「ストップモーション アニミズム展」が開催。アーティストにきく、ストップモーション・アニメーションの世界

Posted : 2018.03.12
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3月4日よりフェイアート ミュージアム ヨコハマで開催中の「ストップモーション アニミズム展」。横浜・馬車道で、2005年に開校した東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の修了生16名が参加する展覧会だ。アニメの分野でも日本ではあまりその名が知られていない「ストップモーション・アニメーション」。この技法を使って作品を制作する2組のアーティスト・秦俊子(はた・としこ)さん、当真一茂(とうま・かずしげ)さん・小野ハナさん、そして彼ら・彼女らを指導したアニメーション作家の伊藤有壱(いとう・ゆういち)さんに、本展やストップモーション・アニメーションの魅力をきいた。

左から、伊藤有壱さん、秦俊子さん、当真一茂さん、小野ハナさん。

 

 

Interview01
ストップモーション・アニメーションって何?
伊藤有壱先生

NHK・Eテレにて放送している人気キャラクター「ニャッキ!」のほか、ミュージシャンのプロモーションビデオや誰もが知るCM作品など数々の代表作を持つ伊藤有壱さん。東京藝術大学の横浜キャンパスで教鞭をとるようになり、拠点も横浜に移し、自身の制作活動や若手の指導に注力してきた。今回の展覧会の発起人でもある。展覧会への思い、そしてストップモーション・アニメーションとは。

 

——今回の展覧会の魅力を教えてください。

「ストップモーション・アニメーション(以下、ストップモーション)」とは聞き慣れない言葉ではないでしょうか。静止した物体を少しずつ動かし、それらを一つひとつ撮影してつなげる映像表現のことです。「コマ撮り」と呼ばれることもありますが、それは、実のところ充分にその表現を満たしてはいません。アニメーションは、日本では一般的に「かわいい」「楽しい」「面白い」といったテレビ等で放映される商業アニメ、娯楽のイメージが強いですが、もっと幅の広い表現。ストップモーション・アニメーションにおけるさまざまな表現を見ていただこうと、若い作家16名の作品を集めた展示です。

 

——16組の作家、そして今回展示される作品はどのようなものでしょうか?

上映作品は二部構成になっていますが、一つ目のパートは、16名の作家の修了制作が中心です。フェルトの人形がつくるかわいらしい世界やホラー映画のような世界、また砂で書かれた絵が動く映像作品もあります。卒業制作は、つくらずにいられなかったモチベーションやエネルギーの結晶。その若く情熱あふれる作品が一堂に介します。そして第二部では卒業後の作品を集めました。修了後にも、個人の作家として国内外のコンペや映画祭、CM制作やテレビ・映画の制作などで活躍する現在の姿も見ていただこうというものです。また、映像に使われているパペット(人形)や素材などが見られる貴重な展示となっています。

伊藤有壱さん。

 

——展覧会のタイトルにある「アニミズム」という言葉にはどのような思いが込められているのでしょうか。

「アニミズム」とは、「汎霊説」と訳したりしますが、すべてのものに霊が宿る、というような考えのことを言います。実はこれが「アニメーション」という言葉に通じている。というのもアニメーションは「アニマ(心霊・魂)」という言葉が語源ですが、アニミズムの語源もアニマなのです。今回の展覧会では、より広くアニメーションを見直していきたい。その思いから「アニミズム」をタイトルに入れています。
今回出品している16名はみな、横浜で学んだ作家たちです。横浜のほんの一角で、こんなに熱量が生まれたこと。それが最大の魅力ですし、若い人たちの作品からこの分野の未来を感じ取ってもらえたらうれしいと考えています。

伊藤さんの手元にはニャッキのマスコット。

 

伊藤有壱(いとう・ゆういち)

