入江清美「終わる今夜」展/馬車道の週末ギャラリーで開催中

Posted : 2016.11.09
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週末だけオープンする関内・馬車道のギャラリーArt Connect Yokohama.(アートコネクトヨコハマ)にて、現代美術家/画家の入江清美さんの個展が開催されている。

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徹底的に作り込んだ陶器のようなマチエール

入江さんは横浜生まれ、横浜在住。2006年に多摩美術大学大学院を修了後、翌年にはBankART Studio NYKでスタジオアーティストとして制作を行う。地元・横浜での活動を続けながら、都内での展示を中心に、ニューヨークやシンガポール、スペインなど海外のアートフェアにも積極的に出展。そのダイナミックな作品はTVCMに使われたこともある。筆致を買われてか、神社の絵馬に使われる干支の絵を描くこともある。場所や媒体にこだわらず、幅広い活躍を続けているが、それを支えるのは彼女の持つ多様な創作手法にある。

「霜ふる終わる今夜」 キャンバス・ミクストメディア

「霜ふる終わる今夜」 キャンバス・ミクストメディア

 

「見た人の10人中8人は陶器に間違えます(笑)。けど、絵なんですよ」と語る今回の作品群。まずパネルを作り、石膏やセメントなどをミックスし独特な質感の支持体を作る。その上に薄く溶いた絵の具を何度も重ねていき、ようやく完成する。これだけマチエールを作り込めば、乾くのにも相応の時間がかかる。1作品の下地が乾くのを待つ間、他のパネルにテクスチャーを施す。まさに何層にも重なった「時間」を塗り込めるかのような作業工程だ。

「figure」木材 ミクストメディア

「figure」木材 ミクストメディア

「drawing」キャンバス アクリル 鉛筆

「drawing」キャンバス アクリル 鉛筆

 

あらゆる素材・技法に可能性を見出す

今回の個展では同じようにテクスチャーを施したオブジェやドローイングも展示。ギャラリー内は、「何で作られているのかわからない」「でも他では決して見たことのない」、入江清美オリジナルの世界観で満たされている。
もともと小学生の頃から書を習い、今では師範の免状も持っているという。また、学生時代は陶芸も習い、「大学進学の際は、画家か陶芸家か考古学か、どの方向に進むか迷いました。結局は、やっぱり絵を描くことが一番好きだったから美大の油絵科に進みました」と笑う。小さな頃から“会社員になる”という選択肢は一切なかったそうだ。

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好きな作家は、ハンス・コパー(陶芸家)、篠田桃紅(しのだとうこ/書家)、アントニ・タピエス(抽象画家)。「学生時代にこの3人を知り、作品を見た瞬間に『好きだ!!』と思いました。とてつもなく影響を受けています。私の作品は、この3人でできていると断言できます」。
とはいえ、決して模倣ではない。方向性は影響を受けながらも自分の表現を模索し、「ありとあらゆることをやった」そう。1つの表現に留まらないマルチな活躍は、あらゆる素材・技法に可能性を見出し、チャレンジできる類稀な技術力があってこそなのだろう。

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「五光 松・桜・月・雨・桐」「悲喜2」 パネル ミクストメディア

 

今回の展示のテーマは「終わる今夜」。時間や季節の移ろいをモチーフにした作品が集められている。アトリエが運河沿いだという入江さんは、暗闇から白々と夜が明けていく深夜帯に制作を行っているという。まさに、夜が終わる時間を身体で感じながら、作品に向かいあっているのだ。

 

「私、アートとエロと愛のことしか考えてないんです」

入江さんは、作品制作においては、ずっと「生と死」をテーマにしているそう。
空気、水、そして愛。物質的なものとそうでないもの、すべてを包括した「日々を生きる糧」。死を考えることは生を考えることにつながる、と入江さんは言う。
「人の喜びも悲しみも欲望も、全て作品に込めています。ここには植物をテーマにした作品もあるんですが、自然も日々の感情につながっている。そういうものが全て、『人間の生きる糧』だと思うんです」

「二度と離れない」パネル ミクストメディア

「滴る程、」「ラピスラズリの宮殿」パネル ミクストメディア

 

今後の展望を聞いたところ、「今後は……どうなるかなあ。いい絵を描きたい。ただそれだけです」と答えつつ、「将来のことはわかりません。私、基本的にアートとエロと愛のことしか考えていないんです」と笑いながら話してくれた。

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時間と、季節と、自然。抽象を描きながらも、本質的には人間を描いている。
なぜなら、我々もまた抽象的な概念を持った具象であるから。
そんな気持ちをごく自然に呼び起こす展覧会は、次の週末11月11日(金)、12日(土)、13日(日)の3日間で終了する。

「入江さんの絵は、静かだけどすごく力強さがあります。いちばん感じるのは、『感情の森羅万象』。季節の中に自分の心がリンクして、その感情がまた季節の移り変わりの中にすべて入っていく。覆い隠された強い熱情や嫉妬なども、愛が形を変えたものです。きれいなものの中にそういった強い感情が内在されている。それが入江作品の魅力だと思います。この『強さ』は、実物を見れば誰でも感じられると思います。ぜひ、その目で見て確かめてください」(オーナー:川久保悠里さん)

アーテイスト活動を始めて今年で10年目だという入江さん。その作品たちを見れば、常に新しい表現を取り入れてきた入江清美のこれまでの足跡を感じるとともに、これからの10年を期待せずにいられない。

(文・いしだわかこ)

 

入江清美(いりえ きよみ)

10_fdsc09098横浜市生まれ。2006年多摩美術大学大学院美術研究科油絵専攻修了後、横浜を拠点に活動。絵画をはじめ、書道や陶芸などの多様な技術を取り入れ、独特の世界観を作り出す。テクスチャーにこだわった作品は、日本のみならず海外でも高く評価されている。

展示:2008年 KIYOMI IRIE one-man show2(espacio TAO/マドリード、スペイン)、2013年 アートプログラム in鶴林寺(兵庫)、WOELDS APART FAIR(コンラッドホテル/シンガポール)、2014年 あなたはまるで饒舌なタブラ・ラサ(art gallery closet) 東京、2015年 NEW CITY ART FAIR NewYork2015(hpgrp GALLERY NEWYORK/ニューヨーク)、他多数。
TVCMへ作品提供多数。
現在、イタリアの高級家具メーカー「Minotti」の青山ショールーム、「Minotti COURT」にて、作品を展示されている(2017年半ばまで)。

 

Art Connect Yokohama.(アートコネクトヨコハマ)

11_fdsc09120馬車道通り近くにある、週末のみオープンするギャラリー。絵の展示はもちろん、ライブ、ファッションショー、美容やクラフトのワークショップなど、多彩なイベント会場ともなる。
今回の入江さんの個展では、著名なジャズギタリストを呼び2時間にわたる生演奏を披露。アートと音楽が一体となり、この場でしか味わえないライブ感を生み出した。
横浜のアート発信地として、「もの」と「ひと」との交流をはかり、コネクトしていく出会いの場を目指している。

 

営業時間:金・土・日 11:00〜18:00
住所:神奈川県横浜市中区太田町5-69 山田ビル302
TEL: 045-226-3470
https://www.facebook.com/Art-Connect-Yokohama