10周年の黄金町バザール2017、見どころは住民参加のプログラム

Posted : 2017.06.26
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今年で10回目の開催を数え、節目の年を迎えた「黄金町バザール2017」。8月4日から11月5日の3か月間、「ヨコハマトリエンナーレ2017」の連携プログラムとして会期を合わせ展開される。掲げたテーマは「Double Façade 他者と出会うための複数の方法」。去る6月16日の記者発表会では、その全容が明かされた。アートが社会のなかでどう機能できるのか? という問いに向き合う6つのスペシャル・プログラムに、黄金町バザールの10年間にわたる取り組みの集大成を見ることができそうだ。

 

今年のテーマは「Double Façade他者と出会うための複数の方法」

 毎年新たなチャレンジに取り組んできた「黄金町バザール」。今年は6つの「スペシャル・プログラム」と、18組のアーティストが参加する展覧会を軸に、「アーティストが見た黄金町」展(横浜にぎわい座)、「のきさきアートフェア」「まちゼミ」などの連携イベントを交えて開催する。2014年に続きゲストキュレーターを迎える本展、招聘されたのはインディペンデントのキュレーターとして数々の展覧会や企画に関わってきた窪田研二さんだ。記者発表会に登壇したディレクターの山野真悟さんは、ディレクターとキュレーターの立場の違いについて次のように言及した。

「ディレクターの仕事は、大きな方向性や枠組みをつくることです。それをもとに、キュレーターの窪田さんがアーティストをキュレーションして、中身をつくっていく。そしてディレクターは、アートとコミュニティの関係を考えながら、その一つひとつの作品を現実にどのように落とし込んでいくかを整理します。」

記者発表会の会場。左からアーティストの松蔭浩之さん、西井夕紀子さん、窪田研二さん(ゲストキュレーター)、山野真悟さん(ディレクター)。プロジェクションされているのは参加アーティストのひとりCandy Birdさん(台湾)のビデオメッセージ。

 

かつては特殊飲食店が立ち並んでいた黄金町。ここではその歴史を背景に、地域、警察、行政、企業といった複数のコミュニティが交差する。黄金町という街の課題に向き合ってきた山野さんが、今年のテーマとして提示したのが「Double Façade 他者と出会うための複数の方法」だ。キュレーターの窪田さんは、このテーマをどのように受け取めたのだろう?

 

黄金町という街の特徴を、今の世界を見るときの“モデル”として考える

 インディペンデントのキュレーターとしていくつもの企画に取り組むなかで、窪田さんは常に「アートが社会のなかでどう機能できるか? コミュニティにどのような影響を与えうるか?」という問いに向き合ってきたという。今回ゲストキュレーターとして初めて黄金町バザールに関わる窪田さんは、黄金町という街の背景や歴史を、世界の情勢と対比させながらコンセプトを提示した。

「2005年に神奈川県警察本部による元特殊飲食店の一斉取締があり、アートの街へと変貌した歴史は、黄金町の最大の特徴と言えます。しかも50組に及ぶアーティストがレジデンスをしながら制作をしている。このような地域は、日本ではほかにはないと思います。今、世界に目を向ければ、保護主義や排他主義が広がる一方で、移民や経済格差が重要な社会課題となっています。アーティストたちはこれらの現実に向き合って作品を制作しているし、そういった状況が作品に反映されています。黄金町にはかつて約260店舗の特殊飲食店があり多国籍の方々がたくさん働いていましたが、それらが一斉取締された背景を考えると、黄金町を現在の世界の縮図と捉え、黄金町という街をひとつの“モデル”として考えることができる側面があるかもしれません。そして現在の黄金町は、アーティストや住民の方々、アジアの方々などが共存しています。今回の黄金町バザールでは、日常生活ではなかなか出会うきっかけがないこれらの人たちが、バザールという祝祭性のある場で出会うことができるいくつかのプログラムを考えました。」

