中学生がつくったアニメーション作品の面白さ 「横浜市立中学校アニメーションフェスティバル2018」

Posted : 2018.10.29
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横浜市内中学校6校+小学校1校の生徒たちが横浜市民ギャラリーあざみ野に集まった。中学生が授業や部活動などで制作したアニメーション作品の上映会だ。制作に関わった生徒たちがプレゼンテーションを行ない、同じ世代どうしで、あるいは他校の美術教師やアニメーション作家と、アニメーションを通しての交流を行なった。

横浜市民ギャラリーあざみ野で9月15日、「横浜市立中学校アニメーションフェスティバル2018」、略して「横中アニフェス!」と題したイベントが開催された。中川西中学校の生徒が作成した案内チラシには「アニメで交流!してみない?」「同世代の仲間たちの作品 見よう!感じよう!」というキャッチフレーズが載っている。

そもそも、なぜ、中学校でアニメーション制作を授業や部活動に取り入れているのだろうか?また、どうやってアニメーションづくりのテクニックを中学生が持ち得たのだろう?すべての中学校ではないものの、美術の授業に取り入れ、さらに音楽の授業も活用してアニメーションづくりに取り組んだ学校があるという。その発端は7年前にさかのぼる。

2012年「教師のためのワークショップ」と題して、横浜市民ギャラリーあざみ野でアニメーションをテーマとしての研修会が開始された。ここから毎年、講師に井上仁行さん(「パンタグラフ」代表、立体造形、立体アニメーション・アーティスト)、池亜佐美さん(アニメーション作家)、松本力さん(映像、アニメーション作家)、川口恵里さん(「ブリュッケ」所属、アニメーション作家)といったアーティストらを迎えて、アニメーション作成のための技法を実習的に学んできた中学校教師たち。アニメーション制作の面白さを知り、その美術教育での効果を意識するようになり、各学校の自分の生徒たちにそれを教えるようになった。

教師に向けてのワークショップ開始から7年目、今回、ついに生徒たちが作品を作り上げて発表する段階を迎えた。つまり、この発表会は、アニメーション制作が学校教育において成果としてどう実りつつあるのかを検分することのできる機会でもあった。

開会にあたり「パンタグラフ」の作品が上映された

 

生徒たちの司会進行によって会は進められ、制作に関わった生徒たちが作品づくりの工夫や苦労をプレゼンテーションしてから、その作品を上映。その後は他校の生徒や教師からの質問に答えて意見交換をし、今回の講師である井上仁行さん(「パンタグラフ」代表、立体造形、立体アニメーション・アーティスト)と三ツ山一志さん(横浜市民ギャラリー主席エデュケーター)から作品への講評を受ける。またメッセージ用紙が配られ、会場の誰もが各学校への感想や質問を書いて提出できる。初めて作ったアニメーション作品の発表とあって、他の人の作品づくりに関心があり、また多くの人から意見を聞きたいという強い気持ちがあるのだ。

■川和中学校 美術部
部員たちがそれぞれ作風の異なる数作品を制作した。学校生活で身近な存在の
文房具のコマ撮りや黒板にチョークで描いたイラストレーション作品に挑んでいた。

井上仁行さんからの講評;「たくさんの作品を見せてもらい嬉しかった。教室の机の中からいろいろなモノが出てくるアニメーションは、こうなったらいいなという願望の実現ですから楽しいですね。黒板アニメーションは消した跡が残っているところが、アニメーションならではの味わいです」

■希望が丘中学校 美術部
コマ撮り写真のアニメーション《はたらくバケツくん》は、シナリオづくりや吹き出しパネルを設置しての撮影の苦労や工夫をプレゼンテーション。撮影は「位置を調整しながら何度も撮り直した」 そう。

やはりコマ撮り写真のアニメーション《こんにちは 石子です》の作者は、「パソコンでの編集作業が大変だった」と経験を話した。

三ツ山一志さんの講評;「吹き出しのセリフやアフレコが興味深かったですね。中学生ってこういうユーモアの感覚で、こういう世界観があるんだなと知ることができました 」

■篠原中学校
美術の授業でクラスごとに制作した作品のうち2クラス分を上映。コンピューターで描いた線画イラストレーションを黒地バックに反転させ、それを次々に展開してみせたアニメーション。作品完成後、音楽の授業で上映しながら、リコーダーやピアノ、木琴などを即興演奏して音楽を後付けしたところがユニークだ。教科連携が実現した。

 

井上さんの講評;「次から次へと絵が変わっていく〈メタモルフォーゼ〉では、1コマをどのくらいの時間表示に設定するかが難しいのですが、絶妙のタイミングだったので、それがワクワク感につながっていました。音付けが独創的な即興演奏で、味わい深さをもたらしていました」

