手描きグラフィックアーティスト サラ・ガリーさん

Posted : 2017.07.06
  • facebook
  • twitter
  • mail
自分の背丈よりもはるかに大きいキャンバスと対峙し、迷いなく1本のチョークを走らせる。英文字や植物、動物など、さまざまなモチーフを組み合わせ、なめらかな手つきで絵を仕上げていく。気付けば、さっきまで真っ白だったキャンバスには、わくわくと心が弾むようなチョークアートが広がっていた。

Photo: Morimoto, COLOR COORDINATION

 

彼女は手描きグラフィックアーティストのサラ・ガリーさん。東京都江東区で生まれ、家族の引っ越しを機に10歳で横浜に来た。現在も横浜に住みつつ、「シスター・チョークボーイ」というアーティスト名で全国の商業施設や店舗の壁面装飾、雑誌やウェブ媒体のイラスト制作など幅広く活躍している。「アーティスト活動はまだ始まったばかり」と話す彼女のこれまでと、これからを聞いた。

 

学生時代 — 幼少時代〜高校生

———幼い頃はどんな子供でした?

「とにかく絵本が好きでした。アメリカ人の父に英語の絵本を、そして日本人の母に日本語の絵本を読み聞かせてもらうことが、なによりの楽しみでした。お気に入りの絵本は『ぐりとぐら』。それをボロボロになるまで何度も読み返していました。絵本を読んでもらうだけでは飽き足らず、絵本に出てくるキャラクターを描き始めました」

中学生に入りサラさんは、ホームページを作り、自分の描いた絵を紹介していたという。高校生になるとTwitterやFacebookなどSNSが爆発的に広がり、彼女は絵に加え、詩や文章もインターネットを使い自分を表現するようになる。そして、空いた時間は図書館に通い、特に自伝を好んで読んでいた。

 

———自伝から影響を受けたことは?

「自分の選択次第で無数の生き方ができると学びました。でも学校では進路の話になると、大学か専門学校か就職という道しか教えてくれなかったんです。それがとても疑問でした。私は大学生とか社会人という肩書ではなく、サラ・ガリーとして自由に生きてみたい。そう思ったんです」

 

大人になるにつれて — 高校卒業〜社会人

高校卒業後、サラさんは進学や就職ではなく、旅に出ることにした。彼女は旅を通じて異文化や多様な価値観を知り、どんどん旅の魅力に引き込まれていった。その後はアルバイトで資金が貯まると旅に出るというスタイルを続け、その旅でアメリカやタンザニアなどの外国に限らず、国内各地にも訪れた。

Photo: Morimoto, COLOR COORDINATION

 

「旅はいつでも新鮮で素晴らしい経験でした。さまざまな刺激からインスピレーションを受け、その発想をもとに絵や詩も多く制作しました。でも、旅を続けるうちに、私は旅先の芸術や文化に関する知識がないと痛感させられたんです。」

芸術作品の根本をもっと知りたい。サラさんは2年ほど続いた旅中心の生活に終わりを告げ、京都市にある通信制の美術大学に入学。通信制でありながら、彼女は大学のキャンパスがある京都へ引っ越し、新たな生活が始まった。

 

———美術大学では何を専攻されましたか。

「歴史遺産コースを専攻しました。美術史の講義がメインでしたが、デッサンや西洋美術に関する授業も受けました。高校と同様に美大でも多くの時間を図書館で過ごしました。美術関連の本が山のようにあったので、夢中になって読みましたね」

美大生になり京都での生活。本気でアートの道に進もうと考えていた矢先、東日本大震災が起こります。

「美大の2年目が始まるタイミングで震災が起きました。テレビから映し出される世界は、あまりに現実とかけ離れていたので、ショックで…。私は現実を受け止めきれず、『日本にはいたくない』という思いで心が満たされてしまいました。その後、なにも手に着かない状態が続いたため、美大を休学しました。しばらくしてから、ブラジル、インドなど数カ国を渡り歩き、日々、絵や詩を書いて過ごしました。このころの絵を見返すと、悲しい雰囲気の絵が多いんです。心情が絵に影響していたんだなと気付きました。作品制作を通して一生懸命に自分の気持ちと向き合おうとしていたんだと思います」

Photo: Morimoto, COLOR COORDINATION

 

旅の帰国後、サラさんは横浜に住まいを戻し、美大に復学する。しかし興味があった出版社の求人を見つけすぐに応募し、結果合格。美大を辞め社会人となった。入社した出版社では、営業を担当。社内の人間関係は良く、仕事も順調。そんな時に受けた社長の面談をきっかけに、彼女は転機を迎えます。

