多様な人が溶け合う芸術祭「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017『不思議の森の大夜会』」スペシャルツアーレポート

Posted : 2017.11.24
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「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」は3年に一度開かれる、“障害のある方”と“多様な分野のプロフェッショナル”による現代アートの国際芸術祭だ。2014年に「ヨコハマトリエンナーレ」の開催年に合わせてスタートし、今年2度目の開催となった。今回のテーマは「センス・オブ・ワンネス(とけあうところ)」。5月下旬から来年1月までの会期は3部に分かれており、第1部ではワークショップや公開制作、障害のある人が創作活動に参加しやすくなるような環境づくりを研究するアクセシビリティプログラムなどが行われ、市民参加型の創作期間となった。そして、第2部の10月7日〜9日の3日間では、象の鼻パークを舞台に、作品展示とパフォーマンスの発表を行う「不思議の森の大夜会」が開かれた。「不思議の森の大夜会」の開催中は、会場内に展示されたアート作品とパフォーマンス公演をめぐる、スペシャルツアー「不思議の森の大夜会」フルコースも開催。“ウサギ”が案内するという、ちょっと不思議なスペシャルツアーをレポートする。

 

海から始まる「不思議の森の大夜会」ツアー

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017(以下、パラトリ)」のスペシャルツアーは、みなとみらいにある「ぷかりさん橋」から始まった。ここは横浜港を往来する水上バスや遊覧船の発着場。待機していた一艘の船に乗り込むとしばらくして出航した。同船していたサーカスの衣装を着たパフォーマーが2人、「さあみなさま!お揃いで!」と突然喋り出す。彼らは“不思議の森”から来た“ウサギ”で、ここからパラトリの会場へ案内してくれるという。
「今日も明日もそのまた次の日も、人間として暮らしていけると思っているみなさま、私たちの森へようこそいらっしゃいました」と、“不思議の森”にいる“Mr.ウサギ”という者からのメッセージを読み上げ、ツアーはスタートした。

この2人のウサギたちをはじめ、会場でパフォーマンスを繰り広げるのは、総勢59名に及ぶ市民パフォーマー。オーディションで選ばれた5歳〜55歳の市民が約5カ月間、演出を務めるMr.ウサギこと、ダンサーの熊谷拓明(くまがい・ひろあき)と共に練習を積んできた。

 

ウサギたちによる歓迎とパフォーマンス

パラトリ楽団による演奏

Mr.ウサギと市民パフォーマーのウサギ

 

約20分間、横浜港を遊覧した船は、メイン会場・象の鼻パークのある港に到着。市民マーチングバンド「パラトリ楽団」による演奏、そしてMr.ウサギらに出迎えられ、いよいよ会場である「不思議の森」へと誘われる。ウサギたちと来場者で賑わう象の鼻パークには、広い芝生の斜面に4つのアートステージ、そして斜面を降りたところに円形のパフォーマンスステージ、その隣にフードステージとマーケット。それらのステージをつなぐように、アーティストの井上唯(いのうえ・ゆい)による、白く軽やかな網でできたインスタレーション作品《whitescaper》が緩やかに会場全体を包んでいた。井上は5月から横浜市内、日本各地、アジア諸国において、通算30回以上ものワークショップで市民と一緒に特殊な糸を編み、この巨大な「網」を紡いだ。

会場には井上唯によるインスタレーション《whitescaper》

 

この日参加したツアーでは、初めに2つのアートステージをまわり、最後にパフォーマンスステージで「不思議の国の森の大夜会」を鑑賞した。
一つ目に巡ったアートステージは、横浜市内の障害者支援施設のシーダヒノキ工房と、アーティストの小林勇輝によるインスタレーション《Fairy of the cedar》。小林本人がイチゴの被り物をし、銀色の人形に囲まれパフォーマンスを行うこの作品は、小林が5年以上前から取り組む「New Gender Bending Strawberry」というシリーズだ。今回はシーダひのき工房に滞在しながら制作。イチゴの被り物をした利用者のポートレートも展示されていた。

シーダひのき工房×小林勇輝《Fairy of the cedar》

 

次に訪れたアートステージには、床面に広げられた大きな紙に青いペインティング。その周りでウサギたちがパフォーマンスを繰り広げていた。これは寺垣螢(てらがき・ほたる)(訪問の家 朋)×新川修平(片山工房)×藤原ちからによる《「ない」から始めるプロジェクト》。新川が所属する福祉施設・片山工房では、メンバーの一人が右足でペンキを蹴り、絵画制作を行っている。この手法を入り口に、「訪問の家 朋」のメンバーである寺垣がライブペインティングを行い、演劇批評家の藤原ちからが言葉を添えた。

寺垣螢(訪問の家 朋)×新川修平(片山工房)×藤原ちから《「ない」から始めるプロジェクト》

 

日が傾き地平がうっすらと赤くなる頃、最後に鑑賞したのはメインステージで繰り広げられる30分のパフォーマンスステージ。大きな皿に見立てられた円形のステージで、コース料理のように振る舞われる9つのショーが上演された。パフォーマンスのタイトルはイタリア料理店のような「ピッゼリア・ディ・パラトリ」。パラトリ楽団による生演奏で、ランドマークタワーを背にした空中ダンスのほか、プロのダンサーや市民パフォーマーによるさまざまなパフォーマンスが繰り広げられた。ダンサーのおどるなつこによる「あしおとでつながろう!プロジェクト」では、この日たまたま公園を散歩していた子どもが、タップダンスのワークショップに参加して舞台に飛び入り出演も。こうして約2時間のツアーは終了した。

