「RED ROOM」の最終回。幻の赤い部屋に “また逢う日まで” 髙橋匡太・長田哲征・山中透インタビュー

Posted : 2019.08.23
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夏の気配を感じる雨の夜、赤く光った建物が現れた。やがて映画『タイタニック』のテーマ曲がかかり、バルコニーにドラァグ・クイーンが登場する。5回目を迎えた「RED ROOM(レッドルーム)」の最後の宴「RED ROOM “Bon Voyage!”」が開幕した。「RED ROOM」とは、馬車道のYCCヨコハマ創造都市センター(以下、YCC)で、2017年から続くアートのイベントだ。アーティストの髙橋匡太(たかはし・きょうた)さんと川口怜子(かわぐち・れいこ)さんがライティングや空間を含む作品としてのRED ROOM全体を担当し、ドラァグ・クイーンらによるパフォーマンス、DJによる音楽で非日常のひとときを過ごせる。「RED ROOM」はなぜ赤いのか。なぜドラァグ・クイーンが登場するのか。そこには1929年の竣工から90年の時を有する旧第一銀行横浜支店の歴史的な背景も関係していた。 RED ROOMの本番前日、髙橋匡太さんと企画者でYCC館長の長田哲征(ながた・てつゆき)さん、そして中盤からは音楽を担当する山中透(やまなか・とおる)さんも加わり、話を伺った。当日の様子も写真を中心にレポートする。

「RED ROOM “Bon Voyage!”」 (2019年6月28日、29日)には、2日間で述べ300人以上の来場者が詰め掛けた。

 

風景を変える光の力で、YCCをホテルのラウンジに

——「RED ROOM」を企画されたきっかけは、90年の間、横浜の歴史をつなぎ、記憶を蓄積してきたこの建物が起点にありますよね。スタートした経緯を教えてください。

髙橋:RED ROOMは、実は10年ほどの長期的なプロジェクトとして取り組んでいました。長田さんからお話をいただいたときに、歴史を積み重ねるこの建物を、架空のホテルにするのはどうか、というアイデアがありましたよね。

髙橋匡太、「RED ROOM “Bon Voyage!”」より。

長田哲征、「RED ROOM “Bon Voyage!”」より。

 

長田:あるとき横浜に住む叔父が「そういえば、あの建物(旧第一銀行横浜支店)は米軍接収時代にキャバレーになっていた」とYCCのことを話していたんです。半信半疑でしたが、調べたら本当に「グランド・チェリー」という名のキャバレーの写真が出てきた。旧第一銀行横浜支店は、第二次世界大戦後に接収され、キャバレーとして使われていた歴史があったんですね。それは屈辱の歴史かもしれませんが、私自身、横浜の米軍基地の近くで育ったので、ある意味それが横浜らしいという気持ちもありました。そうした複合的な文化が生まれる場所として「YCCをホテルにしよう」というイメージがなんとなくありました。横浜は、日本国内で初めて西洋式ホテルが生まれた地でもあります。昔から多くの外国人を受け入れ、ホテルに併設するバーやレストラン、ライブハウスから文化が生まれていった歴史も経ている。そんな部分から企画を考えていて、「赤」というイメージがなんとなくありました。

——その後、髙橋さんと企画を詰めていかれたのでしょうか。

長田:テーマやコンセプトなどを含む企画全体は私が考えて、具体的な作品については作家が考えていくのが通例ですが、今回は実現できるかわからなかったので、当初から依頼するなら髙橋さんと思っていたものの、髙橋さんに話す前に僕が先に企画書用のイメージスケッチを描いて、横浜市に説明しに行きました。すると市の職員も興味を持って協議してくれたので、可能性は感じました。でも通常、常設で赤い色の建物というのは、横浜市の景観条例に引っかかってしまうんですよね。YCCのある馬車道を含む区域では建築への赤などの原色の使用は制限されています。赤ではなく、青や緑ではだめなんですか? という質問もありました。それで、何度か協議を重ね、短期のイベントを前提とすること、アーティストによる芸術作品とすること、歴史的建造物の保全をきちんと行うこと、横浜市が後援につくことなどの条件をつけてもらい、了承を得られたのでした。すぐに髙橋さんにお声がけしました。

「RED ROOM #1」(2017年7月28日、29日)より。初回はYCCの正面入り口付近でのみ開催。時折行われたショーはドラァグ・クイーン「マダム・レッド」と「レッド・ガール」を中心に繰り広げられた。バルコニーでは蝶々夫人をテーマにしたパフォーマンスも。

