世界が認めた横浜生まれのデザイン ―― 相澤幸彦さん

Posted : 2016.03.31
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世界で最も権威ある国際デザイン賞の1つとして知られる「ドイツ・デザイン賞2016」を受賞した相澤事務所は、横浜生まれのグラフィックデザイナー相澤幸彦さんのデザイン事務所だ。相澤さんに今回の受賞の反響とこれからの抱負、そして横浜らしいデザインとはどんなものか、などをたっぷりと語ってもらった。

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「デザイン賞の中の賞」を受賞

相澤事務所は横浜・日本大通りの少し昭和の香りに満ちたビルに居を構える。レトロなドアノブを回して入ると、真っ白な壁に囲まれたすっきりとした空間が広がり、デザイナーの相澤幸彦さんとディレクターの永田千奈さんをはじめとする4人のスタッフが大きなテーブルに仲良く並んで作業や対応業務をしている。国際的な受賞歴に輝くデザイン事務所と聞いて身構えて訪れたが、なごやかな雰囲気にほっとする

世界で最も権威ある国際デザイン賞の1つとして知られる「ドイツ・デザイン賞2016」(GERMAN DESIGN AWARD)受賞の知らせが飛び込んできたのは2015年10月のことだった。「ドイツ・デザイン賞」はノミネートされることだけでも名誉とされる。他の国際デザイン賞の受賞がノミネートの条件となっているためだ。そして厳格な審査でも知られ、「賞の中の賞」とも呼ばれている国際デザイン賞なのだ。

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相澤事務所は「東京さしすせそ」のパッケージ・デザインで、エクセレント・コミュニケーション・デザイン部門において「審査員特別賞」(Special Mention)を受賞した。「東京さしすせそ」は世界三大デザイン賞の1つである「レッド・ドット賞2014」 (Red Dot Award)を受賞したため、その経歴が「ドイツ・デザイン賞2016」のノミネートにつながった。「レッド・ドット賞」も世界中の70カ国から17,000もの応募があるデザイン・コンテストで、その年の赤マル” 、つまり一番のデザイン・ワークに選ばれたのだ。
他にも、ベルギー・ブリュッセルのパッケージ・デザイン国際賞PENTAWARDS 2014」での金賞、ポーランドのポスター国際展覧会「ワルシャワポスタービエンナーレ 2014」への選出など、相澤事務所は近年、国際的な受賞と評価がめざましい。

相澤幸彦さんにお祝いを言うと、
ノミネートいただいて、突然に先方から受賞の知らせが来ました。びっくりしましたが“ご褒美”としてありがたく思います
と謙虚な言葉が返ってきた。

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「東京さしすせそ」のパッケージ・デザイン

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受賞した作品は、砂糖、塩、酢、醤油、ソースの調味料の詰め合わせのパッケージ・デザイン。どういったところが評価されたのだろうか。「ドイツ・デザイン賞2016」講評によると、
「ロゴのデザインは東京のシンボルである桜の花から想を得ている。細部への確かな感覚を伴う削ぎ落された形状と純粋主義的デザインが日本の包む技の伝統の要素と出会っている」
と高い評価が紹介されている。

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「東京さしすせそ」のロゴ・デザイン

 

「さしすせそ」が、5つの基本調味料であるとともに、料理の際に使う順番の覚え方でもあることは、日本人なら誰でも知っていることだろう。すっきりとした新しさを感じるロゴの中に日本人にとってどこかぬくもりも感じさせてくれるデザインだ。そんな日本人が好ましく思う感覚が国際的にも評価されたのがとても喜ばしい。相澤さんご本人からデザインの目論みを聞かせてもらおう。

ロゴ・デザインで桜をモチーフにしたのは、東京の街に桜が咲くイメージと5つの調味料の製造会社を5弁の花びらに重ねて表現したもの。この5つの調味料を製造しているのはそれぞれ東京に昔からある老舗で、これまで5つのブランドを組み合わせることはなかなか実現できなかったそうなんです。それぞれが長く自社のラベルに包まれて売られてきた商品です。ひとつひとつのブランドには歴史がありこだわりがある、けれども同時にこのまとまった集合体こそが東京の「味覚」なんですよね。長く愛されてきた伝統の味であることを大事にするとともに、今の若い人の目にも留まるように訴えてその良さにあらためて気づいてもらいたい。デザインの基本コンセプト作りから任せてもらえましたから、 過去と未来を行ったり来たりするような感覚であれこれと考えました。例えば醤油がどんなふうに作られて日本人の生活にとってどんなものだったのか、そういう歴史や伝統というものを捨ててはいけないと思うんです。新しい見せ方だけに囚われるとそのものの本質から離れてしまう。デザインというのはものの本質に寄り添いながら、過去と未来を往き来してどちらも大切にして、その調和を図ることが大事だと思います