金井ケイスケ(演出・振付・出演)によるパフォーマンスステージの開幕。端末を借りると、詩人・三角みづ紀による声の解説が聞ける

吉田亜希、かんばらけんた、鹿子澤拳、南雲麻衣による空中パフォーマンス (エアリアル)

森田かずよと定行夏海によるデュオ・パフォーマンス

 

 

誰もが参加できる場所を目指して

パラトリの総合ディレクター・栗栖良依(くりす・よしえ)は、ツアー終了後「違う分野の人が一つのものを作り上げるため、既存の領域では想定し得ないことが出てくる大変さはありました」と振り返った。障害のある人もない人も、プロもアマチュアも、多様な人たちが同じ舞台で表現するのがこのパラトリの魅力。新たな表現に挑戦するパラトリだからこそ、さまざまな困難があったことがうかがえる。
「来場された方からは『センス・オブ・ワンネス(とけあうところ)』というテーマの通り溶け合っているように見えた、という嬉しいコメントをもらいました。これまでは一生懸命走ってきて振り返る余裕がありませんでしたがひとまずホッとしました」と笑みを浮かべた。
初めて来場したという近所に住む夫婦は、「タップダンスのワークショップに参加してそのままステージに上がっている子供もいましたが、地域のイベントにふらっと遊びに来て、舞台に参加できるイベントは希少だな、と思います」と話した。また、今回は2度目の来場という県外からのツアー参加者にも感想を聞いた。「前回よりも参加する人が広がっているのがいいな、と思いました。障害のある人やプロのダンサーがどのように関わってきたか、今後はそのプロセスが見える仕掛けに期待したいところです」。

第2部の「不思議の森の大夜会」が開催された3日間では、練習を積んで参加した人も、当日飛び入りで参加した人も、一つの舞台の上で時間を共有した。多様な関わり方を見事に一つの舞台で表したヨコハマ・パラトリエンナーレ2017。第3部の記録展示では、その仕組みやプロセスを紹介して次回に繋げる。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017開催の様子をより深く知りたい方、当日会場に足を運べなかった方は、現在行われている記録展示をぜひご覧いただきたい。パラトリの第3部となる記録展示は来年1月まで象の鼻テラス戸塚区総合庁舎栄公会堂を巡回している。
次の開催は2020年、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる年。このムーブメントがこれからどのように変化していくのか。今後の展開も見逃せない。

 

[文:佐藤恵美/写真:大野隆介]

 

【イベント概要】

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017
sense of oneness とけあうところ

会期:2017年5月27日(土)~2018年1月27日(土)
会場:象の鼻テラス、象の鼻パーク、横浜ラポール、横浜市内各所
主催:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会、特定非営利活動法人スローレーベル
共催:横浜市
助成:平成29年度文化庁文化芸術創造活用プラットフォーム形成事業
認証:beyond2020プログラム
公式HPhttp://www.paratriennale.net/

 

「第3部 記録展示」を開催中!

日程/会場:
11月21日(火)〜 12月11日(月)/象の鼻テラス
12月22日(金)〜12月26日(火)/戸塚区総合庁舎 3階 区民広間
1月20日(土)〜1月 27日(土)/栄公会堂

http://www.paratriennale.net/program/schedule/

 

アート、福祉、まちづくりなど、さまざまな角度からパラトリを語るトーク、「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017を語る会」を開催!

日程:12月1日(金)
会場:象の鼻テラス
スケジュール:

[13:30〜]
第1部 パラトリエンナーレを語るトーク

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017について
プレゼンテーター:栗栖良依(ヨコハマ・パラトリエンナーレ 総合ディレクター)

アートステージについて
司会:野崎美樹(特定非営利活動法人スローレーベル プロジェクトマネージャー)
登壇者:青木拓磨(シンガーソングライター、ミュージシャン)、小林勇輝(パフォーマンスアーティスト)、聖坂学園 シーダひのき工房、和田夏実(未踏スーパークリエイター)

[15:45〜]
第2部 パラトリエンナーレを語るトーク

パフォーマンス・ステージについて
司会:栗栖良依(ヨコハマ・パラトリエンナーレ 総合ディレクター)
登壇者:熊谷拓明(ダンス劇作家、ダンサー)、田中未知子(瀬戸内サーカスファクトリー代表)、森田かずよ(義足の女優、ダンサー)、ほか

[17:00〜]
第3部 シンポジウム
「ヨコハマ・パラトリエンナーレと横浜の街づくり」
ファシリテーター:恵良隆二(横浜市芸術文化振興財団 常務理事)
登壇者:猪股篤雄(神奈川県住宅供給公社 理事長)、栗栖良依(ヨコハマ・パラトリエンナーレ 総合ディレクター)、早瀨憲太郎(デフリンピアン)、矢内原充志(スタジオニブロール代表)

 http://www.paratriennale.net/recruit/267/