シルクをカジュアルに。横浜スカーフ・丸加×ファッションディレクター・山口壮大が携わるブランド「cilk」

Posted : 2018.05.11
  • mail
シルクスカーフって高そうだし着こなし方が分からない――。そんな印象をおもちの方も多いかも。ここ横浜は、生糸貿易から始まるシルク産業で栄えた港町だ。今回ご紹介したいのは、伝統的なモノづくりにこだわるシルクスカーフメーカー・株式会社丸加が参画する、ライフスタイルブランド「cilk」の取り組みである。気鋭のファッションディレクター・山口壮大がディレクションを手掛ける本プロジェクトが発信するのは、シルクのカジュアルな着こなしだ。「絹」という素材がもつ本来の魅力をとことん追求するブランドの“思想”が、世界を舞台に広がりはじめている。

横浜スカーフ・丸加が仕掛ける、現代の装いに馴染むシルク

戦前から生糸の貿易で栄えた街として知られる横浜。横浜におけるシルクの捺染業はじつに100年以上の歴史をもつ一方、化学繊維の台頭もあり、戦後その市場規模は減少傾向にある。「横浜スカーフの名門」とも呼ばれるのが、今年で創業65年の株式会社丸加だ。

丸加では、シルクスカーフやストール、ハンカチ、テキスタイルなどのオリジナルブランドの企画・開発、製造・販売を手掛けている。そこでは100年前から変わらない「手捺染」の手法が受け継がれていた。手捺染のプロセスでは、デザインにもとづいて色数に応じた型をつくり、丁寧に台に張った生地の上にその型を置き、大きなへらで一色ずつ染料を捺染していく。すべての工程が職人の技術や経験なしでは成立しない、モノづくりの現場だ。

丸加の売上の9割は、他社ブランド製品の製造(OEM)が占めているという。だが売上高に関わらず大切にしているのが、オリジナルブランドでの発信である。取締役の遠藤洋平さんに、オリジナルブランドでの取り組みについてお聞きした。

「現在、丸加は『伝統横濱スカーフ』『the PORT by marca』という2つのブランドと、『Marca originals』というオリジナル商品を展開しています。
まず『伝統横濱スカーフ』は、古くから伝わる商品を今もきちんとつくって残すことを大切にしたブランドで、3つの要素をもつものを扱っています。その3つとは、スカーフらしいこと、横浜らしいこと、そして手捺染によってつくられていること。複雑なデザインが多いので、色数=型の数が40枚近くに及ぶこともあり時間と手間がかかります。

株式会社丸加の取締役、第2事業部長兼東京店店長の遠藤洋平さん。『the PORT by marca』『Marca originals』の立ち上げに携わった。


『the PORT by marca』は、2015年秋/冬からスタートしました。社内の20~30代のスタッフが集まってチームとして立ち上げましたが、スカーフの従来のイメージに捉われないデザインがあっても良いんじゃないかと考えて。スカーフと言ってお客さまが思い浮かべる柄があると思いますが、デザインやカラーリング、素材、サイズ感などを既存のものと変えることで、現代の装いにそのままコーディネートできるスカーフをつくりました。
『Marca originals』では、シーズンごとにクラシカルなデザインのなかから柄を選定し、これからの装いにちょうど良いカラーリングのスカーフなどを中心に、商品を展開しています。これは2016年ごろから取り組んでいるものです。
丸加は数年前から百貨店にお声がけをいただくようになりました。私は自分でも手売りをするのですが、そうするとお客さまからさまざまなお声をいただきます。自分たちが今つくっているモノが、そのままで良いモノもあれば、お客さまが欲しいモノとの間にギャップがあることもある。そのなかで試行錯誤しながら『the PORT by marca』を形にすることができました。お客さまからも非常に反応が良いブランドです。」(遠藤洋平)

『the PORT by marca』の現代の装いにコーディネートできるデザインのスカーフ。

ここ数年で『the PORT by marca』、『Marca originals』と立て続けにリテイルの幅を広げている丸加。その商品は、横浜においては100年、丸加では65年間続けてきたアナログなモノづくりに立脚している。「そういう意味では、筆の先を変えたような仕事をしているのかなと思います」と語る遠藤さんだが、横浜の伝統を受け継ぎながらも、現代のニーズに応じた新しいスタイルのシルクを世の中に提案することは簡単ではないだろう。そんな遠藤さんが目指すのは、地元の人に愛される商品をつくること。ハマっこの皆さん、横浜の伝統と今をつなぐ丸加のシルクスカーフを身にまとって街に繰り出してみては?

