BankART Studio NYKで開催中の「日産アートアワード2017」 グランプリに藤井光さん

Posted : 2017.10.16
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BankART Studio NYKで開催されている「日産アートアワード2017:ファイナリスト5名による新作展」。日産自動車が主催する現代美術の賞で、2013年にスタートし、2年に一度開催されている。初回から会場となっている日本郵船横浜海岸通倉庫を改修したアートスペース、BankART Studio NYKでは、9月16日より第一次選考を通過したファイナリスト5名がそれぞれ新作を展示。この5名の中からグランプリに藤井光氏、オーディエンス賞に横山奈美氏が選ばれ、賞の発表と授賞式が9月27日に行われた。

日産自動車のカルロス・ゴーン会長(左)とグランプリを獲得した藤井光(右)。

 

グランプリに藤井光氏、オーディエンス賞に横山奈美氏

25名の候補からファイナリストに残ったのは、題府基之氏、藤井光氏、石川竜一氏、田村友一郎氏、横山奈美氏の5名。授賞式には日産自動車のカルロス・ゴーン会長のほか、南條史生氏(森美術館館長)、ジャン・ド・ロワジー氏(パレ・ド・トーキョー館長)、キム・ソンジョン氏(アートソンジェセンターディレクター、Real DMZ projectアーティスティックディレクター)、ローレンス・リンダー氏(カリフォルニア大学バークレー美術館、パシフィック・フィルム・アーカイブ館長兼チーフキュレーター)ら国際審査委員会も出席した。

グランプリは、「日本人を演じる」というテーマで行われたワークショップの記録映像や資料を組み合わせ展示した藤井光氏。藤井氏は映像メディアを中心に、社会の事象や歴史、関係性を再解釈し、新たな展望を提示する作品を制作している。今回の新作では1903年に日本で開催された「内国勧業博覧会」において実際に起きたある出来事を取り上げた。

「過去と現在で何が違い、何が継承され、何が忘却されてきたのか。それらを見る人に想像してもらえたらと考え、過去を現在に再現する作品を制作しています」と記者に向けた会見で藤井氏は自身の作品について語った。

「1903年は日本にとって大きな転換の年でした。輸入品の販売が自由化され、博覧会が開かれたのです。そのなかで、植民地化された地域の人々を本国に呼んで、住居を再現して住んでもらい、その様子を観察する、当時欧米社会で流行していた『人間の展示』を日本で初めて取り入れました。そこからわかるのは、日本はそれまで欧米にとってエキゾチズムとして『見られる』対象でしたが、『見る』主体へと変革した時期でもありました。ただ、この日本で行われた『人間の展示』は展示された人たちからの猛烈な批判にあい、中止になりました。
今回の作品では、その展示をもう一度再現/再演するというコンセプトのもと、演劇ワークショップを行いました。当時の日本人はどのように感じ、どのように思ったのかを、当時の新聞記事などを朗読して再現します。映像は5つ展示されていますが、そのうちの4つは台湾、朝鮮、沖縄、アイヌの“展示”された人を演じています。またもう一つのモニターでは役者同士でそれらの役決めを行なっている様子を写した映像を流しています」

藤井光「日本人を演じる」2017

 

 

複雑な日本の史実を取り上げ、問いを投げかけた作品

この作品について「異文化と交流し始めた頃の非常に複雑な日本の史実を取り上げ、ワークショップという手段を通じ、強いメッセージと問いを投げかけた」と語ったのは国際審査委員長の南條氏。また「今回のファイナリストは皆、自分の作品に実直に向き合っていたことが印象的」と、審査の総評を語った。「いかに日本の現状、世界の状況と深くつながっていることが重要だと考えました。藤井さんの作品は現在の世界情勢とも呼応し、他者と共存するとはどういうことか、日本のアイデンティティとは何かを提示し、文化や国籍を超えて様々な人に響く素晴らしい作品だった」と評した。

国際審査委員会委員長を務めた森美術館館長の南條史生氏。

 

展覧会に訪れた来場者の得票によって決定するオーディエンス賞には横山奈美氏が輝いた。絵画に関する記号や文字をモチーフにしたネオン管を実際に製造し、それを描いた10点の作品。明るく光るネオン管の後ろには配管が見え、光と共に存在する影の部分が描かれている。ここには、自身が絵を始めるきっかけともなった「西洋への憧れ」が投影されているという。

横山奈美による展示。

 

第3回を迎えた今回の「日産アートアワード」では、国際的に活躍する審査員5名と推薦委員10名による選考プロセスを経て選出された。グランプリの藤井氏には賞金とトロフィーに加え、ニューヨークのレジデンス施設であるインターナショナル・スタジオ&キュラトリアルプログラム(ISCP)に3カ月間滞在する機会が提供される。

日産自動車のカルロス・ゴーン会長。授賞式にて。

 

「あえて日産の事業とは遠い活動、ビジネスとは直接関係のない取り組みをサポートしたかったのです」とアートアワードを始めた経緯を語ったゴーン会長。
「 “会社の力”は、社員一人ひとりの自社に対するエンゲージメント(思い)とモチベーションから生まれるものだと考えています。そのなかで、会社をあげて才能ある作家の飛躍に貢献しているという事実は、それらをさらに豊かにすると思うのです。ビジネス上の実利はなくても、アワードを続けることで社員の誇りを養い、やる気を与えていると思います」
一見実利とは関係のないアートへの貢献が、時間をかけて社員のモチベーションにもつながっていく。本アワードはスタートしてまだ5年だが、副賞の規模も大きく、また審査員に世界で活躍する美術の専門家を起用しているなど、国内の現代美術シーンで重要な賞として注目を集めている。冒頭のあいさつで「このような取り組みが我が社以外でも広く行われることを願っています」とゴーン会長が語ったように、これからも企業とアートの良い関係を提示する先駆者として、日産アートアワードが続いていくことに期待したい。

左から、南條史生、田村友一郎、横山奈美、石川竜一、藤井光、題府基之、カルロス・ゴーン、キム・ソンジョン、アルフォンソ・アルバイサ専務執行役ローレンス・リンダー、ジャン・ド・ロワジーの各氏。 Photo: Yukiko Koshima

 

[文:佐藤恵美/写真:森本聡]

 

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【イベント概要】

日産アートアワード2017

会期:2017年9月16日(土)~11月5日(日)
開館時間:10:00-19:00
休館日:10月26日
料金:無料
会場BankART Studio NYK
住所:神奈川県横浜市中区海岸通3-9
アクセス:馬車道駅(みなとみらい線)6出口[赤レンガ倉庫口] 徒歩4分

詳細はウェブサイトから
http://www.nissan-global.com/JP/CITIZENSHIP/NAA/