今年の黄金町バザールは、黄金町に住んでいる方たちが参加できる複数のプログラムを実施する。記者発表会ではその「スペシャル・プログラム」に関わる2名のアーティスト、松蔭浩之さんと西井夕紀子さんが続いて登壇し、作品への意気込みを語った。

 

本展のテーマを体現する、住民参加の6つの「スペシャル・プログラム」

窪田さんが「スペシャル・プログラム」のひとつとしてはじめに紹介したのが、ボーグ・ダンスを学ぶワークショップと、一夜限りのBallroomイベントを実施する、アーティストのサン・ピッタヤー・ペーフアンさんだ。本展のメインビジュアルのモデルとしても登場している。タイ人とフランス人の両親のもと生まれたペーフアンさんは、コンテンポラリーダンサーとして活動するかたわら、1960年代にNYのゲイカルチャーのなかで生まれたボーグ・ダンスのダンサーとして活動を行っている。また、タイの伝統的なコミュニティとLGBTQ*の関係を考察し作品に反映するなど「Diversity(多様性)」と向き合うアーティストだ。

*レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ジェンダークィアといったセクシャルマイノリティ

Labyrinth Ball 2016 パフォーマンス風景 2016年。Vogue Ballroom イベントは9 月 15 日(金)に実施。

 

次に昨年の「黄金町バザール2016」で実施された黄金町の個人宅や商店に作品を設置する「バザールコレクターズ」を発展させた、「バザールコレクターズ・オークション」が紹介された。「バザールコレクターズ・オークション」では、地元住民を招いて「お金のかからないオークション」を開催するという。“お金ではないもの”で落札するオークションとは、いったいどのようなオークションになるのだろう? このプログラムのオークショニストを務めるのが、アーティストの松蔭浩之さんだ。1990年にアートユニット「コンプレッソ・プラスティコ」でベネチアビエンナーレに世界最年少で選出されたり、アーティストグループ「昭和40年会」の会長を務めたり、教べんを執る「美學校」では後進のアーティストに影響を与えるなど多岐にわたる活動で知られる松蔭さん。黄金町バザール参加への想いを語った。

「黄金町バザール10周年という節目の年に、満を持しての参加と捉えています。美學校の教え子だったChim↑Pomキュンチョメといったアーティストも参加していますが、1980年代生まれの作家の名前が並ぶなか、経験とキャリアを積んできた自分だからこそさまざまな角度からバザールにエネルギーを注ぐつもりです。今回オークショニストとして観客とバザールをつなぐ役割を担うことになりますが、『松蔭浩之が来たから楽しいバザールになった』と言われるようにしたいと思っています。」

バザールコレクターズ・オークションのオークショニストとして、観客とバザールをつなぐ役割への意気込みを語る松蔭さん。オークションイベントは8 月 4 日(金)に実施。

 

続いて「不満の合唱団 in 黄金町」が紹介された。本プロジェクトはヘルシンキを拠点に活動するテレルヴォ・カルレイネンとオリヴァー・コフタ=カルレイネンが2005年にはじめたもので、「オープンソース」として公開されているユニークなプロジェクトだ。この黄金町版を作曲家の西井夕紀子さんが、地元から集めた合唱団のメンバーとつくりあげ発表する。各地のアートプロジェクトなどで、地元の人たちとともに音楽や歌をつくり、日常のなかに音楽を届ける活動を続けている西井さん。ふだん「ポジティブな面を引き出す」ことを意識している彼女にとって、この取り組みはまったく逆のベクトルにあるという。

「不平不満って言わない方が周りの人にとっていいだろうと思って、言わないように遠慮してしまうものだと思うんです。でも音楽、合唱という“器”があることで、合唱作品としてその不平不満を成立させるところに面白さがあると期待しています。この合唱では人の不満を一緒に歌う状況が生まれるので、他人や自分の不満をとおしてその人の存在そのものを肯定するきっかけにもなるのではないでしょうか。」

