8カ国15組のアーティストによる「黄金町バザール2019」が9月20日に開幕! 今年のテーマ「ニュー・メナジェリー」とは?

Posted : 2019.09.20
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2008年より毎年秋に開催されているアートフェスティバル「黄金町バザール」。今年のテーマは「ニュー・メナジェリー」(=新しいマネジメント)だ。「Ménagerie(メナジェリー)」とはフランス語で、近代動物園の前身となる動物飼育舎を意味するという。この言葉にはいったいどのような思いが込められているのだろうか。黄金町バザールのディレクター・山野真悟さんと、参加アーティストの土本亜祐美さんに12回目を迎える「黄金町バザール2019」の見どころを聞いた。

 

 

 

特異な歴史を持つまち・黄金町のアートフェスティバル

黄金町に点在したアートを巡る「黄金町バザール」。12回目を迎える今年は8カ国15組のアーティストが参加する。日本をはじめ、タイ、インド、台湾、中国、アメリカなどさまざまな国からアーティストが黄金町に集う。
「黄金町バザールは、当初からまちとの関係性を意識してきました。基本的にはみな、アーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)で作品をつくっています」と話すのはディレクターの山野真悟さん。
公募で選ばれた参加アーティストは、おもに20〜40代の若手がほとんど。これから活躍が期待される気鋭のアーティストが一堂に会し、黄金町でさまざまな出会いを経て、制作をし、展示する。展示会場となるのは、高架下にあるスタジオや、周辺のスタジオ、屋外など京急線「日ノ出町駅」から「黄金町駅」間のエリアだ。
「この地域は歴史的に特色がありますが、アーティストには必ずしもそこに着目しなくてもいいですよ、といっています。うまくいくことも失敗することもありますが、何ができるかわからないのが面白いところです」

「黄金町バザール2019」の会場となるエリア。かつての違法飲食街を連想させる間口が狭いドアが並ぶ建物も、スタジオや展示室となる。

 

やはり黄金町で新作が生まれるというのがこのイベントの大きな特徴だろう。特異な歴史を持つ黄金町は、戦前は大岡川を活用した問屋街として栄えた。戦後、バラック小屋がひしめく飲食街になり、やがて多くの売春婦が働く巨大な違法風俗店街に変貌。それらを一斉摘発する「バイバイ作戦」が行われたのは2005年だった。現在は、かつての黄金町の痕跡をところどころに残しながら、新しいまちに変わっている。
「ワンルームマンションができて、単身者が多かったり、外国籍の住民が多かったり。一方で、古くから住む人たちもいて、まさに多文化共生を体現した地域でもあり、これからの日本の姿を重ねることもできるかもしれません」と山野さんは話す。

あらゆる関係性を見直し、新しい関係を築く、「ニュー・メナジェリー」

黄金町ではさまざまな人が活動する。地域に住む人や働く人、アーティスト、キュレーター、学生。その関係のなかで生まれてきたアートを再考するのが、今回のテーマ「ニュー・メナジェリー」だ。聞きなれない言葉には何が込められているのか、山野さんにきいた。
「この言葉を提案したのはキュレーターチームですが、難しい言葉ですよね。まだ動物園というものがなかった近代以前の西洋で、富裕層が動物をコレクションして飼育していたものをメナジェリーといっていたそうです。それが「管理」を意味する『マネージ(manage)』の語源だという説もあります。今回は、その言葉を借りてこれからのアートマネジメントのあり方を考えていきたい。ここでの『マネジメント』とは、アーティスト、展覧会をつくる側、お客さん、地域などさまざまな関係を含んでいます。同時に、動物園のような“見る/見られる”という関係性を問うていく、という意味も込めています」。

「黄金町バザール」のディレクターを務める山野真悟さん。

 

アートにおける「マネジメント」というと、一見、展覧会主催者の企画運営における方法やその理論を思い浮かべてしまうが、ここではそうではない。「対等な関係をどのようにつくっていくか、が大きなテーマとも言えるかもしれません。上下関係がなくフラットなコミュニティや関係性のなかで、どんな展覧会ができあがるのか。それをキュレーターたちは考えてやっています」。

黄金町での生活と取材を通してアニメーションに

参加アーティストの一人、土本亜祐美さんも、取材したときは黄金町に滞在して2カ月だったが、「フラットな雰囲気を感じる」と話す。土本さんは現在東京を拠点に活動し、手描きやデジタル、実写などを混ぜたアニメーション作品を制作する。今回の滞在では、黄金町のまちづくりに取り組んできた「初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会」のメンバーに取材をし、アニメーション作品をつくる。

「黄金町バザール」の参加アーティスト、土本亜祐美さん。

 

