横浜の気鋭デザイナーが手掛けた食のパッケージ
前回ご紹介した日用品アイテム「うちわ」と「マスキングテープ」に続く、横浜のデザイナー×地元企業のコラボレーションによる新商品シリーズ。今回は横浜発祥の食文化として注目を集めるナポリタンのレトルト商品「横濱ナポリタン」と、かわいい缶パッケージが魅力の「ヨコハマドロップ」の2品を取り上げる。
これらのパッケージを手掛けたのは、グラフィックデザイナーの天野和俊さん。天野さんは横浜の都心臨海部に事務所を構え、横浜市が主催するアーツフェスティバルの総合的なヴィジュアルデザインや、商品のパッケージデザインなどで横浜を拠点に活躍するグラフィックデザイナーだ。
「横濱ナポリタン」の誕生秘話
まずは一品目。横浜を代表する食文化、昔なつかしナポリタンのレトルト商品をご紹介しよう。じつはこのレトルトのナポリタンは、今回のプロジェクトのために株式会社横濱屋本舗が新たに開発した新商品である。一度見たら忘れられない愛嬌たっぷりのキャラクターがあしらわれた「横濱ナポリタン」は、企業の担当者とデザイナー、双方の妥協のないコラボレーションによって誕生した――。
「パスタソースのレトルト食品の中で、ナポリタンソースの開発は付加価値のある価格設定や、セールス面でも難しいと言われていました。そんなレトルトの開発には不安を感じることもありましたが、天野さんのデザインを見たとき、正直感動してしまったんです。この箱に負けない中身を、おいしいナポリタンソースを作ろうと気持ちが入った。開発の過程は決して楽ではなかったです。市販のレトルトをすべて試食したうえで、試作を何回も繰り返し、パスタの麺とレトルトのソースを炒めてもらう調理法にもこだわった。“横浜発祥”に相応しい横濱ナポリタンソースが出来上がったと思っています。」(株式会社横濱屋本舗・小島博幸)
パッケージのデザインに触発され、企業の開発者たちのクリエイティビティが引き出されて、おいしいナポリタンソースが誕生した。このような創作上の相乗効果が生まれるところに、デザイナー×地元企業の取り組みの面白さがある。一方でデザイナーの天野さんは、パッケージをデザインするにあたり、こんなことを考えていた。
「明治29年創業 復刻版“清水屋トマトケチャップ”を使用した、ナポリタン発祥の地の『横濱ナポリタン』なわけですが……まずはナポリタンのもつ“愛嬌”について考えました。一度見たら忘れられなくて、そうそうナポリタンってこんな感じ――という皆が共有する経験のようなものから発想して“横濱ナポリタンちゃん”が生まれました。横浜らしさは中身を食べてもらえば、たっぷりとつまっています。これからはこの彼(彼女?)“横濱ナポリタンちゃん”が、新しく懐かしい横浜の顔になることを願っています。」(天野和俊・グラフィックデザイナー)
「ヨコハマドロップ」の遊びゴコロ
続いて二品目は、手に取れば一目ぼれして買いたくなってしまうキュートな缶ドロップをご紹介しよう。ひとつのドロップ缶の両面に、男の子と女の子のイラストが描かれている。このパッケージには横浜のどんなイメージが込められているのだろう? 天野さんにパッケージデザインの裏側を聞いた。
「今ではめずらしい楕円型のドロップ缶。ドロップはおまけで、缶が“商品”だと本プロジェクトの総合ディレクターでもある、株式会社エクスポート社長・中川憲造さんから聞いたんです。それならば飾りたくなる缶デザインを、と思ってアイデアを泳がせました。横浜といえば多くの人にとって甘酸っぱい思い出もあるだろうと、浮かんだイメージが懐かしのおもちゃ“キスドール”でした。男の子と女の子を並べるとチュっとするアイデアを、イラストレーターの手塚リサさんのレトロな画風で仕上げていただきました。」(天野和俊・グラフィックデザイナー)
なるほど、確かに横浜はデートスポットのメッカだ。このキスドールをあしらったパッケージ、「思い出同様、捨てられないお土産になりますように」という天野さんの真摯な願いも込められているというから、商品の奥深さを感じる……! 男の子が描かれた面と女の子の面を並べるとキスをしているように見える演出が心憎いですよね。
デザイナー×地元企業の新商品・開発の狙いとは?