西井さんはこの日の記者発表会で、「不満の合唱団」のミニパフォーマンスを用意していた。黄金町バザールの事務局スタッフと松蔭さんから、不満を集め作曲していたのだ。「休みが欲しい」「電車が混みすぎ」「この夏はドクメンタもヴェニスもミュンスターも行けない」といった事務局スタッフのユニークなものから、「やりたいことがない人たちがやりたいことがある人の邪魔をする」というアーティストの松蔭さん視点の不満が寄せられた。西井さんが披露した数分間のミニパフォーマンスには、 “不満”が“歌”になることってこんなに面白いのか! という驚きがあった。

「不満の合唱団 黄金町バザール事務局バージョン」を披露する西井さん。不満の合唱団パフォーマンスは8 月 26 日(土)、9 月 15 日(金)に実施。

 

その他のスペシャル・プログラムとしては、高山明さんの「遠くを近くに、近くを遠くに、感じるための幾つかのレッスン」ほか、「黄金町の歴史と記憶を辿るウィンドウギャラリー」、「シンポジウム『まちに出たアートはどこへ向かうのか?(仮)』」などが紹介された。 

10周年を迎えた黄金町バザールが、住民が参加できるプログラムを柱に展開する「Double Façade 他者と出会うための複数の方法」。チケットは会期中有効のフリーパスになっている。この夏はぜひ何度でも足を運んで、複数のスペシャル・プログラムのイベントを体験してみては?

記者発表会でメインビジュアルのポスターを囲んで集まる、黄金町バザール2017ディレクター、キュレーターとアーティストたち。

 

 文・及位友美(voids) 


【イベント情報】

黄金町バザール2017
− Double Façade 他者と出会うための複数の方法

会期
[vol.1]2017年8月4日 (金) 〜 9月13日 (水)
[vol.2]2017年9月15日 (金) 〜 11月5日 (日)
参加アーティスト(6月16日現在)
Atsuko Nakamura+陳亭君(チェン・ティンチュン)、毒山凡太郎、Candy Bird、チェン・ティンロン、Chim↑Pom、チョウ・チーファ、チョン・ボギョン、キュンチョメ、地主麻衣子、宇佐美雅浩、ジェイビー・デル・ロザリオ、菅実花、人見紗操、イ・セヒョン、有川滋男、スザンヌ・ムーニー、マツダホーム、プ・ユン、松蔭浩之、西井夕紀子、サン・ピッタヤー・ペーフアン、高山明/Port B、テレルヴォ・カルレイネン+オリヴァー・コフタ=カルレイネン
会場:京急線「日ノ出町駅」から「黄金町駅」間の高架下スタジオ、周辺のスタジオ、既存の店舗、屋外空地、他
開催時間:11:00~18:30 ※10/27-29, 11/2-4 は 20:30 まで開場
休場日:上記会期中の第2・4木曜日
チケット
会期中有効のフリーパス700 円(当日券のみ)※中学生以下無料
ヨコハマトリエンナーレ 2017 連携セット券
[前売]一般 2,100 円/大学・専門 1,500 円/高校生 1,100 円
[当日]一般 2,400 円/大学・専門 1,800 円/高校生 1,400 円
※ 連携セット券で同時期に開催する「ヨコハマトリエンナーレ 2017」と「BankART Life Ⅴ」にも入場できるお得なセット券です。
※ 前売券の販売は~8 月 3 日(木)まで、当日券の販売は 8 月 4 日(金)~11 月 5 日(日)の期間となります
主催:認定NPO法人黄金町エリアマネジメントセンター、初黄・日ノ出町環境浄化推進協議会

詳細はウェブサイトから
http://www.koganecho.net/koganecho-bazaar-2017/

連携チケット詳細は、ウェブサイトから
http://www.koganecho.net/contents/news/news-2064.html