない。そうしてリズムができていきます。
ただ、はじめのころは手探りでした。それでも施設での活動を続けていくなかで、タップダンスのシンプルでわかりやすい伝え方を見つけられた気がします。最初は躊躇しながら参加していた方も、毎回参加するうちに自信が生まれる。そうすると施設のなかでの作業も「自分からやる」といったり、積極的に前に出るようになったり。前に出て踊ることは上手い下手では関係なく、その人の勇気が大事なんですね。

 

——7年ほど福祉施設で活動をされてきて、なつこさん自身の創作や表現への変化は何かありましたでしょうか。

とっても自由になった気がします。私自身、以前は「アートはこうあるべき」とか、そういった偏見や思い込みがあったのかもしれません。そのことに気づき、そこから自由になったなあ、と。もちろんダンスの基礎や知識は舞台空間をつくったり、プロの仕事をするうえでは必要なことです。でもアートって、一人ひとりが「こうしたい」と想像してたことをパッと出せたものなんじゃないか、と。 できないけれどやろうとして、そうして出てくるものがすてきなわけで障害のあるなしは関係ない。身体は一人ひとり違うし、持っている動きもぜんぜん違う。そういった部分から考え直すことができました。

福祉施設で活動するなかで生まれた布製の簡易タップシューズ「おとたび」。靴の上から履くことでだれでもどこでもタップダンスができる魔法の靴。シューズの縫製、洗濯、刺繍は活動先の施設に依頼している。

 

 

日常と非日常が“とけあうところ”が生まれた
ヨコハマ・パラトリエンナーレ

——そうした活動のなかに、2017年度の「あしおとであそぼう!」プロジェクトがあるのですね。これまでPart1を7月に、Part2を9月にイベントを開催され、Part3では「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017」(以下、パラトリ)のなかでワークショップをされました。参加者がそのままフィナーレのショーにも出るというスタイルがとても印象的でした。ショーを見ていたお客さんにも評判でしたね。

ワークショップには事前申し込みと当日参加のお客さんが両方いらっしゃったのですが、良い意味でとても緊張しました。ワークショップでやったことをその日の夕方のショーで披露したのですが、ショーのほかの出演者はそれまで長い間練習を積んできた人たちばかりです。ですので、ダンスの内容よりもショーの空気に入っていけるかどうかに一番気を使いました。
でも実際はとても良い緊張感が生まれていました。出番までの待ち時間にメイクをしたりTシャツに着替えたりと身支度をして、ステージの袖に立つ。そうすると「自分がここに出るんだ!」という自覚が自然と生まれてきているようでした。

2017年10月8日、9日に開催した「あしおとであそぼう!in パラトリエンナーレ」にて。(提供:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会)
Photo by Hajime Kato

 

——参加者のなかには、休日のお散歩ついでにたまたま通りがかって参加した、という親子連れの姿もありましたね。

当日からショーにも出演されたのは小学生のお子さんと親御さんの4組くらいでしたが、お母さんたちは「ワークショップが終わったら帰ろうね」という雰囲気でした。ただ、そのあとのショーのことを説明すると「僕やりたい!」「私やりたい!」という意思の強い子たちがいて、夕方まで残ってくださいました。早く帰る予定だったお母さんたちも、ショーが終わったあとは「ただ散歩にきて、こんな素敵なことに参加できるなんて」とウルウル目で話してくださったのが嬉しかったです。
日常だったはずのお散歩コースに、大きなステージが現れてそこに出てしまった、というのはすごく非日常で、そんな経験はなかなかないですよね。今回のパラトリのテーマは「とけあうところ」ですが、日常と非日常が“とけあうところ”でもあったかもしれません。

 

——パラトリでのショーが終わった日のブログでは「万華鏡のような3日間」と書かれていましたが、参加されていかがでしたか。

福祉施設で活動していると「あの人がこんなことできると思わなかった」とスタッフや家族からはとても喜ばれるけれど、アートの現場からは「慈善的な活動をしている」と見られるように感じていました。でもそうではないのに……、とずっと思っていました。
福祉施設と関わるうえで日々気をつけていることは、自分自身の踊りも高めるし、決して「福祉的な」ダンスにしてはいけないということです。その意味で、パラトリでは障害のあるなし関係なく、1つの作品として良いものをつくることを追求していました。そうした同じ考え方の仲間に出会い、心を強くしましたし、力をもらいました。私自身もいろいろと迷いながら自分のできることを掘り下げてきたけれど、ほかの人も同じように活動してきたんだな、と。