 

ライフスタイルブランド「cilk」の誕生――“シルクロード”をきっかけに

そんな横浜を代表するシルクスカーフメーカーの丸加をはじめ、絹産業に関わる計6社が協業するライフスタイルブランドが、シルクのカジュアルな着こなしを提案する「cilk」だ。セレクトショップ「ミキリハッシン」のディレクターとしても知られる、ファッションディレクターの山口壮大さんがディレクションを手掛けている。協業する6社は、ニットのカワノ(新潟県五泉市)、ジャガードで知られるマルナカ(埼玉県飯能市)、産元商社の丸中(群馬県桐生市)、製品染めの内田染工(東京都文京区)、富士吉田のシルクメーカーがタッグを組む甲斐絹座(山梨県富士吉田市)、そして横浜の丸加である。

明治時代から、生糸は養蚕が盛んだった群馬県内の富岡などの生産地から、横浜港へと運ばれ海外へ輸出された。その道は「日本のシルクロード」と呼ばれる。協業する6社と山口さんの出会いは、富岡製糸場の世界遺産登録をきっかけに、始動した「絹のみち 広域連携プロジェクト」だった。織り、編み、染めなどそれぞれの技術をもつエキスパートが集まり、自然な流れでライフスタイルブランドの立ち上げに至ったという。

「例えば丸加はスカーフやストールのブランドなので、私たちだけではつくるアイテムが限られてしまいます。ですがライフスタイルブランドとして6社が組めば、提案できる商品の幅が広がりますよね。お互いに、自分たちで手がけている商品を面で見せることができる可能性を感じ『cilk』というブランドを立ち上げることになりました。」(遠藤洋平)

ディレクターの山口さんは、『cilk』の立ち上げをどのように考えていたのだろう。

「ブランドをつくる行為そのものが、哲学や理念、考え方を分かりやすく伝えていくことと捉えるならば、表現の振り幅があればある程、多くの方に伝わっていく可能性が増えると考えています。『絹』という素材は、日本人であれば誰もが知っていますが、自分ごととして捉えられている方は多くはありません。『cilk』という名前には、絹は自分たちにとってスペシャルじゃないよ、カジュアルだよというメッセージを込めています。絹は良質ではあるけど手の届かない遠くのものではなく、実際に触れられる身近なものであることを表現したかったからです。

ファッションディレクター、セレクトショップ「ミキリハッシン」のオーナーとして活躍する、「cilk」のディレクター・山口壮大さん。


日本はかつて横浜から絹織物を輸出して、外貨を稼いで盛り上がっていました。もともと『絹のみち』は、その大きな資源をもう一度身近に感じていただこうというところからスタートしていました。絹産業に携わる方たちと出会って感じたことが、当たり前の話ではありますが、皆さんすごくモノづくりにこだわっているということ。そのなかでも面白いと思った技術になるべくフォーカスをあて、実際につくられたプロダクトを身近に感じていただこうと、『cilk』を立ち上げたんです。」(山口壮大)

 

絹という素材のデメリットを魅力として捉えるディレクション――「cilk」のコンセプト

「cilk」が面白いのは、絹ならではの魅力を捉え、カジュアルなスタイルとして提案しているところ。そこには山口さんの素材へのこだわりがあった。

「絹は繊細な素材なので、傷みやすいこと、劣化しやすいことはデメリットと考えられてしまいがちです。でもじつはそうではなくて、時間とともに変化することは絹ならではの魅力であると僕らは捉えています。だから劣化という言葉は使いません。『cilk』では毎シーズン“経年変化”をキーワードにデザインをつくっています。

 従来の伝統的なスカーフって、僕にとってはすごく遠いんですよね。何で遠いのかなと考えると、歴史があるからこそ定型化してしまっていて、厳格な感じ、こうじゃなきゃいけないという近づきがたいイメージがあるからだと思うんです。『cilk』は従来のスカーフと発想を根本的に変えて、敢えて色味をかすれさせたり、版がズレているようなものやボロのようなデザインをつくっています。そしてより身近に感じて頂く為に、地道に1版の数を減らしてコストを下げたりしています。」(山口壮大)

“経年変化”を表現したデザインで、従来のスカーフのイメージを刷新する「cilk」のスカーフ。

 

山口さんはプロダクトをつくる際、はじめにマーケットありきではないと言う。これから「cilk」のスカーフでやりたいことは、織や風合いを出した素材への挑戦だ。「ハードルは高いができないことではない」と、遠藤さんも相槌を打つ。

「僕らは、基本的には白生地にプリントをする後染めの手法で製品をつくりますが、『cilk』には織専門の会社もいらっしゃるので、そこでつくった先染めの生地を使って、うちでプリントをすることもできると思います。協働チームの皆さんもこのブランドに対してとてもポジティブなので、できることの幅が広がりますね。」(遠藤洋平)

「cilk」へのモチベーションについて話す遠藤さん。ディレクターの山口さんからの提案を形にしたい想いがあると言う。モノづくり企業と山口さんのやり取りに、柔軟で創造的なコラボレーションの一端を垣間見た。

