あざみ野で「悪い予感のかけらもないさ」展。 5人の作家の”パーソナルなモノローグ”

Posted : 2016.10.07
  • mail
美術という枠や社会的評価に捉われずに、様々なジャンルの表現活動に目を向けて、現在進行形のアートを紹介する「あざみ野コンテンポラリー」。横浜市民ギャラリーあざみ野が企画する意欲的なシリーズ展だ。10月7日(金)から開催される7回目は「悪い予感のかけらもないさ展」。んっ、このタイトルはいったい…?

acvol7

RCサクセションの70年代の名曲『スローバラード』から

「悪い予感のかけらもないさ」とは、ロック・グループのRCサクセションが1976年に発表した『スローバラード』というラブソングの一節。駐車場に停めた車で彼女と一夜を過ごした青年の有頂天な幸せと、またそれがいつこぼれ落ちるかもしれない不安を、自らに言い聞かせるような言葉で切実に表している。

このフレーズを今回の展覧会を企画した天野太郎学芸員に示したのは、出品作家のひとり、1990年生まれの関川航平だった。『スローバラード』はボーカルだった忌野清志郎亡き後も若い世代に歌い継がれていた。

天野さんは「このフレーズが持つ、切なさや、切ない中でもささやかな幸福を感じたい人間のリアリティは、時代を超えた共通感覚と言うべきでしょう。美術の表現には圧倒的な自由に支えられる環境が必要ですが、パーソナルなモノローグが喚起するような個の感覚を共有できなければ“表現”が保証されることはありません」と語る。

 

実用を選択する今の時代への危惧

天野さんは、個への共感をないがしろにし、合理性や実用性、早期の結果追求を優先させる現代社会の風潮を危惧している。

「大学なども人文科学や基礎科学よりも社会に役立つ分野が重視されていますし、教育の現場から美術の時間がますます削減されています」

効率だけを追求する社会は、何事にも捉われず、まだ見ぬ世界を作り出そうと試みる個体であるアーティストたちを生きづらくさせる。部分や個が排除される傾向に抗う気持ちで、天野学芸員はひとりの若者の独白を展覧会のタイトルに選んだ。そう、今一度、パーソナルということ、そして“作る”ことを展覧会を通して問いかけてみようというのだ。

「アーティストは“役に立たない”ものをひたすら作り続けます。一般社会から無駄だと思われても、その行為は決して無駄ではなく、観る人に人間本来の知覚を呼び起こし、豊かな精神を醸成するための機会なのです。果てしない創造性と自由をそこに感じることができるからです」

 

5人の作家の新作を含む約70点が一堂に

本展が取り上げたアーティストは岡田裕子、鈴木光風間サチコ金川晋吾、関川航平の5人。天野さんは「悪い予感のかけらもないさ」のテーマと、緩やかな関係を感じさせる作家や作品を選んだという。それぞれが抱いたり、培っているパーソナルな感覚を、映像、絵画、版画、写真、インスタレーションと、独自の手法で表現している。本展覧会が初公開となる作品もあり、見応えのある内容となっている。

岡田裕子は、前年に発表した《カラダアヤトリ−プロローグ》に続き、架空の遊び「カラダアヤトリ」を素材にした新作インスタレーションを発表する。

1_okada_2016_karadaayatori

岡田裕子 / カラダアヤトリ〈中部ジャワのボロブドゥール寺院、月夜のワイサック祭に来た人たちが…〉/ 2016 / ビデオ・インスタレーション

 

映像作家の鈴木光は、東日本震災以降継続してきた《Fukushima Berlin》の最新作として短編映画を出品する。

鈴木光 / We don’t have any common history. / 2016 / ビデオ / 7分8秒       協力:梶村昌世, Zentrum für Flüchtlingshilfen und Migrationsdienste      (難民・移民支援センター)

鈴木光 / We don’t have any common history. / 2016 / ビデオ / 7分8秒 
協力:梶村昌世, Zentrum für Flüchtlingshilfen und Migrationsdienste      (難民・移民支援センター)

 

木版画という手法で辛辣でユニークな社会批判を繰り広げる風間サチコ貴重な90年代の作品に加え、最新の「ラッダイト学園」のシリーズを出品する。

風間サチコ / 獲物は狩人になる夢を見る / 2016 / 木版画(パネル、和紙墨)/ 91.3x121cm ©Sachiko KAZAMA Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production Photo:Kei Miyajima

風間サチコ / 獲物は狩人になる夢を見る / 2016 / 木版画(パネル、和紙墨)/ 91.3x121cm ©Sachiko KAZAMA Courtesy of the artist and MUJIN-TO Production Photo:Kei Miyajima

 

失踪を繰り返す父親の写真『father』で知られる金川晋吾本展では何十年も音信不明で近年消息がわかった叔母の写真シリーズ《Kanagawa Shizue》を初公開する。

金川晋吾 / Kanagawa Shizue / 2012(2016 プリント)/ インクジェット・プリント

金川晋吾 / Kanagawa Shizue / 2012(2016 プリント)/ インクジェット・プリント

 

パフォーマンス作品でも知られる関川航平は、実際にこの世に存在しないモチーフを描いた鉛筆ドローイング《figure》シリーズを出品する。

関川航平 / Figure / 2015 / 紙、鉛筆 / 39.4×50.9cm

関川航平 / Figure / 2015 / 紙、鉛筆 / 39.4×50.9cm

 

実はこの展覧会には、もうひとつ、裏テーマと呼べるものがある。それは自分の作品を何もないところから作り出すアーティストの取り組みを紹介すること。

「現代美術は、20世紀の後半から“作品の非物質性”を特徴とするようになってきました。実際に“もの”を作り出すことではなく、すでにあるものを移動させたり、組み合わせたりするアイデアや発想のユニークさが作品として評価されるようになってきたのです。この傾向は、デジタル化が極端に進む社会で“実体のない”ものに囲まれる環境をますます加速させていきました」

そんな中、一度立ち止まって、人間の手によって作られる世界を見つめ直す契機としてほしいと天野さんは考える。

 

展覧会の理解を深める関連イベント

展覧会では作家によるテキストやインタビューが掲載された無料パンフレットが先着で配布される。

また5人の作家が自ら作品を語るアーティスト・トークや、学芸員によるギャラリー・トークが企画されており、展覧会の理解を深めるには絶好の機会となっている。その他にも、岡田裕子による子どもを対象にした鑑賞会や、風間サチコが手ほどきをする木版画のワークショップ、また視覚に障がいのある人と一緒に楽しむ鑑賞会など、多様なイベントが会期中に予定されている。

(文・田中久美子)

 

【イベント概要】

あざみ野コンテンポラリーvol.7
悪い予感のかけらもないさ展

期間:2016年10月7日(金)~10月30日(日) ※10月24日(月)休館
時間:10時~18時 
会場:横浜市民ギャラリーあざみ野 展示室1・2
住所:横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野
アクセス
あざみ野駅(東急田園都市線)東口 徒歩5分
あざみ野駅(横浜市営地下鉄)1・2番出口 徒歩5分
料金:無料

詳細はウェブサイトから
http://artazamino.jp/event/azamino-contemporary-20161030/