1962年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。ビジュアルエフェクツ、コンピューター映像制作を経て 1995年I.TOON Ltd.を設立。同代表。2006年より横浜に本拠地を移転。2007年横浜文化賞・文化芸術奨励賞受賞。代表作に クレイアニメ「ニャッキ!(NHKEテレ)」、「ミスタードーナツ『ポンデライオン』」、横浜をモデルにした短編「ハーバーテイル」(チェコZLIN FILM FESTIVAL最優秀アニメーション賞・観客賞受賞)、「ガーデンベア(『全国都市緑化よこはまフェア2017』公式キャラクター)」等。東京藝術大学大学院映像研究科 教授。日本アニメーション協会理事。

 

 

Interview02
人形だからこそ表現できる「不気味さ」にこだわった作品
秦俊子さん

国内外の様々な映画祭で受賞した修了作品『さまよう心臓』を出展している秦俊子さん。卒業後も数々の話題作を生み出し、NHKの映像制作にも携わっています。そんな秦さんの原点である『さまよう心臓』はどんな作品なのでしょうか。

 

——今回の展示作品『さまよう心臓』を見て、ちょっと怖い、という印象を受けると同時に、学生がつくったとは思えないクオリティに驚きました。

修了制作に取り組んでいた頃、1970年代のアメリカのホラー映画に興味があったんです。でもあまりストップモーションのホラー作品がないな、と思っていて。それで、人形の怖さを生かしたホラー映画ができないか、と取り組みました。主人公は小学生の兄と妹。廃墟に立ち寄った二人ですが、やがてマネキン人形のモンスターに妹は心臓を奪われ人形になってしまう。ややこしいのですが、「人間」としての人形、「人形」としての人形を描き分けています。実写では表せない人形ならではの動きや表情、光と影の演出など、「怖さ」にこだわった作品です。
大学では先生たちからよく「ストップモーションで表現する必然性」とよく問われました。そのとき、人形だからこそ表現できる不気味さを強調することで、ストップモーションで表現する意義を考えていました。

秦俊子『さまよう心臓』

——秦さんがストップモーションで作品をつくるようになったのはなぜですか。

実は、学部では工芸科で染織を専攻していました。でも映画づくりがやりたくて、ダブルスクールで実写映画を学んでいたんです。ただ、実写は作家が一人でキャラクターやセットをつくることは難しい分野。それで、登場人物もセットもすべて自分で考えることができるストップモーションという方法を知り、まずは独学ではじめました。

秦俊子さん。

 

——それで大学院では伊藤先生のゼミに入ったんですね。『さまよう心臓』を制作してから約6年を経て制作した最新作『パカリアン』は、どのような作品でしょうか。

こちらもホラー映画ですが、コメディ要素が強く子供も楽しめると思います。『さまよう心臓』は上映会場によってR指定になる場合もあります。「怖すぎて見られない」という方もいます。それはそれでいいかもしれませんが、今回はもっと多くの方に親しまれる作品をつくりたい、と思ってつくりました。そう考える理由の一つには、日本のアニメーション文化の現状があります。日本は「アニメ」というと、どうしてもマンガを原作にした2Dのイメージがぬぐえません。実際に私の作品を見て、「なんだ、アニメじゃないじゃん」と言ったお客さんもいらっしゃいました。なので、ストップモーションを広く知ってもらえるようにしたいです。
また日本は、実績のない若手のアニメーション作家はスポンサーを得ることが難しい現状もあります。そのためにも、いかに楽しめるか、面白いと思ってもらえるかが大事だと考えています。『パカリアン』は、俳優の斎藤工さんが声優を担当してくださっていますし、たくさんの方に楽しんでもらえる作品になっていると思います。

『さまよう心臓』に登場する主人公の人形。人形をふくめ、音楽以外はすべて秦さんが一から手がけた。

 

秦俊子(はた・としこ)

アニメーション作家。1985年生まれ。2011年、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。修了作品『さまよう心臓』が国内外の様々な映画祭で受賞、上映される。監督作には、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013スカラーシップ作品『メロディ・オブ・ファンハウス』、自主制作短編アニメ『パカリアン』(2017年)、斎藤工さん企画・原作のクレイアニメ『映画の妖精 フィルとムー』(2017年)などがある。他にNHK BSプレミアム「ワラッチャオ!」のアニメやNHKみんなのうた「ヤミヤミ」、おかあさんといっしょ「おもちゃのブルース」等のアニメを担当。

http://hatatoshiko.net

 