今回のプロジェクト、マッチングのコーディネーションを担っているのはACYだ。ACYはアーティストやクリエーターの集積に取り組むとともに、相談窓口の開設や、助成事業など、その活動を下支えしてきた。デザイナーと地元企業による5つのアイテムが商品化された手ごたえを聞いた。
「クリエーターを横浜に迎えるだけでなく、彼らの“活躍の場”を作り出すこともあわせて考えていく必要があります。ACYは地元企業や行政と組むことで、クリエーターの仕事を生み出していますが、大事なのはその先です。こうした取り組みをどのようにお客様に伝えていくか。今回生まれた商品がヒットし、ロングセラーとして横浜で愛されるものになっていくことを目指しています。じつは今回の商品の中には、既に増産しているものもあります。このような成功の循環によって、新たなクリエーターや参加企業を呼び込み、第2弾、3弾への取り組みへと繋げていきたいと思っています。」(ACY・松井美鈴ディレクター)
本プロジェクトで総合ディレクターを務めたのは、長年にわたり横浜のデザイン界を牽引してきたデザイナーの中川憲造さんだ。このようなプロジェクトの魅力とはなんだろう?
「なにごとにも出会いが大切です。それぞれの魅力がクロスして、思わぬ効果を発揮する。地域の商品にデザインのチカラを――と企画された今回のプロジェクトは、その好例となったのではないでしょうか。優れた素材を持つ横浜の企業と、横浜の有望な若手デザイナーが取り組んだ“新・横浜グッズ”は、販売の現場でも、新しいファンを呼び込んでいると聞いています。若々しくチカラがあり、商品の特性を活かしたデザインは、将来への大きな可能性を見せてくれました。」(中川憲造・デザイナー)
デザイナー×地元企業によるもうひとつの取り組み―横浜ならではのビールラベル
このほかにも横浜では、デザイナー×地元企業のパッケージデザインへの取り組みがある。JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)神奈川によるビールラベルデザインの商品化だ。
横浜は、日本の商業的ビール醸造の発祥の地。デザインの歴史の中でも、ラベルや広告などビールに関わるデザインは、それぞれの時代を象徴してきた。「横浜ビールラベル展」では、横浜の地ビール会社である「横浜ビール」の協力のもと、人気投票によってデザイナー・笠井則幸さんのビールラベルが商品化された。JAGDA神奈川の渡邊栄さんに、今回の取り組みについて聞いた。
「神奈川のデザインを象徴するアイテムとして、ビールラベルのデザイン展を企画したんです。地元企業の横浜ビールさんに打診をして、展示用の製品提供はもとより、展示品の一部の商品化を前提にお話を進めました。公募でビールラベルデザインを募集し、県内外で活躍する18名のデザイナーに出品していただきました。商品化にあたっては、お客さまの人気投票を行うことで、参加型のイベントになったと思います。メーカー主導の商品企画とは違う形で、デザインラベルが生まれました。神奈川のデザイナーが地元の商品企画に関わる機会を増やすために、ビールラベルに限らず今後も定期的に実施していきたいです。」(JAGDA神奈川・渡邊栄)
本プロジェクトで誕生したデザインラベルの横浜ビールは、ヨコハマトリエンナーレ2014連携プログラム「Find ASIA」を開催しているYCC1階ホールのカフェスペース「Yokoso Cocowa Cafedesu」(~11月3日まで)で販売中! アーティストがオーガナイズするYCCのカフェで、デザインラベルのビールをおともに秋の夜長を過ごしてみては?
※Yokoso Cocowa Cafedesuは週末を中心にバー営業しています。
「L PACKのスタンドバー」 詳しくはこちら http://ycc.yafjp.org/findasia/lpack_bar.html
デザイナー×地元企業による横浜らしさ満載の商品誕生!
販売場所詳細:
ヨコハマトリエンナーレ2014新港ピアオフィシャルショップ、ヨコハマ創造都市センター、横浜ランドマークタワー69Fタワーショップ、横浜赤レンガ倉庫1号館赤レンガデポ、大さん橋エクスポート、横浜マリンタワー2階ショップ、横浜人形の家ミュージアムショップ、神奈川県立歴史博物館ミュージアムショップ、市内文化施設、ほか
天野 和俊(天野和俊デザイン事務所)
2010年より馬車道を活動拠点に多方面で活躍するグラフィックデザイナー。横浜では、APEC JAPAN 2010を皮切りに、Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2012、東アジア文化都市2014横浜のロゴおよびグラフィックに携わる。天野和俊デザイン事務所代表。