可愛いのに不思議、繊細なのに大胆。大注目のアニメーション作家・和田淳展|私の沼<横浜美術館>

Posted : 2017.02.13
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横浜美術館にて、アニメーション作家・和田淳(わだ あつし)の個展「私の沼」が開催されている。国内外の映画祭で高い評価を受け、ベルリン国際映画祭短編部門の銀熊賞受賞など数々の受賞歴を持つ和田淳だが、公立美術館での個展は今回が初となる。見るとクセになる和田ワールドのレポートとともに、和田淳本人から今回の見どころを伺った。

和田淳《私の沼》2017年、HDビデオ5面

 

5つの場面が同時展開するマルチチャンネル

New Artist Picks「和田淳展|私の沼」展示風景、2017年 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

 

和田は、2002年ごろから独学でアニメーション制作を開始。繊細な線による描き込みと自分の体などを使って生み出される効果音、そして独特の”間”や”動き”で、一度見たら目が離せない独特の世界観を作り出している。国内外の映画祭で注目を集め、ノーウィッチ国際アニメーションフェスティバル Short Film部門Best Short Film賞やベルリン国際映画祭短編部門で銀熊賞などを受賞し、国際的にも評価が高い、今もっとも注目されるアニメーション作家のひとり。
一度見たら忘れられない印象を残す作品群だが、公立美術館での個展は今回が初めてだという。

ギャラリーの中に5つのスクリーンを設置し、5つのストーリーが同時に展開していくマルチチャンネル(複数画面)。ひとつの画面に意識を集中させる映画とは違い、何度でも見ることができる「美術館」という場所の特性をうまく使った新しい試みだ。

和田は、「部屋を見た時に、やってみたいと思った」と話す。

New Artist Picks「和田淳展|私の沼」展示風景、2017年 撮影:山中慎太郎(Qsyum!)

 

「これまで、複数の画面で構成する作品を作ったことはありませんでした。といっても、制作時の考え方は変わりません。今までの映画でも、いろいろな人やキャラクターがそれぞれに生活していて、それがどこかで関連しているように描いてきましたから。ただ、こういう場をあたえられたので、ちょうどいい表現手法として複数画面の投影をやってみたかったんです」

 

いくつもの”初めての試み”にチャレンジした、新しい和田ワールド

5つのスクリーンに映るキャラクターが、「沼」を中心にそれぞれの動きを自分の場所で展開していく。部屋の中心の柱の前に立つと、5画面全てを見ることができる。とはいえ、人の目はひとつの画面しか追えない。ひとつめの画面を見ていると目の端で別の画面に動きがある。思わずそちらに視線を動かすと、また別の画面が気になってくる。

ひとつひとつの映像は短く、3分程度。しかし、一気に全ての場面を見ることができないので、1周…2周…3周…と何度でも繰り返して観てしまう。観るごとに、「ここにこんな場面もあったのか!」「もしかして、この画面とさっきの画面がリンクしているのでは」と、新しい発見がある。

ギャラリーのエントランスにドローイングする和田氏。

 

「昔から、自分のベースにあるのは”何度でも観たいと思えるような作品を作る”ということ。今回の展示は、複数画面で投影することで、僕のその想いとシステムがうまくマッチした感じですね」

主にシャープペンシルを使って繊細に描き込んでいく絵作りにも定評がある和田だが、今回はペンタブレットで液晶画面に絵を描き込み、全てデジタルで仕上げている。とはいえ、”手で描く”ことには変わりはない。画材を変えたことによるストレスはなかったのだろうか。

「液晶タブレットは仕事では時々使っていましたが、作品の全てをデジタルで描いたのは初めてです。やはり最初は多少ぎこちなかったですが、慣れればそれなりに描けるようになるものです。道具は一長一短。”紙にシャーペン”の味も捨て難いですが、デジタルは1枚1枚スキャンをしなくて済むのがとても楽です(笑)。デジタルでしかできない表現もありますし、紙でしかできない動きもあります。自分の描きたいものにどんな表現がぴったりはまるのか、これからも模索は続きます」

ゆっくりとしたストロークを重ね、陰影をつけていく。

 

今回、もうひとつの「初めて」がある。
和田は、今までは「言葉を使わない表現」にこだわってきた。だからこそ、観る人が自由に想像の羽を広げ、それぞれのイメージを思い浮かべることができた。それが海外で受け入れられたきっかけのひとつでもあるだろう。
この展示では、その「言葉」の制約を外した。キャラクターがセリフを喋っているのだ。

「”言葉を使わない”というのは自分で決めたことですが、それにこだわらず作ってみたらどうなるのか、チャレンジをしてみました。初めて美術館の空間を与えられたということもあって、今回は思うままにいろいろな試みを取り入れて、表現させてもらっています」

立体的なインスタレーション「私の沼」はアートギャラリー1で。

 

さらに、美術館内の「Café小倉山」では過去作品がモニターで放映されているのと同時に、原画の一部も展示されている。のびのびと心地よいやわらかな線を、実際にその目で確かめることができる。
どちらの会場も入場無料。2月25日には関連イベントの上映会も実施されるので、新たな「和田ワールド」を堪能しに、足を運んでみては。

 

(文章:いしだわかこ)

 

展示限定メニューも! マシュマロ抹茶ラテ

和田の素朴でフワフワとしたアニメーションをイメージし、マシュマロを浮かべたホットドリンク。甘いホワイトチョコレート味が、やさしく懐かしい気持ちを呼び起こしてくれる。
440円(税抜き)。

 

【イベント概要】

New Artist Picks「和田淳展|私の沼」

期間:2017年2月3日(金)~2月28日(火)
営業時間:11:00~18:00
※2月23日(木)は16:00まで、2月24日(金)は20:30分まで 
※Café小倉山は10:45〜
会場:横浜美術館 アートギャラリー1、Café小倉山
住所: 〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
アクセス
みなとみらい駅(みなとみらい線)徒歩5分
桜木町駅(JR京浜東北・根岸線、横浜市営地下鉄ブルーライン)徒歩10分(<動く歩道>を利用)
TEL: 045-221-0300(代表)
定休日:木曜日 *ただし2月23日は開館
※入場無料

「和田淳展|私の沼」詳細
http://yokohama.art.museum/exhibition/index/20170203-482.html

横浜美術館
 http://yokohama.art.museum/