 

Interview03
フェルトの人形で、カラフルで不思議な世界を描き出す
当真一茂さん、小野ハナさん(UchuPeople)

横浜でUchuPeopleというアニメーション制作の会社を立ち上げたばかりの当真一茂さんと小野ハナさん。今回の展示では、当真さんの修了制作『パモン』を出展、また二人の作品としてCM映像『薬王堂WA! CA』を出展しています。

 

——『羊毛フェルトで制作した人形が独特の世界観をつくり出しているとても魅力的な作品ですね。羊毛フェルトという素材の魅力も大きいのかなと思いました。

当真: 私は、小さい頃からキャラクターや生き物を頭のなかで想像するのが好きだったんです。ストップモーションに出会ったとき、これはそういった架空の世界を表現できる格好の方法だと思いました。そのうえ2Dのアニメーションと違うのは、つくったものを映像におさめるだけではなく、実際の物体として手元に置いておける。それも魅力の一つですね。

当真一茂さん。

 

小野:最近はフェルトの種類も増えていますし、柔らかいので人形も動きをつくりやすいです。クレイなど、ほかの素材もそれぞれ特性はあるのですが、フェルトもアニメーションには向いてる素材だと思います。

当真:質感も好きです。修了制作の『パモン』の世界はずっと自分のなかにあって、当時の集大成ともいえる作品です。大学院は設備が充実していたので、広いセットで思う存分に制作することができましたね。

当真一茂『パモン』

——UchuPeopleとしては、今回、CMとなった作品も出されていますよね。

小野:その作品は、東北で展開しているドラッグストアのCMで流してもらっているものです。このCMを含め、私たちの作品は赤ちゃんが興味を持って見てくれるみたいです。生き物かどうかを本能的に感じ取ってくれるのかもしれません。

当真:赤ちゃんが凝視してくれるのは嬉しいですね。でもテレビなど子供向け番組の影響もあるのでしょうか、人形アニメ=子供向けと捉えられることが多いなと実感しています。最近、テレビアニメの『ポプテピピック』にも作品を提供していますが、このアニメは放送も深夜で大人でも楽しめる作品です。こうしてアニメーションに対する固定観念がいろいろなところで壊れていけばいいな、と思います。

小野:固定観念というと、当真は「男性なのに手芸をやるんですね!」と驚かれることもあるよね。

小野ハナさん。

 

当真:アニメの世界は自由そうにみえて、そうでもない部分も結構あります。もっとボーダレスになればおもしろい作品が生まれてくる。小野は大学ではドローイングでアニメーションをつくっていましたが、僕らはドローイングとストップモーションの技法を混ぜた作品もつくっています。

小野:学生のころ、周りも構成や素材を柔軟に考える学生が多く、私も鍛えられました。「アニメーションはこういうもの」と凝り固まらず、例えば一つの技法だと割り切ってしまうことで、そこからさまざまな表現が生まれるのではないでしょうか。実はアニメーションと一口にいってもあらゆる技法がある。それをつぶさに理解することで、より柔軟な見方が広まればいいなと思います。

当真:日本では、手描きやコンピューターグラフィックスを用いた映像制作会社が圧倒的に多く、ストップモーションはまだまだマイナーな手法かもしれません。今回の展示をきっかけにストップモーション・アニメーションがより認知されたらいな、と思います。

当真さんと小野さんの会社・UchuPeopleのキャラクター。素材はもちろんフェルト。

 

当真一茂/小野ハナ(とうま・かずしげ/おの・はな)

フェルトを使用した人形アニメーション作家・当真一茂と、ドローイングでアニメーションを制作する小野ハナ。2017年よりユニット「UchuPeople」として活動し、TVアニメ「ポプテピピック」への参加、ドラックストア薬王堂のキャラクター制作・CM制作、NHK沖縄放送局「うちなーであそぼ」内の映像制作などを手がけている。2017年11月、横浜にて映像制作会社・UchuPeople(ウチュウピーポー)を設立。キャラクターデザインやシナリオ・コンセプトの構想から、造形、作画、撮影、編集までアニメーション動画の制作を一貫して行う。

https://www.uchu-people.com

 