 

「RED ROOM #2」(2017年10月31日、11月1日)より。バーカウンターにて。2回目は、この界隈で行われた「馬車道ガスライトフェスティバル」に合わせて開催。ハロウィンの時期でもあった。

 

髙橋:長田さんにお話をもらったとき、街の中に突然現れる異空間というか、異化作用のような赤い部屋のイメージが浮かびました。当初は2カ月に1回くらい「幻の赤い部屋」が現れるのはどうかな、という話をしていましたよね。ホテルのロビーやラウンジのバーのようなイメージでした。シアターでもダンスパーティでもなくて、ラウンジ。お客さんにショーを披露するというよりも、赤い部屋で過ごす人たちにどんな物語が展開されるかを大事にしたいと思いました。扉を開けると、昨日までとは違う別世界が広がっている、というような。

——赤という色にはどのような意味があるのでしょうか。

髙橋:いくつかありますよね。一つは非現実的な部屋になること。日常生活で室内を真っ赤にすることはほとんどないと思います。それから都市としても非現実的です。公共建築のライトアップの仕事は何度か経験がありますが、一過性のイベントでもここまで赤を大胆に使うことはできません。ですが今回は「アート」として社会実験的に赤に染めることが許されています。常設は不可能だけど、パッと現れて蜃気楼のように消えるのならば、都市景観としても一時的に真っ赤に染まるのもありなんじゃないかと思いました。
僕にとって光は絵の具ですけれど、光はその瞬間だけ風景を変えることができます。翌日、同じ建物を見ると「昨日の赤い部屋は幻だったのかなあ」と思うかもしれません。そこが光の魅力だと思います。

「RED ROOM #1」より。

 

「RED ROOM #2」より。

 

すべての人が、ここではないどこかで、わたしではないだれかに

——RED ROOMはラウンジというコンセプトではありますが、パフォーマンスや音楽も魅力ですよね。そうしたコンテンツはどのように生まれたのでしょうか。

長田:僕が髙橋さんへお声がけしたときは、コンテンツはほぼ白紙状態でした。バーラウンジみたいにして、そこでいろんなコミュニケーションが生まれるのを想像していたけれど、それだけじゃ面白くないかもと思っていました。例えばドラァグ・クイーンみたいな人がバーカウンターに立つとか、そういう内容を考えていたけれど、企画としてまとまらなかった。それで、髙橋さんに相談したら「ちょっと考えさせてください」と言って持ち帰ってくれました。

「RED ROOM #3」(2018年5月11日、12日)より。「Poseidonと海の不思議」をテーマに、「貝」とダンサーの辻本佳によるポセイドンが加わる。

 

髙橋:最初のインパクトとして、ここでドラァグ・クイーンのマダムがある人の帰りを待っている、といった設定をしてみました。

長田:髙橋さんが拠点としている京都は、アーティスト・グループ「ダムタイプ」の活動の地でもあり、ドラァグ・クイーン文化が数十年に渡り育まれてきた場所でもあります。アートとの親和性も高い。それで京都で活動するメンバーを連れてきてくれました。みなさんお互いに仕事をしている仲なので、一つのものをつくるにも阿吽の呼吸という感じでスムーズでした。

「RED ROOM #4」(2018年9月21日、22日)より。テーマは異次元のボール・ルームを舞台にした「大人のおとぎ話と、新たな旅人」。

 

髙橋:趣向も似ていますし共通の体験もあるので、世界観を共有しやすいメンバーです。RED ROOMを初めてやるときも、例えば京都のドラァグ・クイーンパーティー「DIAMONDS ARE FOREVER」というイベントや、デヴィッド・リンチ監督の映画を参考にイメージを共有しました。みんなで妄想を盛り上げられるメンバーだからこそ、破綻することなく続けられているのだと思います。

長田:企画を出したときに「ああ、こういう感じだよね」というのがぱっと通じるのは重要ですよね。言葉では100パーセント説明しきれない部分もありますし。

「RED ROOM #4」より。

 