 

本質に寄り添うデザイン

「ものの本質に寄り添う」――このデザイン・コンセプトの精神は細部にも宿っている。

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この「さ」や「し」のラベルの周囲の黒いところは、印刷じゃなく、黒色の箔押しなんです。黒の普通のインクの印刷ではなく、ここにお金をかけて箔押しにしたのにはちょっと理由があります。昔ながらの瓶に入ったお醤油の端っこが乾燥して分厚く固まっている味わいの、そういう伝統的な重厚感を箔によって表現したかったんです。
木箱のように見える外箱は、予算と重量の制約で段ボールでできていますが、ここにもこだわって素材の段ボール自体から作りました。通常の段ボールでは印刷をすることができないし、手触りの点でも滑らかさがなくて不満でした。だから段ボールそのものを新たに作るところから始めました。内側は通常の素材なんですけど外側は和紙でできています

デザインとは不自由な中の自由

温和そうな相澤さんが細部のこだわりを語り始めると、熱がはいり、とても嬉しそうな表情になる。だが、商品のパッケージのデザインには必ず発注者がいる以上、制約もあるだろう。デザイナーとしての自由な表現との兼ね合いはどう取っているのだろうか?

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デザインは不自由な前提での自由を求める表現だと思うんですよ。自己表現をどこまでも追究するアートではなく、不自由な中でいかに自由を表現してみせるか、がデザインだと捉えています。不自由というのは、予算の制限、店舗で販売するにあたってのサイズの制約、運搬や流通のための強度の要求など様々あるわけですが、そういう不自由さというのは、すべてのデザインの仕事においてあるわけなんです。デザインのこだわりのために贅沢に資金をかけてしまうとそのコストが商品価格に反映されて売れなくなってしまう。よりたくさん売れるようになることがデザインの目的なのですから、こだわりと制約とのバランスをどううまく取るか。この「東京さしすせそ」でももちろん制約はありました。結局はアイデアを削っていく作業になり、ここは諦めよう、その代わりにここだけは譲れないと、芯の部分だけは残していく作り方でした。印刷業者さんや製紙会社さんなどの協力も欠かせません。デザインはけっしてひとりでは完結できないものですね。クライアントの方との信頼関係にも左右される問題です。この「東京さしすせそ」の場合は クライアントの方からの厚い信頼と理解があったので、納得できる作品になりました

 

国際性と日本の美と

さまざまな力の結集でできあがったデザインが受賞につながったわけだが、大きな国際的な受賞での反響はどのように出てきているのだろうか?

すでに2015年にはベルリンの旧東ドイツのプレンツラウアーベルク地区にベルリン・オフィスを構えている。アートの街ベルリンの発祥とも言えるこのエリアには、世界中からアーティストやクリエイターが集まっているのだそう。「ドイツ・デザイン賞」の受賞を機に、このオフィスを拠点としてヨーロッパでの仕事の受注も増えてきそうだ。ちょうど、ドイツで制作された渡辺真也監督のドキュメンタリー映画『SOUL ODYSSEY IN SEARCH OF EURASIA』のポスターが刷り上がったばかりだ。

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『SOUL ODYSSEY』映画ポスター

 

こうした国際的な仕事のひろがり以外にも反響がある。相澤さんの作品をインターネットで見た海外のデザイナー志望者からインターンの申し込みが増え、ドイツとスイスからインターンを迎えている。ヨーロッパの若者にとっては、相澤さんのデザイン作品に現代的な中にある日本的な美学を読み取り、そこに惹かれるようだ。相澤さん自身は国際的な位置に立つときに日本的なものを意識しているのだろうか。

国際賞の受賞やベルリン・オフィスの設置で世界を対象とする視点を持つことができました。そこで、確かに僕のデザインの中に日本の美を感じてもらえているようだと知りましたし、欧米人にとってそうした日本的なデザインの発想は魅力的だともわかってきました。けれども、僕自身は日本的なものを武器にするよりも、世界共通の美、普遍的な美しさを追究しているつもりなんです。でももちろん、日本語の独特さや日本家屋での暮らしを通して自分の中にある日本人としてのDNAの働きは自然に任せていますから、それがヨーロッパから見て魅力に映るのはありがたいことですね