 

言葉が通じなくても会話ができる
タップダンスの魅力

——そして、Part4は「あしあとであそぼう!」の総集編として、1月20日(土)、21日(日)に栄公会堂での開催です。

いろいろな人たちが集まれる場所でやりたかったので、Part1もPart2でも公共施設を借りています。Part4は栄区内の福祉施設が集まるイベントの一つとして参加します。これまでもタップとフラメンコやたいこなどさまざまなリズムや音楽と組み合わせて、みんなで踊るイベントをつくってきました。
今回は東日本大震災後に縁のできた、仙台の福祉施設・多夢多夢舎(たむたむしゃ)の郁美さんがゲストにいらっしゃいます。郁美さんとはこれまでも一緒に活動する機会がありましたが、今回はタップのパフォーマンスやピアノの即興演奏にあわせて、トワル(仮縫いに用いる布)に絵を描く滞在制作をしていただきます。
郁美さんが来てくださることで横浜と仙台の交流も生まれたらいいな、と思っています。障害のある方々はいつもの生活エリアを出ることがなかなか難しいですが、少しでもいろいろな土地の人と交流する機会をつくれたら、という思いもありました。

 

——今度のイベントもいろいろな人が参加できる場所になりそうですね。

いつも開かれた場所で、みんなで踊れたらいいな、と思っています。海外にいくとストリートで踊ったりしますが、言葉は通じなくても踊りやリズムはコミュニケーションをとりやすいんです。タップダンスは言葉がなくても会話ができるところが面白い。トントントン、とこちらがステップをふむと、タタタタタタと返してくれる。言語の壁を超えて、誰でも参加できるのが魅力です。
今年はいろんな人がいきいきできる機会をもっとつくりたいな、と思っています。2017年度の「あしおとであそぼう!」のワークショップでは、毎回参加してくれる人もいます。いつもタップセッションに行っている福祉施設から来てくれる人もいます。それがさらに広がって、例えば仙台に行ったり、仙台の人が来てみんなで踊ったり、と地域の交流までできたらいいですね。

 

[構成:佐藤恵美/写真:森本聡(クレジットのないもの)]
撮影会場協力:BUKATSUDO

 

【プロフィール】

おどるなつこ
Odoru Natsuko

東京都出身(本名:伊藤夏子)。バレエ・大道芸を経てタップに出会い、2002年ヘブンアーティスト認定。美術・バロック音楽との即興や「タップで文学」シリーズ振付上演、ARCT文化庁派遣事業と並行し、可児市文化創造センター「ala(アーラ)」ほか演劇への振付も行う。ドイツ国際平和村訪問をきっかけに、2010年より障害のある方々とのタップセッション「あしおとでつながろう!プロジェクト」を神奈川で展開、東北でも輪が広がっている。

http://odorunatsuko.net

 

【イベント概要】

あしおとであそぼう!vol.4 あしおとの森in パラフェスタ♡さかえ

(パラフェスタ・さかえ会場のヨコハマ・パラトリエンナーレ第3部〈記録展示〉と同時開催)

期間:2018年1月20日(土)、21日(日)
時間:20日(土)11:00-16:00/21日(日)10:00-15:00
会場栄公会堂 さんぽみちギャラリー
住所:神奈川県横浜市栄区桂町279-29
アクセス:本郷台駅(JR京浜東北・根岸線)徒歩9分
参加費:300円〜
内容: 
 20日(土):タップとフラメンコのちがいを知りながらそれぞれのあしおとを楽しもう!

案内人=おどるなつこ(タップ)、えんどうえこ(フラメンコ)/
お菓子販売=ジョイ・カンパニー/自家焙煎珈琲販売=りっしん洞

21日(日):ピアノとみんなのあしおとによる即興セッション。あしおとの森から音楽と一枚の洋服が生まれます。

案内人=おどるなつこ(タップ)、大和田千弘(ピアノ)/
ゲスト=郁美(仙台多夢多夢舎〜着られるキャンバス〜タムタムと、めぐるトワル〜)

※ 詳細・当日プログラムについては以下をご覧ください
http://www.paratriennale.net/recruit/282/