新しい製品づくりに次々と取り組むフットワークの軽さを感じる、お二人のコミュニケーション。

 

パリで発表した「cilk」のインスタレーション展示

「cilk」の海外展開のビジョンは、テキスタイルでの販売だ。今年の2~3月、「cilk」はフランス・パリのマレ地区のギャラリーで、2019年の春/夏のテキスタイルの展示会を開催した。海外でアプローチをかけるために、まずはエージェントを探したという山口さん。良いエージェントとの出会いがあり、展示会の実現にこぎつけた。

「現地のエージェントが企画する展示会に出品するという選択肢もあったのですが、いくつかのブランドのなかのひとつとして出すのではなく、はじめは自分たちのスタンスやコンセプトを打ち出すことが大事だと思っていました。そこで『cilk』のテキスタイルの世界観を発表しようと、インスタレーション型の展示をすることにしました。どちらかというと、バイヤーに向けてというよりは、すでに契約をしたエージェントに向けてお披露目した感覚です。エージェントには、コンセプトを分かったうえで売ってもらいたいと思っていました。
 このインスタレーションは『cilk』の2つのキーワードを伝える内容でつくりました。“天然”と“経年変化”です。」(山口壮大)

展示会場の構成は、生地の展示と、「cilk」製品の展示の大きく二つに分かれている。生地の展示ではコートをかけるようなフックに、緑色などに染められた大きな生地がラフにかけられている。その横にはテキスタイルハンガーに、加工される前の状態の生地が陳列されている。

「絹の物語を広げていく為、経年変化をイメージした後染めにも意味を持たせたいと考えました。蚕が食べる”桑”から抽出した染料の色味で、カラーパレットを作り、後加工として提案しています。」(山口壮大)

パリのギャラリー「Atelier Blancs Manteaux」でのテキスタイル展示の様子。

 

そしてメインの展示となったのが、新作の「cilk」製品である。非常にコンセプチュアルで、かつ膨大な時間と労力をかけて山口さんが生み出したアート作品とも言えるだろう。この製品には、なんとシルクの生地を産地の土のなかに埋め、自然加工して変化させたものが使用されている。

「『cilk』のコンセプトである“天然”と“経年変化”を強く打ち出したいと思いました。そこでシルクの生地を、各事業者の土地、群馬の桐生や、横浜、富士吉田などの土のなかに一ヵ月間埋めました。そうするとシルクを構成する繊維状のたんぱく質一種、フェブロインという成分に、土のなかの微生物が作用して発酵していくんです。つまりこのシルクは、各産地の土で自然加工されたものです。

 生き物である蚕は、桑の葉を食べ、繭をつくりシルクを生成する過程で、命を落としてしまうんです。自分にとっては、それが他の素材とは異なる大きな特徴であると感じ、その感覚を丁寧に表現したいと思っていました。その流れで論文をいくつか調べていく中で、発酵というテーマに行きついたんです。日本の発酵文化って、土地によって大きく異なるんでよね。それは日本の気候風土によって、生息できる微生物が違うからです。その微生物がどの成分に対してどのような影響をもたらすのか調べていくうちに、フェブロインに反応し、作用をもたらすことに辿り着きました。しかも見た目にも分かりやすく。

 各地にシルクを掘り起こしに行くときはすごいプレッシャーでしたよ。失敗していたらパリの展示が成立しないですし――。富士吉田では富士山の樹海にシルクを埋めていたのですが、掘り起こすときは一面雪景色で(笑)。掘り起こした後、風邪をひいて高熱を出しましたが、なんとか展示は成功しました。」(山口壮大)

新作「cilk」製品の展示の様子。シルクを産地の土に埋め、自然加工して変化させた生地からつくられている。

 

生き物から生まれたからこそ、傷みやすい絹という素材。ネガティブにも捉えられる素材の特徴をポジティブな魅力として提示し、素材が変化する時間とともにあるライフスタイルブランド「cilk」の豊かさを、みごとに表現したインスタレーションになった。

現在はハウス@ミキリハッシンで限定的に行われる展示会を中心に、不定期で開催する展示会での受注販売に限り扱っている「cilk」の製品。ネットショッピングなどいつでもどこでも欲しい商品を購入できる今の時代だからこそ、3~4ヶ月経って製品が手元に届く「cilk」に価値を感じてもらえるのではないかと遠藤さんは指摘した。

日本の伝統産業・シルクの素材にこだわり、カジュアルな着こなしを提案する「cilk」。モノづくり企業と気鋭ディレクターが手がけるライフスタイルブランドのこれからの展開に、ぜひご注目を。

取材・文:及位友美(voids)

【関連サイト】

cilk
ウェブサイト:http://cilk.shop/
お問合せ:info@cilk.shop

株式会社丸加
http://www.marca-scarf.jp/

山口壮大
http://souta-yamaguchi.com/