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相澤事務所ベルリン・オフィス

 

偶然がもたらしたデザイナーへの道

今や全国からオファーが殺到し、さらに世界的にも活躍する相澤さんだが、実はデザイナーになろうと決意したのは人生の思いがけない偶然がきっかけだった。大学の経済学部を卒業し、メーカーに就職した相澤さんは社会人クラブチームでアイスホッケーを続けていた。22歳の時、試合中に脚の大けがに見舞われる。車いす生活を余儀なくされ、大手術を受け歩けるようになるも、医師から営業の仕事は困難と告げられる。病院のベッドで暇を持て余し、将来をあぐねながらパソコンで絵を描いて時間をつぶしていた相澤さんは、「デザイナー」という職種があることに気づく。

ああ、これだったら歩かなくてできる仕事だ、と。まさに言葉通りの、怪我の功名というか。けっして事故に遭遇したことに感謝しているわけじゃないですけれど、それがきっかけとなって今があることに、運命の面白さは感じますね。人間は崖っぷちに立ってこそ何かを初めて真剣に考えるのかもしれません。それからはもうただ愚直にデザインを学んできました

デザイン事務所に入ったものの、専門に学んでいない相澤さんは、掃除や買い物を担当することから見習いを始めた。そして徐々にデザインの助手もするようになり、現場で実地に学んできたのだと言う。5年の修行期間を経て30歳で独立を果たした。しかし、独立してからの10年は厳しい試練の時だったそうだ。

 

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デザインする喜びが基本に

今振り返ると、40歳ぐらいまでの自分は、デザインのデの字もわかっていなかったなあと思います。その10年は、いい意味でも悪い意味でも何も考えていなかった、考える余裕もなくただ無心で良いデザインを作ろうとがむしゃらでした。 営業もしなくてはいけないし経理もしなくちゃいけない、クライアントの方と打ち合わせもしなきゃいけない、一人で何もかもこなさなくちゃならない。となると、デザインに4分の1しか力をかけられずに集中することができない状況は、今思えばつらかったかもしれないですね。

元々デザイナーになる人生を最初から描いていたわけじゃなく、偶然の結果ではあるわけなので、今でもデザインをする喜びというのが僕の基本にあるんです。そして空白の10年に、デザインだけをやりたかったなという心残りが今でもあるんですよ。30代にもし僕がどっぷりデザインをできていたら、今の僕は違う表現をしていただろうなと。そういう思いがあって、今はこの事務所に仲間がいてくれて、打ち合わせや経理などを任せて、僕はデザインだけに集中できる。その失われた10年を僕は今取り戻している、だからすごく幸せですね

 

横浜生まれが考える横浜の未来像

横浜生まれ、小学校から大学まで学校もすべて横浜という見事な浜っ子の相澤さん。現在も事務所は日本大通りにあり、近くの自宅から歩いて通う。横浜の企業や横浜市など地元からの依頼によるデザインも多い。横浜らしさをどのように考えているのだろうか。

まずは横浜ゆかりのデザイン例をご紹介しよう。

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C3のパッケージ・デザイン

 

「C3」(シーキューブ)は神戸発祥の製菓ブランドだが、横浜市内に首都圏セールスに向けた事業所を持つ。定番商品や、バレンタインやホワイトデーのためのパッケージ・デザインを手がけた。「女性目線のデザインをあれこれ考えていると、だんだん女子化してしまうんですよ」と笑う。これも商品に寄り添ってデザインを考える相澤さんだからこその“憑依”現象だ。

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C3のパッケージ・デザイン

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CARNEのパッケージ・デザイン

 

CARNE」は横浜にあるヨーロッパからシャルクトリー(ハムなどの加工肉製品)を輸入・販売する会社。ハムなど加工肉のパッケージはデザイン面ではこれまで遅れをとってきたが、「おしゃれなパッケージ・デザインをしてほしい」と依頼があった。新しいパッケージになったとたんに、売れ行きが驚くほど大きく伸びたそうだ。

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What a Tart!のロゴ・デザイン

 

What a Tart!」は東京・表参道のセイボリータルト専門店。このブランドを経営するのは横浜に本社を置くブライダル会社だ。パッケージ・デザインを依頼されたときの条件は、「とにかくクールに都会的で最高にかっこいいものを」だった。

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What a Tart!のパッケージ・デザイン

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横浜のお土産ブランド「ヨコハマハイカラレーベル」のパンフレット