[聞き手・構成:佐藤恵美/撮影:森本聡]

 

越境するアニメーション

横浜美術館 主任学芸員 松永真太郎

平面上、あるいは立体空間に創出される、静止した光景。そこに少しずつ変化をつけながら静止画を撮りため、連続映写することによって、動く絵、あるいいは動く写真へと変換する。この「アニメーション」と呼ばれる手法は、「映画」の中の一ジャンルとみなされがちだが、パラパラアニメなどの例もあるように、原理的には映画の誕生よりはるか以前から試みられてきた。「絵を動かす」という欲求にもとづく原初の表現がアニメーションだとすれば、逆に映画をアニメーションの「子」と捉えることもできる。
アニメーションの特性として挙げられるのが、画面内の構成要素の数量、形、動きの調整(特に単純化による強調)の自在性、つまり表現の自由度の高さである。1920年代に興隆したアヴァンギャルド芸術運動において、多くの芸術家が映像を用いた実験を展開したが、彼らがより純粋で強度のある「形」と「動き」の表現を追求すればするほど、その手法はおのずとアニメーションへと向かっていった。
一方でアニメーションは、まさにその表現の自由度の高さと明解さゆえに、年少者にとっての娯楽や教育素材としても格好のメディアであった。そのため戦後長きにわたり、アニメーションというと、制作手法や形式上のカテゴライズとしてよりも前に、「子供向け」という需要上の区分で認知されがちな状況が続いた。しかしここ20年ほどのアニメーションをめぐる著しい情勢変化-たとえば「ジャパニメーション」という造語まで生まれた日本の商業アニメの世界的ブーム、それに対峙するかのような個人レベルでの様々なアニメーション表現の隆盛、それらに呼応した教育現場におけるアニメーション学科の設立やカリキュラムへの導入の急増など-が象徴するように、アニメーションはひとつの自立的な文化として、表現者・需要者双方から「再発見」され、ジャンルとしての成熟に向かいつつあるようにも見える。
紆余曲折を経ながら積み重ねられてきた、アニメーションという表現をめぐる様々な取り組み。そこに何らかの通底するものを見出そうとするなら、それはある既成の枠組み-すなわち「時間」であるとか、「空間」(視野)、あるいは「死」といった、現実世界ではいかんともしがたい絶対的な存在-を乗り越えようとする、「越境」の欲望ではないか。
越境の志向が表現者をアニメーションへと駆り立て、ときにアニメーションという手法自体をも解体して、名状しがたいハイブリッドな視覚世界へとなだれ込んでいく。そんな多様化したアニメーションの現在地点を眺めながら、ふと思い起こせば戦前のアヴァンギャルドシネマの多くもまた「映像にアニメーションを取り込んだ不分明な表現」というべきものであったことに気づく。「アート」という概念から捉えなおされつつある現代のアニメーションは、おのずとその表現を原点へと立ち戻らせているのかもしれない。

 

 

【イベント概要】
ストップモーション アニミズム展

会期:2018年3月4日(日)〜3月18日(日) 月曜休廊
時間:10:00-19:00(最終日は17:00まで)
入場:無料
参加作家:伊藤有壱、石井寿和、小川育、栗原萌、河野宏樹、河野亜季、白井慶子、秦俊子、宮澤真理、当真一茂、若井麻奈美、坂上直、武田浩平、廣安正敬、餅山田モチ世、宮崎しずか、Mandy Lam
会場:フェイアート ミュージアム ヨコハマ
住所:神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-33-2 横浜鶴屋町ビル1F
アクセス:横浜駅(JR各線、東急東横線、みなとみらい線、相鉄線、横浜市営地下鉄ブルーライン)徒歩6分

http://stopmotionanimism4.wixsite.com/sma2018