髙橋:それで、いろんなアイデアが出てきて、どんどん妄想も膨らんで、回を重ねるごとに空間も広がっていきましたよね。あるときから、貝の大道具なんかも登場して。最初のRED ROOMは、1階の正面入り口付近だけを使って歌を歌ったりと、もう少しこじんまりとしていたんです。ここに本当にバーができたと勘違いをして入ってくるお客さんもいましたよね。それで3回目のRED ROOMのときに「象徴的なものがあった方がいいよね」となって。「ヴィーナス(女神)の誕生とかどうだろう」と。

長田:僕もその打ち合わせに同席していましたが、貝の話が出てきたとき、瞬時に予算のことが頭をよぎりました。でも企画側としては、つくり手の発想を豊かにするための土壌づくりしかできないんですよね。スタッフと話して制作の予算を工面できそうだったので、「貝つくります」というと、大盛り上がりでしたよね(笑)。

「RED ROOM #4」より。

 

——ここから、RED ROOMで重要な音楽を担当するDJ LaLaこと山中透さんも加わって、お話を伺えたらと思います。

髙橋:山中さんとは「flo+out(フラウト)」というグループをつくって、映像とインスタレーションとパフォーマンスというようなことを一緒にやっていました。そうした付き合いも長く、「これは山中さんに相談するしかない」と。

山中:「赤い部屋」ときいて、穿った見方をせずに素直に反応したらいいのかなと思いまして。デヴィッド・リンチの映画ときいて、好きな作家だしすぐにイメージがわきました。ほかの要素としては、赤い部屋のバーなら何軒か思い浮かんだり。それに合う音楽ってなんだろうといったことから紐解いていきました。

髙橋:赤という色の意味はいっぱいあるけれど、扉を開けると違う時空があるという部分だけはキープして、考えていきました。

山中透(DJ LaLa)。「RED ROOM “Bon Voyage!”」より。

 

そして、みんなの記憶をのせたRED ROOM号は出航した

——今回は1階のフロアをすべて使い、過去最大規模のRED ROOMとなりますね。テーマは「良い旅を!」という意味の「Bon Voyage!(ボン ボヤージュ)」ですが、どんな2日間になるのでしょうか。

髙橋:RED ROOMから豪華客船が出航していくという設定で、YCCの建物を船の舳先(へさき)に見立てます。豪華客船といえば、華やかに楽しいことをしているというのもあるだろうし、何だか不安な感じもあるし。そして、その船は沈没してしまう、という設定です。

「RED ROOM “Bon Voyage!”」よりプロローグ「美しくも不安な船出」。5回目は最終回ということもあり、例になくショーが続き、2日間で第6幕まで展開される構成となった。写真は、5回ともスクリプト(台本)を担当した出口雨。

 

「RED ROOM “Bon Voyage!”」より第4幕「思い出」。レッド・ガールことチャンジャ・セモリナによるショー。

 

「RED ROOM “Bon Voyage!”」より第6幕「水先案内人たち」。マダム・レッドことフランソワ・アルデンテらによるショー。

 

長田:いつものように、どのような内容にしようかと打ち合わせをしたあと、ストーリーは出口雨さんが書きました。そのあと山中さんが音楽を決めて、それに合わせてパフォーマンスを考える。ただし実際のパフォーマンスとストーリーの合致はあまり重要ではなく、起承転結もありません。僕も公演の内容を細かいところまで把握できていないことが多くて。

山中:『タイタニック』の映画のイメージもあるので、お客さんも沈没ときくと、イメージが湧いてその世界に入りやすくなると思いました。

「RED ROOM “Bon Voyage!”」より。みんなで踊れるダンススペースも。

 

「RED ROOM “Bon Voyage!”」より第2幕「海の生きものたちとディスコパーティー」。髙橋匡太自らがキャプテン・センシブルの「Happy Talk」を歌う場面も。

 

「RED ROOM “Bon Voyage!”」よりエピローグ「Bon Voyage!」。「RED ROOM #4」より出演している、コニョスナッチ・ズボビンスカヤ(砂山典子)によるパフォーマンス。尾崎紀世彦「また逢う日まで」にのせて。

 

髙橋:ショーの内容は直前までどんどん変わっていきます。自由度も高いけれど、そこの世界の住人というのも大事にしたくて、お客さんも出演者もスタッフも、そこにいる全員がRED ROOMという物語の登場人物になります。山中さんもメイクをしますし、長田さんはRED ROOMの支配人なので、蝶ネクタイをします。お客さんも非現実的な時間と空間を楽しんでもらえたら、と思います。
今回でRED ROOMはYCCから旅立ちますが、また別の場所でみなさんに会えたらいいですね。