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横浜のアート・イベント「関内外OPEN!」のロゴ・デザイン

 

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横浜市ブランドスローガンのロゴ・デザイン

 

 

 

 

 

  

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ヨコハマアートサイト事務局が発行する 広報誌『季刊ヨコハマアートサイト』のエディトリアル・デザイン

 

こうした横浜ゆかりのデザインを見ても、他の地域の人が抱くいわゆる横浜らしさにつながる、青い海や船や港などといった直接的な発想は見受けられない。横浜で生まれ育ったデザイナーが横浜をデザインする時にはいったい何をイメージするのだろうか。

横浜は生まれ育った大好きな街。僕が感じている横浜らしさというのは、清潔感と、涼やかな空気感ですね。まったく僕の主観なんですけど。何か気持ちのいい風やすがすがしい空気を感じるのが “横浜らしい” 印象なんじゃないかな。そして形で言うとけっして尖りすぎてはいない、“角R” のようなイメージ。色彩で言うと鮮やかなビビッドカラーじゃなくて、ちょっとくすんでいるみたいな感じ。

横浜という街の誇らしい良さとは、定着したイメージをすでに持っているところ。青と白のストライプやレンガ柄を見ると横浜らしいと誰もが感じる。つまりブランディングができあがっているんですよね。他の都市ではこんなに定着したイメージを持っているところはないし、ずっと同じイメージを変わらずに持ち続けているという伝統がある。これは類を見ない強みなんですが、デザイナーとしてはその定着したイメージを “不自由” な制約に感じる場合もあって、そこからどう自由になっていくか、定着したイメージをどうアップデートしていくかにすごく面白味を感じます。横浜の伝統とか歴史を踏まえた上で何か10年後20年後につながるものを提示できたらいいなと、横浜を愛する者だからこそ思います。横浜の未来のイメージを作っていくことに携われたらいいですね。横浜の過去に未来を重ねていって、その新しいイメージがまた定着していくと、横浜らしいライフスタイルや都市力が熟成していくことでしょうね。その力がある街だと思います

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横浜市男女共同参画推進課からの依頼で制作した、女性の活躍推進のロゴ・デザイン

 

デザインというものがやっとわかってきた

相澤さんへの期待はさらに高くなっている。横浜からも、いや全国から相澤さんにデザインの依頼が引きも切らない。相澤さんにとってデザインとはどういうことで、何を求められているのか、どう応えようと考えているのかを最後に聞いた。

僕のデザインにみなさんが求めているのは、不自然なところがない普通なところじゃないかなと考えています。商品を自分のデザインに引き寄せるのではなくて、そのもののありのままの本質を見てあげるように心がけています。ものの本質や意図を「表現」に変換する方法論がデザインだと思っていて、デザインは目的ではなくて手段だと思うんです。デザインによってどう人が喜んでくれるか、どう行動を起こしてくれるか、それが目的だと思うんですね。ものの本質をどう表現に置き換えるか、変換するかというのがデザインすることの醍醐味です。

デザインは大好きな作業ですが、商業全体の中ではデザインというのはあくまで一つの役割にすぎない。人間でいえば洋服みたいなもので中身の人間性を変革するものではないですよね。だからものの本質に寄り添うことがやはり大切。

デザイナーになれたかな、とつい最近になってやっと感じるようになりました。ここ2、3年ぐらいです、デザインというものがわかってきたのは。発注してくれるクライアントの方に喜んでもらえると同時に、僕達も喜びたい。その両立がやっとできるようになった気がします。いろいろな賞もいただいてすごく嬉しいんですけど、そこに立ち止まっていてはいけないと思います。まだまだ勉強していきたいです

あくまでも謙虚な姿勢で、ものに、人に寄り添い、耳を傾け続ける相澤さんが作る横浜の未来像を楽しみにしたい。

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【 相澤幸彦 Yukihiko Aizawaプロフィール】
アートディレクター/グラフィックデザイナー。横浜生まれ。関東学院大学卒業。2004年相澤事務所設立後、ロゴや広告をはじめ、書籍やパッケージ、イラストレーション、サイン計画など、グラフィックデザインを中心とした幅広いアートワークに携わる。
主な受賞歴に、German Design Award 2016/SPECIAL MENTION、Reddotaward/Winner、PENTAWARDS/金賞、iDA国際デザインアワード/銀賞、台湾国際グラフィックデザインアワード、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ、日本パッケージ大賞、日本タイポグラフィ年鑑、年鑑Graphic Design in Japan 入選 他。