「まちにある電灯や建造物をモチーフにしたキャラクターが登場し、物語を展開していきます。どんなふうにこのまちが変わっていったのか、いまどのように感じているのか、といったお話をきいて、ストーリーに反映しています」。
黄金町に宿泊し、徒歩数分の大岡川沿いのアトリエに通う日々。その生活のなかで出会うものがアニメーションとなる。「5分くらいの短い映像ですが、密度のある画面なのでぜひ細部まで見てください」と土本さん。見るたび新しい気づきが生まれ、繰り返し見たくなるアニメーションになりそうだ。

土本さんのアトリエ(上)と制作中のドローイング(下)。

 

今回、アニメーション作品はほかにも2作家が出品する。アメリカ・マサチューセッツ出身でデザイナーとしても活動するレイモンド・ホラチェックは幾何学形態をモチーフにした映像を、また中国を拠点にする曹澍(ツァオ・シュウ)はリサーチをもとにCGによる映像を発表する。
そのほか、生物や怪物などをモチーフにした作品が比較的多いのも今年の「黄金町バザール」の特徴かもしれない。
まちなかを泳ぐサメをモチーフにした吉田ゆう(日本)、参加者らが描いた「近代都市のモンスター」とともにインスタレーションを展開するアヌラック・タンニャパリット(タイ)、日光だけで生態系を自己完結するシステムのなかで、唯一繁殖できないエビに注目したエレナ・ノックス(オーストラリア)。また、ほかのアーティストの作品でも立体からペインティング、セラミック、刺繍など多様な素材を扱っている。

開幕前、リサーチや制作をするアーティストたち。しめ縄をつくるアヌラック・タンニャパリット(上)と、大岡川源流に生息するエビをリサーチするエレナ・ノックス(下)。2点とも黄金町エリアマネジメントセンター提供。

 

アートスクールのようなまちへ

大岡川沿いに京浜急行が走る。

 

黄金町バザールが始まって12年目。まちの人はこのイベントをどのように見ているのだろうか。
「恒例行事になっていますので、『またはじまったよ』『また新しいアーティストがきたな』というように、地域のお祭りのような感覚で捉えてくださっている方が多いですね」と山野さん。集まるのはアーティストだけではない。昨年からインターン制度も設け、アートマネジメントやキュレーションを学ぶ学生がマレーシア、インドネシア、日本からそれぞれ一人ずつ滞在し、運営を手伝っている。
こうしたさまざまな世代や国、背景の人が集まり、黄金町は一つの学校のようになりつつある。「今回の3カ月間の滞在を通して、アーティストとして自覚が持てるようになりました」と土本さんは話す。一時期を同じ場所で過ごした仲間たちは、一つの祭りが終わってまた次の場所へいっても、交流を続けている。
アートやアートを志す人たちに出会える「黄金町バザール2019」は11月4日まで。イベントも多数開催予定だ。会期中有効のフリーパスで、何度も訪れたい。

写真:森本聡
文:佐藤恵美


山野真悟(やまの・しんご)
1950年 福岡県生まれ。2005年『横浜トリエンナーレ2005』でキュレーターに就任。2008年より活動拠点を横浜に移し、『黄金町バザール』ディレクターに就任。2009年黄金町エリアマネジメントセンター事務局長に就任、現在に至る。黄金町バザール ディレクター、黄金町エリアマネジメントセンター 事務局長。

土本亜祐美(つちもと・あゆみ)
1987年広島県生まれ。2011年広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科メディア造形分野を卒業後、現在は東京を拠点に活動。土地や環境、人からインスピレーションを受け、個人の内的表現に停まらない、地方の地域に積極的に介入したアニメーション表現を模索し、手書きやデジタルドローイング、実写を映像内で意図的に組み合わせた短編アニメを主に制作。


黄金町バザール2019 —ニュー・メナジェリー
会期:2019年9月20日(金)〜11月4日(月・祝)
会場:京急線「⽇ノ出町駅」から「⻩⾦町駅」間の⾼架下スタジオ、周辺のスタジオ、屋外、他
開場時間:11:00-18:00 ※毎週土曜と11月3日(日)は20:00まで開場
休場日:⽉曜⽇(月曜祝日の場合は翌火曜日)
入場料:700円(会期中有効のフリーパス)
参加アーティスト:アカサ・ブックストア、アヌラック・タンニャパリット、天草ミオ、エレナ・ノックス、シジ・クリシュナン、程仁珮(チェン・レンペイ)、曹澍(ツァオ・シュウ)、土本亜祐美、常木理早+要田伸雄、ナリッサラ・ピイアンウィマンサ、ニワニワパラダイス、葉栗翠、吉田ゆう、吉本直紀、レイモンド・ホラチェック
主催:特定非営利活動法人黄金町エリアマネジメントセンター/初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会
共催:横浜市