「社長から面談の最後に『仕事以外にやりたいことはないの?』と質問を受けました。私はそのとき、絵を描きたい、詩を作りたい、など数十個もやりたいことが口から出てきたんです。それを聞いた社長は『そんなにやりたいことがあるのに、なんで今やっていないの?』と言われ、私はその言葉に大きく動揺してしまったんです。その時、社会人になり無意識にやりたいことを後回しにしていたんだと気付きました。それと同時に、本当にやりたいことに向き合いたいという感情が大きくなり、結局この面談がきっかけで出版社を退社しました」

 

チョークボーイとの出会い — 退社後〜現在

「退社後は好きな場所へ出かけ、絵を描くなどして気持ちをリセットしていきました。そんなとき、インターネットで『カフェのアルバイトで毎日黒板を描いていたら、どんどん楽しくなり気付いたら仕事になっていた』という手描きグラフィックアーティストのチョークボーイの記事を見つけました」

チョークボーイは日本を拠点に活躍する人気アーティスト。現在は黒板描きだけにとどまらず、飲食店の壁面のペイントや、雑誌や広告、グッズのイラストを制作するなど、多方面から高い評価を得ている。

彼の作品と自由な生き方に惹かれたサラさん。ある日彼がInstagramでイベントの手伝い募集をしているのを見つけ、応募した。

Photo: Morimoto, COLOR COORDINATION

 

———チョークボーイと会ったときのことを教えてください。

「巨大な黒板に自由自在にイラストを描く姿に圧倒されました。そして、絵を描くことが仕事になるって本当に素晴らしいと感動したんです。ちょうどそのころチョークボーイはとても忙しくなっていたのでアシスタントを探していました。彼は本を出版する予定もあったので、出版社に勤務経験がある私に何か手伝えることがあるかもしれない、という流れからアシスタントになりました」

 

———アシスタントの仕事内容は。

「はじめはメール応対や、彼が出版した本の営業などをしていました。途中から手描きグラフィックの技法を学びつつ、出張先に同行させてもらい私もワークショップで教えることになり、これをきっかけに、私は人のために描くことの楽しさを知りました」

チョークボーイの仕事に同行するようになったサラさん。彼の妹分という意味で「シスター・チョークボーイ」と名付けられ、その後アシスタント期間を経て独立。たまプラーザやジャーナル・スタンダードのビジュアル制作など、数々の仕事依頼が舞い込んでくる。

横浜「north port mall」内の壁 Photo: SARA GALLY

 

———好きなことが仕事になり、考えに変化はありますか。

「自分のために絵を描くことと、人のためにデザイン性のある手描きグラフィックを描くことは全く違う感覚なので、今でも勉強中ですが、つくづく私は絵を描くことが好きなんだと実感しながら毎日を過ごしています。そのおかげで以前より気持ちが開放的で自由になったと思います。私の表現を通じて楽しんでもらえるって気持ちの循環が、次の制作に挑むモチベーションに繋がっていると感じ、日を追うごとに良い作品に進化していると感じます」

J.S. pancake cafe – Xmas 2016メインビジュアル Photo: SARA GALLY

 

———これからの目標について教えてください。

「使用する画材や表現方法をもっと広げて作品を制作していきたいです。今は詩や文章など言葉の表現にも興味を持っています。私の作品を通じて多くの人にポジティブな気持ちを伝えられるようになりたいですね。」

宮城県「TSUTAYA 富谷大清水店」内の壁Photo: SARA GALLY

 

———今後の横浜との関わり方について教えてください。

「横浜は横浜美術館BankART Studion NYKなどの施設や、今年開催される横浜トリエンナーレ黄金町バザールなど、子供から大人までアートを身近に感じられる街だと思います。私はこの環境のおかげで、多くの素晴らしい作家や作品と出会うことができました。今後はさらにこの街でアーティスト活動に関わっていきたいと思いますし、私の表現からアートに関心を持っていただけると嬉しいですね」

Photo: Morimoto, COLOR COORDINATION

 

文・船寄洋之

 

プロフィール

サラ・ガリー
SARA GALLY

手描きグラフィックアーティスト。東京生まれ横浜育ち。2015年に黒板描きCHALKBOY(チョークボーイ)と出会った際に「手描きグラフィック」の世界を知り、みるみる夢中に。妹分=シスター・チョークボーイとして修行した後、2016年に独立。現在は店舗の壁画や看板制作を中心に、紙面のイラストレーション、ロゴデザイン、ハンドレタリングなど、様々な画材を使用しながら幅広い分野で活動中。

ホームページ:https://www.saragally.com
Instagram:@sister_chalkboy

 

サラ・ガリー個展「メゾン・レモネード」

期間:開催中〜7 月 17 日(月・祝)( 休:7月11日(火)、12日(水))
時間:12:00〜18:00
会場:gallery and space yorifune 01
住所:神奈川県横浜市神奈川区反町4-32-8
アクセス:反町駅 (東急東横線線)徒歩 5 分
入場料:無料