■番外編・藤が丘小学校
小学校でアニメーション制作に取り組んだという藤が丘小学校の教師、松浦さんがその経験を話した。「小学生にとっては、コマ撮り撮影などがとても楽しい経験だったようで、もう一回やりたい、とせがまれています。動かないはずのものを動かすことができたことが面白かったようです。今回、中学生の人たちの 撮り方の工夫や編集の技術を知ることができたので、ぜひみんなに伝えてもう一度取り組みたいです」
三ツ山さんも「最近は小学校からもアニメーションを知りたい、ワークショップをやってほしいという要望が多くあります。手を動かしてものをつくりだすことの楽しさをまず体感してもらえれば嬉しいですね 」

藤が丘小学校の作品の上映と松浦さん

 

■並木中学校 美術部
他の学校と比べて男子部員が目立つ。「撮影でも編集でもいろいろな手法を試してみました」と 説明をした上で、数作品を上映した。

井上さんの講評;「「平置き撮影」という技法を使って、背景を動かしてあたかも猫が歩いているかのように見せていましたね。コンピューターグラフィックスでもできてしまう技法なのですが、一枚ずつ描いて動かすことの良さは、一コマ一コマに撮影ライティングでできる陰影があるところ、その味わいがいいですね 」

■鶴見中学校 美術部
今年度の横浜市立中学校美術部展で映像賞を受賞した《お母さんのぬくもり》と題する黒板アニメーション作品を上映。「逆再生の編集技法も使ったのでそこも見てください」と説明した。

三ツ山さんの講評;「黒板とチョークという限られた道具で制作することによる、人の手を感じる素朴な世界観が出ていますね」

■中川西中学校 美術部および授業作品
人形アニメーション、黒板アニメーション、レゴブロックのアニメーション、コマ撮りのメタモルフォーゼ作品などそれぞれ個性のある4作品を上映した。

井上さんによる講評;「平面から立体への質感の変化を、音付けを上手に使って表現していました。アフレコの効果も存分に活かしていました。映画『スターウォーズ』のパロディがありましたが、僕自身もアニメーションを始めたきっかけは、中学生の頃にスターウォーズのパラパラ漫画を手帳に書いて動かして遊んだことからなんです。同じような発想を今の中学生も持つのだなと嬉しく思いました」

■番外編・教師たちの作品の上映
7月30日に行われた「第7回教師のためのワークショップ」では、アニメーション作家の松本力さんを講師に招いて、教師たちが作品づくりに挑戦していた。踊る仕草や動作のイラストレーションを描き、撮影すること533枚。さらに松本さんがこの原画を重複して使用したり、逆戻しや再生速度に変化をつけたりして編集し、音楽を付けて、6分弱のアニメーション作品を仕上げた。その作品の上映には生徒たちが歓声をあげながら見入っていた。教師たち自身が創作することを楽しんでいたことが伝わってくるものだった。

※作品はこちらのサイトから見ることができる。https://www.facebook.com/%E8%B8%8A%E3%82%8B%E4%BA%BA%E5%BD%A2-The-Animation-of-Dancing-Men-2111334569118236/

発表と作品上映を終えた7校の生徒たちは、展示されていた創作ノートに見入ったり、アーティストの井上さんを囲んで質問したりと積極的だ。

中学生にとってのアニメーション制作とは、どんな体験なのだろう。「動画を作る」というのならスマートフォンのアプリでも使えば手軽に行えるかもしれない。一枚一枚イラストを描くこと、ちょっとずつ動かしたりライティングを少しずつ変えたりして莫大な枚数の写真を撮影すること、黒板に絵を消しては描き、また消しては描くこと、こうした効率の悪い膨大な手作業に新鮮な楽しさを見出すのだろうか。あるいは撮影、アフレコ、音付け、編集などのチームワーク作業やコラボレーションの楽しさだろうか。

シナリオやセリフなどの考えを綴った創作ノートや、「絵巻物」オブジェの展示も

 

井上さんが話したように、手帳の隅に描いたパラパラ漫画を動かしたワクワク感を、今の中学生たちもまた時代が変わっても同じように求めているのかもしれない。
三ツ山さんに問うてみると、「アニメーションというアートジャンルには、「こうしなくてはならない」とか「これをやってはいけない」といった制約がありません。「絵や写真を動かせた!」という面白さ、愉快な気持ちを味わえばいいのです。アニメーションにはコンテンポラリーアートの要素が満載で、しかも親しみやすい。中学生の時期はやりたいことを胸の内に閉じ込めてしまいがちな年頃です。その閉塞感を解放して、やりたいことを制約なく自由につくるという楽しさを味わうことが大切です。そしてそのためには、まず先生たち自らが「つくるって面白い」と体感することが大切だと考えて、「教師のためのワークショップ」を始めたのですが、その作戦が成功して手応えを感じています。
今日の発表を見てもわかるように、中学生たちは自由であることの楽しさに目覚めている。時間はかかりましたが、当初考えていたとおりの状況に向かいはじめていて嬉しいです」
中学生たち、そしてこれからは小学生たちにとってもアニメーション制作が学校教育の現場において必要な一つの手段になっていくのだろう。

文・猪上杉子  撮影・平舘平