「RED ROOM “Bon Voyage!”」より第1夜のエピローグ「そして船は行く、のか。」より。その場に集った人の記憶を、音楽と歌に乗せて、豪華客船 「RED ROOM号」は出航した。

 

「RED ROOM “Bon Voyage!”」の出演者たち。

 

写真:加藤甫(提供:YCC ヨコハマ創造都市センター)
文:佐藤恵美


(プロフィール)
髙橋匡太(たかはし・きょうた)
アーティスト。1970年京都府生まれ。1995年京都市芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。光や映像によるパブリックプロジェクション、インスタレーション、パフォーマンス公演など幅広く国内外で活動を行っている。東京駅100周年記念ライトアップ、京都・二条城、十和田市現代美術館、など大規模な建築物のライティングプロジェクトは、ダイナミックで造形的な映像と光の作品を創り出す。多くの人とともに作る「夢のたねプロジェクト」、「ひかりの実」、「ひかりの花畑」、「Glow with City Project」など大規模な参加型アートプロジェクトも数多く手がけている。五島記念文化賞美術新人賞、京都府文化賞奨励賞、DSA日本空間デザイン賞2015優秀賞ほか多数。

長田哲征(ながた・てつゆき)
1970年横浜生まれ。多摩美術大学建築科卒業。建築設計事務所、現代美術関連事務所勤務、2002-2008年ナンジョウアンドアソシエイツ代表取締役・ディレクターなどを経て、2009年オフソサエティ株式会社を設立。2015年特定非営利活動法人YCCを設立し、代表理事就任と同時に、YCC ヨコハマ創造都市センター館長に就任。過去にアーツトワダ/十和田市現代美術館(青森)の全体監修および計画策定、ちよだアートスクエア構想(現アーツ千代田 3331、東京)の計画策定、六本木ヒルズ・パブリックアート制作協力、八戸市新美術館運営計画策定ほか、国内外のアートプロジェクトの企画・実施や美術館などの芸術文化施設の整備計画・運営計画を主に手掛ける。

山中透(やまなか・とおる)
DJ、作曲家、レコーディング・エンジニア、プロデューサー。学生時代、京都を中心に実験音楽系のフィールドで活動し、マルチ・メディア・パフォーマンス・グループ「ダムタイプ」の立ち上げに参加。創世記のメンバーとして、音楽と音響を担当。1989年よりクラブイベント「DIAMONDS ARE FOREVER」をシモーヌ深雪、故グローリアスと共にプロデュース。大阪、東京、名古屋、札幌、博多、新潟、仙台、N.Y.、マドリード、シドニー、パリ、ベルリンなど、世界各地のクラブで開催。アートからダンス、パフォーマンスまで様々な分野とも積極的にコラボレーションを行い、また勢力的にワークショップもこなす。自身で立ち上げたfoil-recordsの作品なども多数。


(以下、実施情報)
RED ROOM “Bon Voyage!”
開催概要:2019年6月28日(金)、29日(土)19:00-23:00
会場:YCC ヨコハマ創造都市センター 1階
アートワーク:髙橋匡太・川口怜子
パフォーマンス:
 ・マダム・レッド:フランソワ・アルデンテ
 ・レッド・ガール:チャンジャ・セモリナ
 ・ポセイドン:辻本佳
 ・謎の掃除婦:コニョスナッチ・ズボビンスカヤ(砂山典子)
 ・貝柱:合田有紀
 ・船長:キョウタ
 ・フジツボ:出口雨
時空を旅する音楽家:LaLa(山中透)
ドラマトゥルグ:出口雨
コスチュームデザイン:南野詩恵
舞台監督:山本アキヒサ
オペレーション:村上美都
ブレシングフラワー(作品):チェ・ジョンファ *Special Thanks
貝(舞台装置)製作:水嶋裕一(studio dog tart)*Special Thanks

主催:YCC ヨコハマ創造都市センター(特定非営利活動法人 YCC)
協賛:カラーキネティクス・ジャパン株式会社/株式会社サンテクニカル
後援:横浜市文化観光局
企画:長田哲征(YCC/offsociety)
コーディネーション:長田哲征/足立篤史(YCC)/岩澤夏帆(YCC)/下司悠太(offsociety)
ラウンジ・オペレーション: 園山佳世(café OMNIBUS)